最新LLクラスミニバン 徹底比較(2/4)
- 筆者: 岡本 幸一郎
- カメラマン:島村栄二
個性的ルックスとスポーティな走り
2004年にホンダがLLクラスミニバン市場に送り込んだエリシオンは、エルグランドやアルファードのライバル2車に比べ、低床プラットフォームによる低い全高と軽快な走り、個性的なスタイリングなどが特徴であった。
丸みを帯びた柔らかいフォルムと低い車高により、実際のボディサイズこそ大きいものの、3台の中では小さく見える。そのエリシオンに追加されたのがエリシオンプレステージだ。
オデッセイでいうアブソルートのような位置付けといえ、実際ネーミングに相応しい内容とされている。通常のエリシオンとの差異は大きい。
エクステリアでは、フロントマスクの大変更、リアガーニッシュの追加、ホイールの違いなどが挙げられ、ボディカラーの設定も異なるなど、一目瞭然に違う。車高の低さと大径ホイールの組み合わせにより、LLクラスミニバンではないようにも見える。
エンジンがレジェンド譲りの3.5L VTECというと、どれだけ高性能かイメージしていただけるだろう。高回転型の性格で、洗練されたV6らしい官能的な吹け上がりが楽しめる。排気量がそれなりに大きいので、低速トルクが薄いわけでもない。
標準のエリシオンに対しサスペンションも強化されている。操縦安定性は素晴らしく、早めのレシオのステアリングフィールはリニアで、リアもシッカリと追従している感覚がある。一体感ある走りは、このような大柄なミニバンにいたってもホンダ独特の世界がある。これはライバルには持ち得ない部分である。
しかし、後席の乗り心地については、もともとエリシオン自体も少々難があり、エリシオンプレステージについてもその傾向が見られる。前席に座っているぶんには快適なのだが、後席の、特に3列目では、タウンスピードでもピッチングや細かいバウンシングが常に起こりがち。段差乗り越し時の突き上げ感も大きめだ。
思えばエリシオンは、2003年の東京モーターショーにコンセプトモデルが出品されたとき、ことのほか立派に見えたものだ。ホンダ車としてそれまでになかった丸みを帯びたフォルムに精悍なマスク、上質なインテリアなど、独特の高級感を放っていた。しかし、現実のシーンに出てみると、意外とそう見えないという部分は確かにあった。そこで、今回のエリシオンプレステージの登場となったわけだが、個人的にはどうかと思うところも大きい。
エリシオンは、エリシオンプレステージではない普通のモデルにおいて調和されるようデザインされていたはずで、もともとエリシオンが持っていた都会的でスマートな感覚が損なわれた印象があるのだ。とはいえ、アルファードが売れている現実を考えると、このクラスのミニバンを求めるユーザーには、こちらのほうが歓迎されるのかもしれない。
ロングヒットもうなずける高級ミニバン
大きなフロントグリルに、高級感あるランプ類、タイヤハウスに沿ってキャラクターラインを入れるなど、押し出し感があり、見栄えすることには違いない。
初代エルグランドをトヨタ流にアレンジしたようにも見えるし、どことなくクラウンなどの高級セダンにも似た雰囲気がある。
テールやルーフなど絞り込ませ、また車高をできるだけ低く見えるようにし、一方で大きさを強調しつつ、それでいて、そこまでサイズを感じさせないようにしている点は、エルグランドと異なるデザインアプローチといえる。MZグレードはスポーティ仕様という位置付けだが、あまり若々しい印象ではない。
走りは、意外と腰高な印象がなく、コーナリングはエリシオンプレステージには遠く及ばないが、重心が低い印象で、エルグランドよりも走りやすく感じられる。
ステアリングのつくりも意外とゲインが高く、センター付近が落ち着かないところはあるものの、軽快感を身につけている。ただし、2t近くあるクルマを、快適な乗り心地を維持したまま前輪駆動で走らせるには、やはり少々無理があるのかもしれない。空荷の状態ではフロントヘビーの傾向が強く、そのとおりの動き方をする。
3L V6エンジンということで、けっこう他の2台と比べるとハンデのように感じられるが、トルクの出方はこちらのほうが上で、踏めばドンと加速する味付け。スロットル早開き制御を行なっているが、違和感は小さい。高回転域では騒々しくなるし、聴いて心地よい音でもないが、動力性能としては絶対的な力はある。3.5Lのライバルにまったく負けていないし、むしろ出足のよさは上と感じられるほどだ。
信号待ちから交差点で右左折する際など、アクセルを大きめに開けると、TRCをONにしていてもけっこう滑ってしまう。また、ブレーキを踏んだときのノーズダイブの感覚も、フロントがかなり重い感覚があるが、その中では上手くまとめられていて、前のめりになる感覚を小さく抑えている。全体の乗り心地も悪くなく、それなりに快適にはつくられている。走りについて気になる部分が少ないという意味では、今回の中でもっとも優れるといえるだろう。
TEMSは、高速道路やワインディングではやはりスポーツのマッチングがよい。ただし、あまりロール量が減る印象はなく、ある程度の乗り心地は確保されている。コンフォートにすると乗り心地が明確にソフトに変わる。やはりミニバンの乗り心地とスタビリティの両立を図るには、可変減衰特性という方法がベストということをあらためて痛感させられた。
国産ミニバンにおいて唯一のFRレイアウト
初代エルグランドが大ヒットを受け、さらにグレードアップを図り2002年に登場した2代目。押し出し感をさらに強くし、「夢」と「くつろぎ」と「感動」を提供できる最高級ミニバンとして登場した。
人気のハイウェイスターは、エアロパーツやローダウンサスペンションを装備した人気の高い仕様。すでに登場から時間が経っており、古さも見られるのは否めない。
面の取り方が単調で平板ではあるが、フロントからリアまで一貫したデザインテイストでまとめられている。ルーフやアンダーボディなどへの絞込みを極力なくし、大きなボディをあえてより大きく見せている。
三車三様のエンジンフィールは、いずれも十分にトルクフルで余力を感じさせる中で、踏み始めで力強いアルファード、高回転型のエリシオンプレステージに対し、エルグランドは中回転域での伸びのよさが光る。その駆動力が後ろから押し出す感覚は、FRレイアウトを採用するエルグランドならではの世界である。
ただし、ほかの2台に比べると重心の高い印象はついてまわるのは否めない。そして、後席乗員の快適な乗り心地を重視した走行性能は、ドライバビリティの面ではハンデがある。そこでFRの強みが生きてくる。こうした重たいクルマであればあるほど、人や荷物を乗せるほど、前後重量バランスのよさが生きてくる。運転していてもやはり確かにその感覚はある。
スローなレシオのステアリングは、駆動の影響を受けないスッキリとした感触だ。適度にソフトな足まわりは、スポーティなハンドリングを追求したものではない。
しかし、快適な乗り心地、高い静粛性、圧倒的な動力性能など、ミニバンの本質を追求すると、エルグランドが国産全ミニバンにおいて、もっとも的を得た、優れたモデルであると思っており、今回もそれが再認識された。
気になるのは後席で感じられるフロアの微振動で、ワンボックスっぽい感覚となってしまうところはある。 ハイウェイスターは若干ローダウンされており、サスペンションストロークを規制することで、適度に引き締まった味を出している。とはいえあくまでも快適な乗り心地であり、エルグランドの全ラインアップの中でも、これがベストだと感じている。
デザイン・スペック
3台は高級ミニバンであり、ライバルであり、しかしまったく異なるクルマである。共通するのは3列シートを持つことぐらいで、内容的にはまったく別物。高級ミニバンではあるが、見た目の高級さの感覚もまったく異なり、走りのテイストも大きく異なる。
人を乗せるというミニバンの本質をもっとも巧みにまとめているのはエルグランドだろう。アルファードのそつないまとまりだが、FFの弱点が随所に感じられる。エリシオンプレステージは、FFの弱点はあまり感じられず、操縦性は素晴らしいが、前席は問題ないものの、後席の乗り心地が固く、人を乗せるという用途には一考の余地がある。
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