日産 新型スカイライン試乗記|手放し運転可能なプロパイロット2.0を公道テスト! ”技術の日産”が帰ってきた

目玉はプロパイロット2.0と自社製ターボエンジン搭載モデルだ

マイナーチェンジは、文字通り規模の小さな変更だが、日産 スカイラインは大きな注目を集めている。2019年7月(発売は9月)に発表されたマイナーチェンジでは、新しい運転支援技術のプロパイロット2.0と、V型6気筒3リッターツインターボエンジンを搭載したからだ。

>>往年の丸テールと自社製エンジンのターボが復活!【画像ギャラリー】

手放し運転が最大のトピック

関心が最も高いのはプロパイロット2.0だろう。ステアリング/アクセル/ブレーキの操作を支援する機能で、作動中は制御をクルマに任せられる。

従来型のプロパイロットでは、作動中にステアリングホイールを保持する必要があった。操舵の支援は行われるが、いわゆる手離し走行はできない。そこがプロパイロット2.0では手離しも可能になったから、作動中はすべての操作をクルマに任せられる。さっそく新型スカイラインの試乗を行い、プロパイロット2.0の使い勝手を公道上で確認した。

首都高など曲がりねった高速は作動せず

まずプロパイロット2.0が作動するのは、3D高精度地図データがカバーしている高速道路に限られる。そして中央分離帯のない場所、急なカーブ、GPS通信衛星の信号を受信できないトンネル、料金所などでは制御が中断される。

なお試しにワイパーを作動させたところ、間欠まではプロパイロット2.0が作動するが、連続した早い動きになるとプロパイロット2.0の動作は中断される。つまり強い雨の中ではやはりプロパイロット2.0は動作しないということだ。

また東京の首都高速道路など、インターチェンジが複雑で曲がりくねったルートも、予めプロパイロット2.0の作動ルートから除外されている。従ってプロパイロット2.0を使えるのは、カーブや合流、分岐などの少ない穏やかな高速道路に限られる。それでも一般的に高速道路といえば、このようなルートが多い。

路面中央を走るなど事故防止も抜かりなし

試乗では、晴天の日に渋滞のない高速道路に乗り入れ、左車線(第1通行帯)でプロパイロット2.0を作動させた。作動速度の上限は、制限速度(法定速度)プラス10キロだ。メーターの誤差等を考えると、プラス10キロまでは許容されるのだろう。

プロパイロット2.0のスイッチを押すと、青色のステアリングホイールの表示が出て、手離し走行が始まった。ステアリング/アクセル/ブレーキの操作を一切していないが、設定された速度でスカイラインは進んで行く。

従来型プロパイロットと明らかに異なるのは、ステアリングの制御だ。セレナでは、車線内を緩やかに蛇行することもあったが、スカイラインにそれはない。車線のおおむね中央を安定して走る。ステアリングホイールを自分で操作したくなる場面はなかった。

路面のギャップもなんのその! ステアリングが常に安定

それにしても、ステアリングホイールはあまり動かない。道路のカーブに沿って、緩やかに左右に傾くだけで、小刻みな進路調節はしない。セレナやエクストレイルのプロパイロットとは、動きが明らかに異なる。

そうなる理由は、スカイラインがダイレクトアダプティブステアリングを採用しているからだ。ステアリングホイールの動きを電気信号に変換して、操舵システムに伝えて前輪の向きを変える。ステアリングホイールと前輪は、直接繋がっていないから(故障した時を除く)、細かな前輪の動きまではステアリングホイールに伝えない。

この制御には、従来型プロパイロットに寄せられたユーザーの声を反映させたという。開発者は「ステアリングホイールが左右に細かく動くと、そこに目が行って前方を注視しにくいというお客様の意見があった。そこでスカイラインでは、小刻みな動きを伝えないようにした」とコメントした。この設定は良いと思う。

ビジュアルも楽しいリアルな表示

メーターパネルの中央にあるアドバンスドドライブアシストディスプレイには、プロパイロット2.0の作動に関するさまざまな情報が表示される。3車線と2車線では表示が変わり、自分が走っている車線を示す。車線を変えればディスプレイ内部の自車も、同じように車線変更する。

並走車両や追い抜いていく車両も、絵柄で示される。背の高い車両はトラック、背が低いのは乗用車、モーターサイクルの表示もある。かなりリアルだ。

周囲のクルマの動きを検知して車線変更を促す

試乗を続けていると、速度の低い先行車に追い付いた。ディスプレイに「前方に遅い車両が・・・」と表示される。そのまま左車線を走り続けても良いが、追い越しを試すことにした。ステアリングホイールを保持して、プロパイロットスイッチの上にある車線変更支援スイッチを押す。そうすると方向指示機が自動的に作動して、保持しているステアリングホイールが右側に動き、追い越し車線に移った。この時には、ディスプレイの表示が、ステアリングホイールの保持を示す緑色になっている。

追い越し車線でプロパイロット2.0を作動させることも可能だが、作動速度の上限が制限速度プラス10キロだから、なるべく走行車線を走りたい。3車線の場合は、一番左側を選びたい。

それでも実際に制限速度で走ると、かなりの台数のクルマに追い越される。制限速度で走る自車に過失はないが、交通の流れを乱せば、交通事故の遠因にはなり得る。走行を続けていると、先行車がいないのに、自動的に減速した。制限速度の標識が、それまでの時速80キロから時速70キロに下がったからだ。この制限速度支援機能は解除することも可能だが、基本的には制限速度を守る設定だ。

判断が難しいと思ったのは、部分的に工事を行っている区間で、時速50キロの制限速度が示された時だ。急な減速はしなかったが、車両の流れは時速70キロ前後だから、自車だけ速度を大きく下げることになってしまう。不安を感じたので、自分でアクセルペダルを踏んで周囲の流れに合わせた。

この問題は、制限速度と実際の走行速度に大きな差があるために発生している。プロパイロット2.0に責任はないが、使う時の注意点には含まれるだろう。

ドライバーの意思次第? プロパイロット2.0は眠くなる恐れも

プロパイロット2.0を作動させて気付いたのは、ステアリングホイールを保持しているか否かで、運転中の気分が変わることだ。従来のプロパイロットのようにハンドルを保持していれば、アクセル/ブレーキペダルの操作を車両に任せても、運転している自覚が保たれるが、ステアリングホイールから手を離して膝の上に置くと、運転の自覚が薄れて助手席に座っている感覚に近づく。

これではドライバーが眠くなることもあるため、ドライバーモニターが標準装着されている。目を瞑ったり脇見運転をしてみると「前を向いてください」とディスプレイに表示された。

そこから先は試していないが、この後も前を向かないと、連続的な警報を発するという。ハンドルを握る表示と併せて、注意喚起のためのブレーキングも行う。それでもドライバーが反応しないと、減速して停車して、専用オペレーターにSOSコールを自動接続する。

ながらスマホにフルリクライニングができてしまう……

次はプロパイロット2.0の作動中に、2つの実験を試みた。まずはクローズドコースにて、同乗者に前方をチェックしてもらいながら、運転席に座ってスマートフォンを注視してみる。スマホを低い位置、あるいはステアリングホイールの中央付近で持つと「前を向いてください」と注意された。しかし少し高くメーターパネルの手前で持つと注意されない。「ながらスマホ運転」ができてしまう。

「寝そべり運転」もやってみた。背もたれを大きく倒し、左肘を中央のアームレストに乗せて寄り掛かり、右手はドアの内側にダラリと乗せる。ちょうど寝そべってTVを観るような姿勢だ。顔の位置が下がり過ぎると注意されたが、前が見える程度の高さであれば何もいわれない。

 寝そべった姿勢では、プロパイロット2.0の作動が中断されても、即座に対応できない。プロパイロット2.0の作動条件には、運転席のリクライニング角度制限を加えても良いだろう。

試乗中に時々経験したのは、3D高精度地図データがカバーしていない場所だ。メーター内部にステアリングホイールを保持する緑色の表示が示され、プロパイロット2.0が中断する。こういう場面は意外に多いから、運転席でルーズな姿勢を取っていると危険が生じる。

新型スカイラインのプロパイロット2.0は良くできた運転支援機能だが、良識のあるドライバーが扱う「性善説」に基づく。警報もドライバーの身体に異常が生じたことを前提にしており、スマホを使うとか、寝そべるといった運転の仕方は想定されていない。つまり「クルマを正しく安全に走らせる」という、運転の本質が問われる装備でもあるだろう。

ダイレクトアダプティブステアリングは自然な印象に進化

マイナーチェンジ前からスカイラインに採用されていたダイレクトアダプティブステアリングの操舵感は、以前に比べると自然な印象になった。以前は反応が過敏だったり、柔軟なゴムを捩るような滑らかさに欠ける操舵感だったが、今はさほど不満はない。Uターンのために操舵角いっぱいに回した時、引っ掛かる手応えが気になったくらいだ。

V型6気筒3.5リッターのハイブリッドは、以前と同様に動力性能が高く、走行安定性も良い。車両重量は1800kgを超えるが、軽快でスポーティな動きをする。

不満を感じたのは乗り心地だ。突き上げ感は抑えて角は比較的丸い印象だが、乗員に路上のデコボコを伝えやすい。後席に座ると、硬さがさらに強調される。速度が高まるとフラットになるが、Lサイズセダンとしては、時速50キロ以下の乗り心地をもう少し穏やかにしたい。

V6 3Lツインターボモデルは“スカイラインらしい”アツい走りが味わえる

メルセデス・ベンツ製の2Lターボエンジンに代わり、新型スカイラインには日産製のV6 3Lターボエンジンを搭載する

スカイラインのマイナーチェンジで追加された自社製のV型6気筒3リッターツインターボにも試乗した。グレードはパワフルな400RではなくGTタイプPだが、ターボの装着で動力性能は自然吸気の4リッターエンジン並みだ。低回転域から十分な駆動力が確保され、直線的に吹き上がった。ツインターボのGTタイプPは、車両重量が1710kgだから操舵感も機敏で良く曲がるが、乗り心地はハイブリッド以上に硬い。

なおV6 ツインターボモデルには、残念ながらプロパイロット2.0の設定はない。

プロパイロット2.0起動中はスピード欲がなくなり、自然と安全運転に!

新型スカイラインのハイブリッドモデルは、プロパイロット2.0の快適性に特徴があり、長距離を移動する機会の多いユーザーに適している。

この機能を作動させていると「速く走りたい!」という高性能車にありがちな欲望も沸いてこない。現実的には時速70~80キロのいわゆる経済速度で走るから、ハイブリッドシステムと相まって燃料消費量も抑えられる。

いっぽう、v6 3リッターツインターボモデルは、峠道を走る旧来のスカイラインらしいグレードだ。長距離移動にも使えるが、最も楽しくて得意なのはスポーツドライブだろう。

ターボモデルにも人を検知する被害軽減ブレーキを

今後の課題は安全装備の充実だろう。新型スカイラインは、エンジンタイプによって先進安全装備の仕様が大きく異なるのだ。V6 3リッターツインターボモデルは、緊急自動ブレーキの歩行者検知を可能にせねばならない。今どき車両しか検知しないのは困る。

プロパイロット2.0を搭載出来るハイブリッドモデルには、最新の先進安全機能が充実する。しかし、SOSコールは更なる改善を望みたい。現在はプロパイロット2.0の作動時に限られてしまうが、エアバッグが展開した時にも、自動発信できるようにすべきだ。SOSの発信スイッチも欲しい。

このあたりは同じ日産で2019年にデビューした軽自動車「デイズ」を見習うと良い。これらの課題をすべて実現させているからだ。デイズのような軽自動車が好調に売れて、セダンの販売が下がる理由は、こういったところにもあるのだろう。今後もスカイラインを大切に育てて、セダンのカテゴリーと、日産を元気にして欲しい。

【筆者:渡辺 陽一郎/撮影:小林 岳夫】

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日産「プロパイロット2.0」にゼンリン「3D高精度地図データ」を採用

日産 スカイライン 3.5 ハイブリッド GT タイプSP 主要スペック比較表

車種名

スカイライン

グレード名

3.5 ハイブリッド GT タイプSP

価格(消費税込み)

560万円

全長×全幅×全高

4810mm×1820mm×1440mm

ホイールベース

2850mm

駆動方式

FR(後輪駆動)

車両重量

1840kg

乗車定員

5名

エンジン種類

V型 6気筒 DOHC

総排気量

3498cc

エンジン最高出力

225kW(306PS)/6800rpm

エンジン最大トルク

350Nm(35.7kg・m)/5000rpm

トランスミッション

7速AT

使用燃料

無鉛ハイオクガソリン

燃料消費率(JC08モード燃費)

14.4km/L

燃料消費率(WLTCモード燃費)

--km/L

燃料消費率(WLTC:市街地/郊外/高速道路モード)

--km/L

タイヤサイズ

245/40RF19

日産/スカイライン
日産 スカイラインカタログを見る
新車価格:
456.9万円948万円
中古価格:
26.2万円2,066.3万円

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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