トヨタ 新型ヤリス(プロトタイプ)試乗│トヨタの本気が凝縮されたグローバルコンパクトカー

新型ヤリスは単なる変名にはあらず!

「こんなことは、社長が豊田章男でなければ出来なかったことです」

いよいよ始まる新型ヤリスの発売を前に、我々報道陣に向け開催されたプロトタイプ試乗会の冒頭で、トヨタ自動車コンパクトカーカンパニーの宮内一公プレジデントはそう言った。

「これまでのトヨタ自動車は、開発は開発の、設計は設計の、そして工場は工場の、などというふうに、領域ごとに会社が分かれていました。つまり、一台のクルマがお客様の元に届くまで、総括して見られていたのは社長の豊田だけ、ということになります。しかし、それを縦軸でコンパクトカー、ミッドサイズ、などとカンパニーで区切り、製品開発から生産までを一貫化することにより、一台のクルマを一人のプレジデントが責任を持って見ることが出来るようになった。豊田が言う『もっといいクルマづくり』が、まさに会社としても実現される土壌が出来たわけです。これはもう、ヘタなクルマを作ると言い逃れが出来ない(笑)。」

■“もっといいクルマづくり”から生まれた新型ヤリスを画像でチェック

そんなふうにジョークを挟み、プレスの笑いを促しながら始まったプレゼンテーションだったが、その根底には確固たる自信が実に濃密に、む〜んと漂っているのであった。

トヨタの小型車ヴィッツがグローバルネームであるヤリスに名前を統一されて発売される。

それが単なる変名でないことは容易に想像できることだ。

発売は2020年2月中旬。さて、果たして開発陣の自信はホンモノなのか。

トヨタ/ヴィッツ
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新車価格:
120.3万円236.2万円
中古価格:
15万円384.8万円

現行ヴィッツよりもサイズが小さくなった新型ヤリス

まずはルックスから見てみよう。

正直、もう全然ヴィッツじゃない(喜)!

完全刷新という言葉のままに、スタイリッシュに躍動的に、劇的に生まれ変わった。キュッと塊感があり、疾走感もあり、率直に「カッコいい!」。そうそうコレコレ、コンパクトハッチバックユーザーはこういうの求めてたんですよ、と膝打ちたくなるデザインだ。

もちろん乗って狭いのは嫌なんだけど、どうせ室内空間を重視するなら同じ価格帯でももっとMPVっぽいシルエットものはいっぱいあるんだから、こういうハッチバックはとにかくカッコよく、スタイリッシュであってほしいって、そう思ってたのだ。

ヤリスのキモはTNGAプラットフォーム採用にエンジン・トランスミッション・サスペンションなど主要コンポーネントをすべて新設計と、とかくナカミにフォーカスされがちだ。しかし、実は一番の朗報はこの、デザインの妙にあると思う。

だいたい、なんでも巨大化していくこの時代に、現行ヴィッツよりもサイズを小さくするなんて、そこがまず凄い。

全長3940mm×全幅1695mm×全高1500mm。全幅と全高こそ変わらないものの、全長は-5mmに、フロントライトあたりのコーナーを30mm、リアコーナーを25mm削って丸みを持たせたことでキャビンがキュッと凝縮された。

フロントガラスは急峻な傾斜を持ち(なんと現行ヴィッツ比で-110mm!)きっちり下半分に重量感が生まれている。主張しすぎないライト周りながらきちんと顔の個性があって、それにお尻がキュート(コレ大事!)。

特にリアはライトがボディよりもちょっと盛り上がっているような立体感で、目を引く面白さだ。リアウインドウも上辺を-40mmとしているから、ちゃんとこのライトのデザインが際立っている。

つまり、ディメンションの中で四隅は丸く、そしてルーフを頂点にサイズを絞り、しっかりと踏ん張り感のあるスタイリングになったということになる。

さらにカラーバリエーションも豊富だし。新設計された「アイスピンクメタリック」なんてユニセックスな絶妙カラーでとってもイイ。試乗車にはルーフカラーとボディカラーが違う2トーンも容易されていたが、個人的には黒ルーフ×アイスピンクミーが超ツボった。だってオシャレなんだもの。どことなくイタフラな風すら感じさせるくらいだ。

インテリアも質感が劇的に進化し、使い勝手は熟考が重ねられている

そして気になる居住空間だが、ディメンションを特にルーフ方向に削ったとなると、ヘッドクリアランスが不安なところ。

しかし、これがまたさすがの一言なんである。

後部座席に座ってみると、まずドア側の肩周りの余裕に気付く。ドアをよく見てみると、ドアパネル内側が削られたような湾曲した造形になっていて、思った以上にゆとりがあるのだ。さらに、顔の横に来るガラス面(窓)が視界のちょっと奥まで取られているから、これも圧迫感がない。こういうところ、実にトヨタクオリティだと思う。一見すると奇抜なデザイン変更に見えて、実は使い勝手も熟考に熟考を重ねてある。

運転席周りも質感が劇的に向上した。

おもに試乗車は上級グレードのものが用意されていたのだが、インパネにはソフトパッドが採用されているし、ドアにはファブリックも貼られて上質感がある。

ステアリングは小径になって、真ん中のパッドも小型化。ハンドリングに役立つと同時に、スッキリした視界を実現している。

パワートレインは新開発版、改良版、キャリーオーバー…どれも侮れない!

さて、このままツラツラと書き連ねていると、走る前に字数が尽きそうになってきたので、そろそろ動力性能のお話をしたいと思う。

先述の通り、ヤリスはプラットフォーム、エンジン、トランスミッション、ハイブリッドシステム、サスペンションをすべて刷新した、と言われているが、実は一部、改良エンジンもあれば別のクルマからキャリーオーバーされた技術もある。

まず、完全に新開発なのが1.5リッター直3エンジン×CVTの組み合わせ。

1.5リッター直3エンジン+モーターのハイブリッドにはFFの他に4WDが設定されたが、このE-Fourと呼ばれるハイブリッド四駆はプリウスと同じものだそうだ。

さらに今回、1.0リッター×CVTもあるのだけど、このエンジンのみは既存エンジンの改良版となる。

ちなみにちゃんとMTもある。このMTも海外向け既存トランスミッションの改良型だ。

とはいえこの「改良」レベルが侮れないので、順に試乗フィールをお届けしたい。

ハイブリッドの四駆は剛性が高く、よく踏ん張る

まず、感激なのはやはりハイブリッド系。

とりわけヤリスに新設定された四輪駆動、E-Fourの仕上がりレベルは感動モノだ。

試乗シーンはサーキットだったが、ピットレーンから出て1つ目のコーナーに入る辺りですでにステアリングのスッキリと正確な舵角に気付いた。適度な反力と軽さが両立されていて、ちょっとコンパクトカーではないような上質さを叶えているのだ。だから、余計な切り足しも切り戻しもまったく必要ない。一回ラインを決めたらソレを完全にトレース出来るという質感の高さで、クラスを超えた気持ちよさを持つことにまず驚いた。

速度を上げていけば今度は、CVTがちゃんと段付きになっていることにも気付く。シフトアップやシフトダウンの際、ギア付きのソレのようにちゃんとトルクの盛り上がりと切れ目が付けられていて、なおかつその演出が不自然ではなく、ちゃんとサーキットでも楽しめる仕組みになっている。

あらゆる走行域で感じるのはカッチリと走りを支える剛性の高さで、特にコーナリング時なんて、他のクルマのロールを外から見てても、「よく踏ん張るなコイツ」とニコニコしちゃうほどなのだけど、運転するとさらに接地感の正確さに舌を巻いてしまった。むろん、ハイスピードからのフルブレーキングなどにもこの剛性の高さは抜群の威力を発揮して、ギューっとノーズが沈み込むようなシーンでも、車体、ひいてはハンドルがブルブルして怖さを感じさせるようなことも皆無だし、アシもまったくバタバタしないから、ドライバーが安心して次の操作に移れる、というわけだ。

E-Fourのみ、リアには2リンクのダブルウィッシュボーンを設定

これは基本的にはFFにも同じなのだけど、FFはE-Fourに対してより軽やか。まあ、辛口に言えば特にコーナリング後半の接地感がやや薄い。とはいえ一般道では十二分だと思われるのだけど、E-Fourはもう、とかく全域においての守備範囲が広いのだ。特にコーナー出口あたりのビタっと路面にフィットしていく感じが快感すぎる。

実はコレ、サスペンションにタネ明かしがあるそうな。他のモデルはリアがトーションビームなのだけど、E-Fourのみリアには2リンクのダブルウィッシュボーンを設定しているのだという。そりゃ、いいわな。E-Fourはイマイ、イチオシだ。

CVT嫌いにも試乗してもらいたい

ガソリンエンジンモデルも負けてはいない。

まずエンジン音が超勇ましい。踏み始めからドライバーをワクワクさせてくれるような演出に思わず口元が緩む。

そして、やはり軽さが際立つ。複雑なハンドリングが求められるようなときにこそ、軽さを生かしてテンポよく攻略できるから面白い。

こちらも段付き感のあるCVTになっていて、デュアルクラッチのようなレスポンスのいい変速感を持っていた。むろん、人工的に味付けされた演出ではあるけれど、従来CVTにありがちな空転感や高回転音などはびっくりするほど抑えられているから、是非CVT嫌いにも試乗してもらいたいと思う。

1.0リッターNAでは、ベタ踏みまで持っていけるほど、フレームがエンジンパワーに勝っている

しかし、ダークホースは個人的に1.0リッターNA。

従来型エンジンを改良し、新型の小型CVTを組み合わせているのだけど、この1.0リッターがよく回るのだ。確かに最大・最高出力にはパワー不足を感じる。ちょっと長い直線に入ると、ああああもうちょっと進んでくれよ〜、とベタ踏み状態になるのだけど、逆に言えばベタ踏みまで持っていけるほど、フレームがこのエンジンのパワーに勝っているということでもあって、カッチリボディーにマックスフルパワーまで使い切れるエンジンが搭載されているから、グイグイ踏んでグイグイ曲がっていけるのだ。そのフィール、まさにゴーカートのごとし! なにこれ楽しい!

これはクルマが好きな人、とくに峠やミニサーキットなど、チョコチョコ操作するのが大好きな人には堪らないと思う(ちなみに開発陣にもこのエンジンのファンが多いのだそうだ。ナットク)。

MTはもうちょっとペダルの間隔が狭ければいいのに

惜しむらくはMTだけ。それまでがすべてこれだけ期待をはるか上方で裏切ってくれたからメチャクチャ意気込んで乗り込んだのだけど、なんか、操作しにくい。とくにペダルのレイアウトだ。どうやってもヒールアンドトゥが出来ないのだ。ブレーキを踏んだらアクセルペダルの高さが合わず、しかもちょっと遠いからブレーキが抜ける。あわわ、となってしまうのだ。クラッチミートがどうこう、という感じじゃなく、単純にもうちょっとペダルの間隔が狭ければいいのになぁ。

これを聞くと、やはりトヨタの安全基準上の問題だという。踏み間違えや誤操作を防ぐため、ペダルの間にはある一定の間隔を持たせないといけないのだそうな。

ここは是非、改良して欲しい。せめて今後、コンバージョンシリーズのGR系が出る際には(多分出すでしょ?!)、ちょっと走り寄りのレイアウトになっていることを願うばかりだ。

トヨタ初の先進安全装備も!

小さなクルマだからこその安全を、ということで、最新の予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」も標準装備。左折時の直進車や右左折後の横断歩行者も検知するのは、トヨタ初となるほか、同一車線の中央部を走行できるよう操舵を支援するレーントレーシングアシストやオートマチックハイビームなど、こちらもクラスを超えた技術が盛り込まれている。

なんと楽ちんな高度駐車支援システム

トヨタ初となる高度駐車支援システム「アドバンスドパーク」はオプションになるかもしれないが(これらの詳細は12月に発表されることになっている)、これまでの駐車支援システムから一歩進んだ、シンプルかつ直感的に操作しやすいもの。なんと、自宅の駐車場など3箇所をメモリしておくことも出来る。シフトレバー横のボタンを押したら、あとはガイダンスに従うだけ。ペダルもハンドルもブレーキも、ぜ〜んぶクルマがやってくれる。なんと楽なんだ!

まだプロトタイプながら完成度は高く、そしてなによりワクドキに溢れている!

ちいさなボディにトヨタの本気が凝縮された、待望の一台がもうすぐ街にやって来る。

[筆者:今井 優杏/撮影:小林 岳夫]

新型ヤリス 購入ガイドはこちら

トヨタは2019年10月16日、コンパクトカーのヴィッツをフルモデルチェンジし、名前も新たに「YARIS(ヤリス)」として世界同時に発表した。日本での発売は2020年2月中旬を予定する。

新型ヤリスはプラットフォームを新開発し、新型1.5リッター3気筒エンジンや、世界トップクラスの低燃費を誇る新世代ハイブリッドシステムを搭載。小型ながらダイナミックで存在感あるデザインや、上級車に見劣りしない先進予防安全機能など、全方位に渡り新しくなったトヨタの意欲作だ。そんな世界戦略車ヤリスの詳細について、自動車評論家の渡辺 陽一郎氏が徹底的に解説する。

試乗動画

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今井 優杏
筆者今井 優杏

自動車ジャーナリストとして、新車や乗用車に関する記事を自動車専門誌、WEBメディア、一般ファッション誌などに寄稿しながら、サーキットやイベント会場ではモータースポーツMCとしてマイクを握り、自動車/ モータースポーツの楽しさ・素晴らしさを伝える活動を精力的に行う。近年、大型自動二輪免許を取得後、自動二輪雑誌に寄稿するなど活動の場を自動二輪にも拡げている。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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