ボクサーサウンドって何?かつてのスバル車は、なんでドコドコ音がするの?(2/2)

  • 筆者: マリオ 高野
  • カメラマン:オートックワン編集部・株式会社SUBARU
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等長エキゾースト採用でスバルの音が普通になってしまった!

そんなドコドコ音がついに消えたことでスバルのボクサーサウンドの大転換期となったのが、2代目インプレッサの中期型(2002年11月からのC型)、そして4代目レガシィ(2003年5月から)でした。筆者はドコドコ音大歓迎派だったので、「スバル車の音が普通になってしまった!」と大きなショックを受けたものです。

不等長エキゾーストマニホールドによる排気干渉は、エンジンの性能的にはない方が良いのは明らかで、当時のスバルファンの多くもそれは十分に理解はしていました。WRC参戦マシンがグループAからWRカーへ移行した時にも、等長化によるエンジン性能の向上を実感。「そのうち市販車も等長化される」と覚悟はしていましたが、やはり寂しさが禁じえなかったものです。

2000年代になるとスバルの客層も多様化し、ドコドコ音を許容する(歓迎する)人の割合が減ったのも事実でした。静粛性を向上させるためにも、ドコドコ音の排除は避けられないものだったのです。

不等長エキゾーストマニホールドが全盛の時代でも、実はNAのDOHCエンジンでは等長エキゾーストマニホールドを採用していました。

たとえば2代目レガシィのNA・DOHCでは、DOHCらしいスポーティな出力特性を発揮させるとともに、中低速のトルク特性を高めるために4ブランチY型等長エキゾーストを採用。フロントエキゾーストを前後気筒独立して等長で集合させることにより排気抵抗と排気干渉を減少させていたのです。3代目レガシィの2.5 DOHCも等長エキゾーストでした。

>>ボクサーサウンド全盛期のインプレッサやレガシィの画像を見る

他のエンジンにはないボクサーサウンドの個性を追求

等長エキゾーストになってからのボクサーサウンドには個性がなくなったのかというと、決してそうではありません。

スバルとしても、ドコドコ音を排除して静かなクルマを作り、新しい客層を広げようとする一方、他のエンジンにはないボクサーサウンドの個性を失うことのないよう、今も気を配っています。

こだわりが強すぎる!排気音の”調律”とは…!

たとえば4代目レガシィでは、全車等長等爆化したことで全エンジンとも中低速トルクが向上。各気筒からの燃焼圧力波が均等に干渉することになり、万人ウケする濁り感のない排気音となりました。音量が下がったことで騒音面でも劇的な改善が果たされましたが、ただ単に静かにしただけではなく、「新しいボクサーサウンド」作りにかける様々な工夫や取り組みが見られます。

4代目レガシィでは、水平対向エンジン本来の特徴である、こもり音につながる低次基本次数が小さいこと。そして大容量の吸気キャンバーが設置される独自のレイアウトを活かし、軽快でリニアなサウンドを目指しました。特に強くこだわったのは、車内のドライバーに聴かせる音作りです。

まずは、3代目レガシィまでのスバル車の課題であった、サスペンションクロスメンバーの共振は車体の高剛性化によって劇的に解消。エンジンの振動入力点から車内音までの伝達経路の問題点をクリアします。吸気系による音質創成では、特にNAエンジンで大きな成果をあげました。スロットルボディがエンジン房内のほぼ中央にあり、しかも車室内向きに設置されているという、縦置き水平対向エンジンならではのレイアウトを活かし、吸気チャンバーやエアクリーナーをスピーカーとして利用したのです。チャンバー内部のリブの削除や高さの変更、およびチャンバー面の曲率や肉厚変更により狙いの周波数域に合わせるなどして、音を調律しました。

特に走り出しの音をスッキリさせるべく、6.8リットルの大型サブマフラーと700mmロングテールマフラーを採用し、100Hz以下の低周波排気音を低減。さらに楽器のようにそれぞれの排気管を共鳴させることで中周波排気音を強調。マフラー流入口の多孔分散器と多孔パテーションの採用により、排気の流れの乱れを抑制しました。音質を悪化させる気流音については、排気の流れを微細な流れに分散しながら減速させることによって低減しています。

また、クランク系の打撃音やロードノイズなど、余計なノイズを徹底的に低減させたことでもクリアな音質を目指しました。前述した「吸音インパネ」という発想も各種ノイズの低減に大きく寄与しています。

BRZや現行型WRXでも不等長エキゾーストに交換するとドコドコ音が楽しめる

4代目レガシィが出た当初は、筆者をはじめとするドコドコ音歓迎派の従来型ユーザーから「静かになりすぎた」という不満の声も挙がりましたが、そう感じたのは、雑音の類が大幅に消え失せたからでもありました。

とはいえ、それでもなお「昔のドコドコ音が良かった・・・」という意見が消え失せたわけでもありません。

等長エキゾースト車に、あえて不等長エキゾーストに交換する人は今もたまに見られますし、BRZや現行型WRXでもドコドコ音を楽しむ人もいます。

ボクサーサウンドの質に対する好みや要望は様々ですが、筆者の場合は、等長エキゾーストのインプレッサG4(先代型)を普段のアシとして愛用しつつ、ドコドコ音全盛の初代インプレッサWRXも所有しているので、新旧それぞれの音色が楽しめるという恵まれた環境にあります。駐車場代が安い郊外暮らしの利点です。

そういえば、現行型のポルシェ・ボクスター/ケイマンは不等長エキゾーストを採用しているので、低回転域では90年代のスバル車を思わせる音色を奏でる瞬間があります。高回転まで回すと、ポルシェらしい金属音の方が強くなるので、ドコドコ音は目立たなくなりますが。

水平対向ならではのエンジンサウンドにも注目すべし

ところで、ボクサーサウンドというと排気音のことばかりが取りざたされますが、エンジン本体から聞こえるメカニカルサウンドや、前述した水平対向エンジンならではの補器類の配置を活かした吸気音などにも、他の形式のエンジンとは異なる個性が感じられることにも注目してほしいです。

筆者の感覚では、エンジン本体から発せられるメカニカルサウンドには、全世代すべてに共通した水平対向エンジンらしさが得られると思っています。ドコドコ音全盛時代から使われるEJ型や、それ以前の世代のEA型、さらに新世代のFB/FA型も、軸となる音色やフィーリングは不変であると感じるのです。

それはやはり、向かい合って動くピストンが互いに振動を打ち消し合うことで得られる緻密さや、短くて強いクランクシャフトの芯がビシッと整っている感覚がもたらす、水平対向エンジン特有の心地よい回転フィールに尽きるといえるでしょう。

オール電動化されるまでボクサーサウンドは不滅!

たとえば、筆者が所有する先代型のインプレッサG4 1.6iに搭載されるFB16(NA)は、言ってみれば何の変哲もない実用ユニットです。設計した人も、特に意識してスポーツ性を与えたわけではないと語ります。

しかし、それでもMTで乗ると同クラスの実用車向けの直4エンジンでは決して得られない痛快なフィーリングが得られることに、クルマを買ってから驚きました。最廉価グレード向けの実用ユニットでさえ、水平対向エンジンの美点やボクサーサウンドがしっかり味わえるのです(ATだと多少薄味になってしまいますが)。

現行モデルでも、ラインナップのそれぞれに個性的なボクサーサウンドが楽しめるのは嬉しい限り。オール電動化される時代まで、ボクサーサウンドは不滅です!

「水平対向エンジンがスバルのすべて」だとは決して思っていませんが、とりあえず今はスバルならではのボクサーサウンドを楽しみましょう!

[TEXT:マリオ高野/Photo: オートックワン編集部・株式会社SUBARU]

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マリオ 高野
筆者マリオ 高野

1973年大阪生まれ。免許取得後にクルマの楽しさに目覚め、ヴィヴィオとインプレッサWRXを立て続けに新車で購入。弱冠ハタチでクルマローン地獄に陥るも、クルマへの愛情や関心は深まるばかりとなり、ホンダの新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、ダイハツ期間工(アンダーボディ組立て)などを経験。2001年に自動車雑誌の編集部員を目指し上京。新車情報誌やアメ車雑誌の編集部員を経てフリーライターとなる。編集プロダクション「フォッケウルフ」での階級は「二等兵」。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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