【ahead femme×オートックワン】-ahead 4月号- アンティーブの松本葉さんを訪ねて(2/3)
- 筆者:
- カメラマン:若林葉子
2人でとんちんかんな旅をしましょう
次の日、葉さんと私は、イタリアのサンレモまで、葉さんの愛車、フィアットの『パンダ』で1泊2日の小さなドライブ旅行に出る計画だった。
朝はご主人がホテルまで迎えに来てくれて、アンティーブのご自宅で葉さんと合流する手はず。
10時ぴったりに現れた葉さんのご主人は、「最高のお天気で本当にラッキーだね」。そう言って、アンティーブとは逆方向に走り出す。
途中、絶景ポイントでクルマを止めたりしながら、エズ(崖の上に立つ中世の要塞)まで連れて行ってくれた。葉さんと打ち合わせたわけではなかったらしく、遠くから訪ねてきた私への心遣いだった。
ちょっとジャン・レノに似たすてきなご主人だ。クルマのデザイナーだというから、なおさらカッコいい。
アンティーブに着くと、ご主人は二人のお子さんと一緒にお出掛け。私と葉さんは、サンレモへ出発する前に、アンティーブの街を、黒い『パンダ』でぐるぐる一回り。
それにしてもさすが、葉さんは運転がうまい!
ほぼ左手だけでハンドルをキュキュ。 右手は、ギアチェンジするという感じもないくらいに、自然に、チョコチョコチョコとシフトノブを操作する。走り出すのも停まるのも、せわしないくらいきびきびしているのもヨーロッパらしい。
私はここで葉さんの著書の中の一節を思い出した。それはイタリアに渡って1年と少しが経ち、初めて自分のクルマ『チンクエチェント』を手に入れたあと、2カ月で3回もの駐車違反を取られたというくだりだ。
「結局のところ――、私には、この国でクルマに乗る人間の”勘”みたいなものが身についていないのだ――」。
信号を守らないタイミングや、右車線から左折する方法とか、無茶苦茶な中にも暗黙の約束事や了解があり、それらが体に棲みつくようになれば、クルマにスムーズに乗れるだけでなく、人との付き合い方とか、生活のリズムとか、そういうものが掴めそうな予感がする、と。
葉さんがそう書いてからおおよそ20年。葉さんはすっかりヨーロッパの生活の(簡単にヨーロッパと括っていいかどうかは置いておくが)すべてが体に馴染んだのだなあと思う。
クルマの運転にはそれが一番端的に表れているけれど、例えば食事もそう。どこで何を食べても、私はどうしても全部食べきれない。葉さんはきれいに食べてしまう。でも葉さんはすらっと細身で贅肉の影すら見えない。きっと食べ物と生活のリズムのバランスが取れているんだろう。
とはいえ、そんな彼女でさえ、タンクトップ1枚で素肌を太陽にさらしている女性たちを見ると、「あれじゃぁ風邪ひいちゃうわよね」。
コート・ダジュールの気候は、3月でも、朝晩はコートが必要なくらい冷え込む。太陽が昇ると一気に気温があがるのだが、それでもタンクトップ1枚は、日本人には少し寒すぎる。
ヨーロッパの人たちは基礎体温が日本人より1度程高いと聞くが、長く住んで、言葉や文化にすっかり馴染んでも、基礎体温まではなかなか、ということなのだろうか。
この記事にコメントする