ミニ クーパーS 海外試乗レポート(1/3)
- 筆者: 河村 康彦
- カメラマン:BMW株式会社
従来型のデザインに対する自信の表れ
全長およそ3m、全幅たったの1.4m強――現在の『軽自動車』の規格すらを遥かに下回るそんなマイクロ・コンパクトなサイズの中にエンジンやトランスミッションを見事に押し込み、同時に大人4人が乗り込める居住空間を両立させた“クラシック・ミニ”。そんな究極の合理パッケージングを考え出したデザイナーのアレック・イシゴニスが誕生したのは1906年11月18日のこと。そしてそれからちょうど100周年となるこの2006年11月18日を期してヨーロッパ市場で発売が開始をされたのが、BMWプロデュースのミニとしては二代目となるこの“新型ニュー・ミニ”だ。
もちろん、イシゴニスが考え出した“クラシック”とBMWの手による“ニュー”との間には、ハードウェア上の直接的な繋がりなどまるで存在をしない。何しろ、1959年にその原型が誕生をしたイシゴニスの作品とBMWが手掛けて2001年にリリースをした現代版との間には、軽く40年以上もの“時差”が存在をするのだ。その間にクルマを取り巻く影響は大きく変化をし、中でも安全性や環境性の点でクルマに求められる性能は“クラシック”の時代とは比べ物にならないほどに厳しくなったりもしている。双方が直接の関連性などを持たないのは、むしろ当然至極なのである。
しかし、「ミニはあくまでも英国のブランドだから」とその生産拠点を英国内に集約し、こうしてイシゴニス生誕の日をわざわざ発売日に設定するBMWには、当時は関わりのなかったクラシック・ミニに対する畏敬の念を彼らが抱いている事を感じさせる。『BMW』は50:50の前後重量配分とFRレイアウトは死守するブランド――BMWが自らそう言明をする裏には、もはや『ミニ』というのが単一モデルを指すネーミングではなく、前輪駆動をベースとした様々なバリエーションへと発展して行くブランドである可能性も感じられるものだ。
ところで、そんな“新しいニュー・ミニ”の姿を目にして、きっと大方の人はこう思った事だろう。「なんかこれまでのモデルと全然代わり映えがしないじゃないか」と・・・。
が、全ての外観パーツは新設計と言いつつも敢えてこうして従来型の雰囲気を強く受け継いだというこの点も、むしろまたミニならではのモデルチェンジと言える。すなわちそれは、プロデューサーであるBMWの考える新世代のミニの姿が、すでに従来型のルックスで完成形に達していた、という事。「代わり映えがしない」のはBMWの、従来型のデザインに対する自信の表れというわけだ。
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