20速もあり得る? ATの多段化はどこまで進むのか!?

  • 筆者: 片岡 英明

トランスミッションの役割とは?

エンジンやモーターが生みだした動力を、車輪へと伝達する役割を担っているのがトランスミッションだ。これは日本語では「変速機」と訳される動力伝達装置のことである。エンジンやモーターは回転数によってトルクや燃費(電費)が変わってくるから、最適な加速や良好な燃費を引き出すために、走行状況に応じてエンジンの回転を変え、効率よく車輪に動力を伝えたい。そこで考えられたのが回転数を変えるトランスミッションだ。

多すぎてもダメ! MTは6速が限界か?

そのほとんどは、いくつかのギアを組み合わせてトルクや回転速度の変換を行う。異なるギアへの切り替えを、クラッチ操作によって行うのがマニュアルトランスミッション(MT)だ。走行状況によって自分の意思で最適なギアを選ぶことができ、意のままに操ることができるため、今でもスポーツモデルに多く、変速数は5速と6速が主流だ。変速段数が多いほど、使用する回転数の幅を狭くできる。

だが、手動で何段も変速操作するのは大変だし、変速ミスする可能性も高いから、6速MTまでが多いのだ。

日本で主役はオートマだ

21世紀のトランスミッションの主役は、クラッチによる難しい変速操作を不要にしたオートマチックトランスミッション(AT)である。もっとも一般的なのは、クラッチの代わりに流体クラッチ(トルクコンバーター)を用い、これに変速機を組み合わせて自動的に変速を行うATだ。変速機はプラネタリーギア(遊星歯車)と呼ばれる特殊なギアを組み合わせたものが主流である。この手のATは「トルコンAT」とか「ステップAT」と呼ばれることが多い。

当初ATはたったの2速。世界初の4速ATはニッポン生まれ

ATは、第二次世界大戦後、アメリカで普及した。1960年代までは2速ATが一般的だった。アメ車は排気量の大きいクルマが多く、トルクが太いから2速ギアでも不満のない加速性能が得られたからである。ただし、燃費は驚くほど悪かった。

そこで多段化することを思いつき、3速ATが誕生。トヨタグループのアイシンは世界で初めて4速ATを実用化している。多段化すればクロスしたギアレシオになり、それぞれのギアが受け持つ領域を狭めることができるのだ。ギアがひとつ増えれば、オーバードライブと呼ばれる高いギアの設定もラクになる。回転数の変化を小さく抑えることができれば、効率のよい燃焼を引き出しやすい。また、高速走行のときに回転数を低く抑えることができる。

多段化はイイことづくめ。制御も徐々に自然に

その結果、静かになるし、燃費向上も期待できるのだ。制御システムも進化した。20世紀の後半まで、トルコンATはパワーロスがあるから燃費が今一歩だった。この弱点をなくすために開発されたのが、マイクロコンピューターを使って緻密な制御を行う電子制御ATだ。このマイコン制御と多段化により、MT車と遜色ない燃費が可能になった。

多段化の波は日本初? 5速ATはイケイケの日産が初

日本では1991年にAT限定の免許がスタートしている。AT派が増えたから小排気量のAT車も増えてきた。また、高級車は快適性のハードルを一気に引き上げている。そこで21世紀を前に多段化の流れが押し寄せてきたのだ。

日産が5速ATに先鞭をつけ、21世紀になるとBMWが6速AT、メルセデス・ベンツが7速ATを送り出す。これに対抗してレクサスは8速ATを投入した。そして現在ではレンジローバーやジープなどが9速ATを搭載し、最新のレクサスLSとLSでは10速ATを実現している。

日本の軽・コンパクトはATから脱却! 2000年代はCVTの時代へ

コンパクトクラスは、ギアを使わず、金属製の特殊なベルトとプーリーの組み合わせによって変速を無段階に行うCVT(無段変速機)が多い。採用している理由は、トルコンATよりパワーロスが少ないからだ。常に速度に応じた適切なギア比にすることができるから燃費がいい。駆動力を途切れさせないので滑らかなことも長所である。だが、実際の速度とスピード感が一致しないし、ゴムを介したようなラバーバンドフィールに違和感を覚える人も多い。これを嫌ってヨーロッパでは6速ATを採用するメーカーも多いのだ。

欧州で生まれたDCTは信頼性がイマイチ

また、MTを母体とするDCT(デュアルクラッチトランスミッション)もある。奇数のギアと偶数のギアを担当する2つのクラッチを備えているのが特徴で、次のギアが常に待機しているから変速は素早い。だが、滑らかな変速には緻密な制御と高度な技術力が要求され、信頼性に不安がある。フォルクスワーゲンやホンダなどが手こずったから、採用に二の足を踏むメーカーも多いようだ。

可能性は無限大だが、現実的には10速ATでストップか

高級車は上質な変速フィールと高い信頼性が求められるので、今後も多段化したトルコンATが主役になるだろう。どこまで多段化するかは未知数だ。が、多段化するとメカニズムが複雑になり、重量も増える。当然コストもかさむはずだ。また、煩わしい変速になりがちだから、10速ATまでが一般的な変速数になると思う。高級車やスポーツモデルは、高い技術力を誇示するため12速ATも考えられるが、限定的な採用にとどまるだろう。それよりも現実味があるのは、下のクラスの多段化だ。これからの進化に期待したい。

[筆者:片岡 英明]

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樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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