メルセデス・ベンツ S400d試乗|極上のドライバビリティを味わえるフラッグシップディーゼルサルーン

Sクラスのエントリーモデルという位置づけではないS400d

メルセデス・ベンツの旗艦であるSクラスに、小さいながらも変革の波が押し寄せた。2.2リッター直噴ディーゼルターボにモーターを組み合わせた「300h」がラインナップから外れ、新たに「400d」が加わったのである。

いまSクラスの日本における販売比率は、ガソリンモデルが25%、プラグインハイブリッドが5%、ガソリン・ハイブリッドが40%、ディーゼル・ハイブリッドが30%となっており、この数字を見るだけでもはやガソリンモデルよりもハイブリッド比率の方が多いと判る。

そんな状況だけに「300h」は十分なセールスを記録しており、これがディスコンとなったのは決して不人気が理由ではない、と言うのがメルセデスの弁。

ちなみに300hは、カタログ燃費20km/L越えで車両価格も998万円(消費税込)と、Sクラスにおけるエントリーモデルの役目を担っており、Eクラスからのステップアップ組にも大きな支持を受けている。

そんな人気モデルをなぜカタログ落ちさせたのか?

その答えは、意外にもシンプルだった。

メルセデスは現在の電動化における道筋を、マイルドハイブリッドである「ISG」搭載モデルとプラグインハイブリッドに二極化したかった。ここにストロングハイブリッドを織り交ぜることは、会社規模的にも負担が大きいというのである。

しかしメルセデスのような企業が、ストロングハイブリッドの継続に体力不足を唱えるのはちょっと信じがたい。つまりメルセデスは、近い未来にEV化を見据えた上で、これが登場するまでの過渡期を現状のラインナップで継続するのが一番効果的である、と判断したのだと思う。

それと同時に今回発表したS400dは、300hに変わるエントリーモデルではない、と考えているようだ。要するに現在のSクラスは序列やヒエラルキーで選ぶのではなく、ユーザーニーズに応じてグレードをチョイスする。全ては並列扱いなのだという。

AMG GT Rと同等の700Nmにも及ぶ最高トルクを発揮

ということでS400dの立ち位置は、純然たるSクラスの新型ディーゼルバージョンということになる。

まず今回の目玉となる直列6気筒ディーゼルターボ「OM656」ユニットについて話すと、これはEクラスに搭載する直列4気筒ディーゼルターボ「OM654」や、S450に搭載されるガソリン用直列6気筒エンジン「OM256」と基本設計を共有するモジュールユニットとなっている。

シリンダーピッチを90mm、シリンダー間の厚みは8mmに狭めることで、全長をコンパクトにまとめ上げているのは、V6ユニットに変わって現代に直列6気筒を復活させたメルセデスの、ひとつの方法論であり回答だ。

またエンジン内部はアルミ製ブロックに対しピストンにはスティールを使うことで熱膨張率の違いを積極利用。常用時のクリアランスを最適化することで、従来のV6ディーゼルと比較して、22%も摩擦抵抗を低減した。そしてシリンダー外壁にはにナノスライド加工(スチールカーボン剤の溶射コーティング)を施し、低燃費性能を向上させている。

エミッション面では「マルチウェイEGR」を搭載。冷却された高圧排気再循環ガスと低圧排気再循環ガスを組み合わせることで、NOx処理を行う前にこれを低減させ、燃焼の最適化を図った。また排気側に装着した「カムトロニック」(可変バルブリフトシステム)が排気の一部を燃焼室に押し戻すことで、排気ガス浄化システムの活性化を早め、微粒子除去フィルター(DPF)も進化させている。

その燃費性能はS400dで14.2km/L、今回試乗したS400d 4MATICで13.3km/L。残念ながらS300hの驚異的な燃費性能(20.7km/L)には遠く及ばないが、マイルドハイブリッドであるS450(12.5km/L)を上回り、Sクラスいちの燃費性能となっている。

もちろん環境性能だけでなく、出力面でも新型直6ディーゼルには細かく手が入れられている。過給機としては2ステージターボチャージャーを搭載し、さらに小径タービン側には高価な可変ジオメトリー機構を採用。排気側ベーンを可変させることで極低速時から十分な過給圧を確保し、大型タービンと合わせて高回転までスムーズかつパワフルな出力特性を得ているのだ。

極上のドライバビリティを発揮するS400d

実際そのエンジン特性には、うならされるものがあった。

まず快適だったのは都市部の移動において、極めて速度が低い領域をアイドリング+αで全てクリアできること。アイドリング520rpmを謳うS450ほどの忍び足ではないものの、ディーゼルエンジンを意識させない出足の静かさがあり、少しアクセルを踏みさえすれば、分厚いトルクをもってその巨体をイージーに押し進めてくれる。

それはそうだろう。AMG GT Rと同等の700Nmにも及ぶ最大トルクは、1200rpmという回転数から発揮されるのだ。つまりS400dはS450よりも骨太に、ほとんどエンジンを回さずタウンユースを走りきってしまう。

それだけ高いトルク値を有するゆえに、少々雑にアクセルをオン・オフすると、9速ATの変速時に軽いスナッチを起こす場面はあった。

ただこれさえ理解して余裕をもった操作をしてやれば、S400dは極上のドライバビリティを発揮してくれる。

ともかくこれは強烈なオヤジキラーだ

試乗路は都内品川近郊から浦安までの街中~湾岸線経由だったが、コンフォートモードにおける電動パワステの軽やかさ、エアサスのゆったりとした上品な乗り心地は、ある意味ディズニーランドにも負けないアトラクションだった。

まったりとした足腰に、ミリ単位のアクセルワークでクルーズを可能とするエンジンのトルク特性は抜群にマッチしており、ACC(アダプティブクルーズコントロール)を使うのがもったいないくらい、しっとり堂々と走る。S400dは、ドライバーズカーである。

路面のうねりを伸びやかなサスペンションが乗り越えて、着地した瞬間にアクセルを軽く踏み込めば、グーッと背中を押すように加速して行く様は、恐ろしく気持ちが良い。

スポーツモードに入れてもパワステや足回りの制御が硬くなることはなく、むしろコンフォートモードの演出気味なエアリーライドがちょうどよく引き締まって、リニアな操縦性が得られるのは好印象だ。

そしてアクセルをきっちり踏み込めば、ガソリンユニットとはちょっと違う、どう猛で荒々しい6気筒サウンドとバイブレーションが楽しめる。

インテリアは過度なレザー装飾もなく、プレーンなソフトラバー。ここにメルセデスの最新インフォテインメントが加わることで、質実剛健ながらも広々とした、少し未来感のある室内空間が構築されている。

この素晴らしき控えめさこそがSクラスである。

個人的には日本のような速度域の低い環境で使うなら、より自然な操舵フィールが得られる後輪駆動が好みだが、ともかくこれは強烈なオヤジキラーだ。

よってドイツ本国では長距離エクスプレスとして本領を発揮するディーゼルが、日本においては燃費性能も兼ね備えた、ひとつの贅沢品となると感じた。

S300hは希代の名車だったが、それについてはEV時代の到来と共に、さらに驚愕すべきグレードが現れるだろう。S400dはそれとはまた別の、独立した魅力をもった一台である。

[筆者:山田弘樹 撮影:島村栄二]

メルセデス・ベンツ S400d 4MATICの主要スペック

メルセデス・ベンツ S400d 4MATIC 主要スペック

エンジン

直列6気筒DOHCターボチャージャー

駆動方式

4輪駆動

価格(消費税込)

1160万円   ※2018年12月31日までの価格

JC08モード燃費

14.2km/L

全長

5,125mm

全幅(車幅)

1,900mm

全高(車高)

1,495mm

ホイールベース

3,035mm

乗車定員

5人

車両重量(車重)

2,080kg

排気量

2,924cc

エンジン最高出力

250kW(340ps)/3,600-4,400rpm

エンジン最大トルク

700Nm/1,200-3,200rpm

トランスミッション

9速AT

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山田 弘樹
筆者山田 弘樹

自動車雑誌編集者としてキャリアをスタート。輸入車雑誌 副編集長、アルファ・ロメオ専門誌編集長等を経て、フリーランスのモータージャーナリストに。レース参戦なども積極的に行い、走りに対する評価に定評がある。AJAJ会員。カーオブザイヤー選考委員。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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