最先端技術“スカイアクティブX”はマツダが目指す理想のエンジン像そのものだった【試乗&評価】

マツダ スカイアクティブ技術の新星 “スカイアクティブX”ってなんだ!?

ガソリンとディーゼルの利点を融合した理想的パワーユニット

近年のマツダ車は、一部のミニバンとOEM車を除くと“SKYACTIV”(スカイアクティブ)と呼ばれる新技術シリーズで開発されている。エンジンはガソリンが“スカイアクティブG”、クリーンディーゼルターボは“スカイアクティブD”とされ、いずれも新世代のパワーユニットに位置付けられる。

このスカイアクティブのメカニズムで、新たなチャレンジとされるのが「スカイアクティブX」だ。ガソリンエンジンでありながら、ディーゼルのような圧縮着火のメカニズムを盛り込んだ内燃機関の究極形とも言える独自技術だ。ただし運転状態に応じてスパークプラグも使い、幅広い領域で希薄燃焼による高い効率を維持する。今のところ、この圧縮着火技術を実用・量販化した自動車メーカーは世界にまだない。マツダではスカイアクティブXを2019年にも市販化したいとしている。

そこでマツダの新技術、スカイアクティブXが商品化された時のことを想定して、ユーザーにどのようなメリットをもたらすのか、損得勘定を含めて魅力的なエンジンになるのか、といったことを考えてみたい。

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同等のガソリンエンジン車に対し燃費が20~30%も向上

マツダ アクセラスポーツのボディを被せた試作車が搭載していたスカイアクティブXエンジンは、直列4気筒2リッターのガソリンエンジンで、最高出力は140kW(190馬力)、最大トルクは230Nm(23.5kg-m)だ。2リッターエンジンとしては動力性能が高く、2.4リッター並みだが、エンジンの力を使って過給器を作動させるスーパーチャージャーを装着する。使用燃料のオクタン価は95RONだから、プレミアムガソリン(ハイオク)に相当する。

開発者によると「スカイアクティブXの目的は燃費の向上で、燃費数値は、排気量が等しい従来のガソリンエンジン車に比べて20~30%は良くなる」とのことであった。

アクセラスポーツは、2016年7月の一部改良で1.5リッターのクリーンディーゼルターボを搭載する前は、直列4気筒2リッターのガソリンエンジンを用意していた。2リッターガソリンエンジン搭載車のJC08モード燃費は19km/Lだったから、20~30%の中間を取って25%向上したとすればスカイアクティブX搭載モデルの想定燃費は23.8km/Lだ。ただしスカイアクティブXは割高なプレミアムガソリンを使うから、燃料代は22km/Lのレギュラーガソリンエンジン車と同等だろう。

つまり動力性能は2.4リッター並みで、燃料代は1.5リッタークラスになるわけだ。ハイブリッドやクリーンディーゼルターボに比べると燃費効率は下がるが、ガソリンエンジンでは優れている。

ガソリン車に対し15万円高程度の価格差が望ましい

同等のガソリンエンジン車に対し燃費が20~30%も向上するというスカイアクティブX。そうなると問題は、スカイアクティブX搭載モデルの価格だ。

開発者によると「スカイアクティブXに装着されるスーパーチャージャーは、コンパクトカーが使うような小さなタイプだが、パーツの点数は増えて、ディーゼルほどではないがコストアップに繋がる」という。

マツダのクリーンディーゼルターボ車の価格をガソリン車と比較してみると、ツインターボの2.2リッターディーゼルが約31万円、シングルターボの1.5リッターディーゼルは25万円ほど高い。CX-5やアテンザのガソリンエンジンには2リッターと2.5リッターがあるが、装備や駆動方式の価格を補正すると、排気量が500cc違っても価格は同額にしている。スカイアクティブXは、従来のガソリンエンジン車に対して15万円前後の価格上昇に抑えるのが順当だ。

カタログ燃費値の差から見えてくるスカイアクティブXの損得勘定

スカイアクティブXの動力性能が2.4リッターと同等であることから、上級セダンのアテンザに搭載したと仮定する。

アテンザの2.5リッターガソリンエンジン車はJC08モード燃費が16km/Lだ(使用燃料はレギュラーガソリン)。スカイアクティブXの燃費を前述のレギュラーガソリンに換算した22km/Lで計算すると、どの程度の経済性が期待できるのか。

レギュラーガソリン価格が1リッター当たり直近相場の135円、実用燃費をJC08モードの85%で計算すると、1km当たりの燃料代は、現在搭載される2.5リッター車が9.9円、スカイアクティブXは7.2円だ。1km当たり2.7円の節約が可能で、価格差が15万円だとすれば、5~6万kmの走行で価格差を取り戻せる。もしガソリン車とスカイアクティブXの価格差が20万円高なら、差を取り戻すには7~8万km、1.5リッターディーゼルと同じ価格差の25万円高では9~10万kmの走行を要する。

つまり損得勘定はスカイアクティブXの価格次第だが、ノーマルガソリンエンジンに比べて15万円くらいの上乗せで済めば、スカイアクティブGの後継ユニットになり得る。

ただしデミオのような低価格の小排気量車では、価格アップが割高感に直接結び付く。少なくともアクセラ以上になり、相性が最も良いのは、先に述べたアテンザ、CX-5、CX-8あたりだ。

スカイアクティブXをテストコースで試乗してみた印象は

マツダの望む究極の理想形だが

このようにスカイアクティブXは将来有望なエンジンに思えるが、ユーザーから見た場合、今のマツダ車とは相性が悪い。実際に運転すると、クリーンディーゼルターボに比べて、楽しさとか面白さに欠けるからだ。試作車にありがちな振動やノイズを取り除いて洗練させると、実用回転域の駆動力が適度に高く、滑らかに吹き上がる良いエンジンになる。それでも楽しさ、面白さは得られない。

今のマツダがめざすのは、ドライバーの操作というよりも、意思に対して限りなく忠実に動くクルマだ。究極の「人馬一体」ともいえる。そこに低回転域でトルクが盛り上がり、高回転域の伸びはあまり良くないクリーンディーゼルターボは適さない。過給器の存在を意識させず、直線的に吹き上がるエンジンが似合う。マツダの考え方を突き詰めると、理想はクリーンディーゼルターボではなく、スカイアクティブXだ。

マツダの理想とユーザー評価の間にある“ズレ”を埋める新たなシリーズの創造に期待

しかしそれはマツダの考え方で、ユーザーの受け止め方とは違う。販売比率を見ても分かるように、今のマツダ車には、少しクセのあるトルクの高いクリーンディーゼルターボが似合う。

それならばスカイアクティブXは、スポーティ路線の魂動デザインとは違う、もっと落ち着いた雰囲気の新しいマツダ車のシリーズに搭載するのが好ましい。今のマツダ車は、内外装のデザインと運転感覚の両面でどれも似通ったクルマに見えてしまうから、リラックス感覚やカジュアルな雰囲気を大切にしたシリーズがあっても良いだろう。

「運転していると、リラックスできて気持ちが落ち着くから、ゆっくり走って長く乗っていたい」。スカイアクティブXの運転感覚は、このような心地好いクルマにこそ似合う。それは北米でも欧州でもなく、今の日本で求められているクルマのあり方だと思う。

[レポート:渡辺陽一郎/Photo:MAZDA]

マツダ 次世代技術搭載車(試作車)諸元表
エンジン関連

圧縮比

16.0:1

総排気量

1,997cc

最高出力

140kW(190PS)(目標値)

最大トルク

230Nm(目標値)

燃料

無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)

プラットフォーム関連

サスペンション形式

Fr:ストラッド Rr:トーションビーム

ブレーキシステム

Brake by wire

ブレーキディスクサイズ(in)

Fr:16 Rr:15

タイヤサイズ

215/45 R18

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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