フォルクスワーゲン The Beetle デザイナーインタビュー/フォルクスワーゲン シニアデザイナー クリスチャン・レスマナ(2/2)
- 筆者:
- カメラマン:オートックワン編集部
The Beetleには、これまでの歴史と新たなチャレンジを詰め込みました。
AO:The Beetleをデザインする上で、新しいエッセンスはどんなものが加えられましたか?
L:個々の要素だけを見ると決して新しくはないのですが、それらを集めて現代的解釈というカタチでデザインを行いました。
例えばフロントやサイドから見て、窓の周りにブレイクを入れることや、リアではテールライトを一体化に見せていることは従来モデルと一緒です。テールランプは所どころで切り込みを入れており、結果的にこれまでとまったく違うランプに見えますが、実は中に入っているのは今までと同じ丸いランプを採用しています。
AO:逆にこれまでの要素を削除したという部分はありますか?
L:それはないです。初代、そして先代から、正常進化させています。これこそがフォルクスワーゲンのデザインに対する考え方そのものなのです。良い要素は捨てる必要がなくて、その時代の解釈を加えてあげれば、さらに良い形で今後に残せて行けると考えています。デザインにも長い寿命があって良いのだと思います。
AO:苦労されたのはどんな点ですか?
L:テクニカルパッケージの部分は決まっており、プラットフォームはThe Beetle専用ではなく、他の車とも共用しなくてはならないので、それを利用しながら、新しいBeetleのエッセンスをのせるという部分が難しかったです。
技術面からもそのあたりの改を求めながらの作業が強いられました。ですから、決まっているパッケージの上に自分たちのアイデアをのせていくことが一番苦労しました。
AO:ユーザーへThe Beetleをアピールするとしたら、どんな部分ですか?
L:まずはThe Beetleのシートに座って、ステアリングを握って、インパネを見て、 Beetleそのものの世界観を感じとっていただきたいです。 ボディデザインからインテリアのデザインまで、Beetleの歴史と新たなチャレンジを詰め込んでいます。ぜひ、そこをじっくりとご覧いただきたいです。
AO:今後、車のデザインはどういった方向へ進んでいくと思われますか?
L:一言でいえばアイデンティティが重要になると思います。中身が経済性を重視してどれも同じになっていく中で、個々の車の特長をはっきりと示しているものが、今後の各メーカーのカーデザインの軸になっていくと考えます。よって、シンプルで単純明快な車が将来重要になってくると思います。
これからもワイルドな車も当然出てくるでしょうが、ロジカルにコンセプトを説明できるクルマが生き残ると思います。
AO:日本のクルマをどう思いますか?
L:日本のクルマを嫌いなわけではありませんが、日本は独自の自動車文化を築いてきましたし、ドイツやアメリカ、フランス、イタリア、イギリスでも、それぞれオリジナリティのある自動車文化を育んできました。
なので単純比較はできませんが、ただ時として、デザインとコンセプトのマトリックスがToo muchなときが日本車にはあるように感じます。それにデコレーションが凄すぎるときがあり、いかがなものかなと思うときは正直ありますね。
AO:レスマナさんの一番好きな車はなんですか?
L:フェラーリ375MMです。子供の頃から大好きでした。今となってはとても古いフェラーリですが、あのロングノーズと、リアに向かって綺麗に落ちていくルーフラインにとても美しさを感じます。イタリア独特のエロチズム感じさせるセクシィなボディラインは、フェラーリならではで、見とれてしまいます。一度でいいから乗ってみたいです(笑)
AO:カーデザイナーを目指す方へメッセージを
L:夢を追い続けることですね。当然そこには努力をし続けるということが必須です。求めれば道は拓けます。個人として人の真似をするのではなく、自分のスタイルを確立することだと思います。あとは規律というものが重要です。自分自身を甘やかさないということですね。
インタビューを終えて
近年、アジア圏出身のグローバルで活躍するカーデザイナーが急増している。恐らくクリスチャン・レスマナ氏はそういった存在の先駆けとなった人物だろう。発展途上国であるインドネシアから、フォルクスワーゲンのデザイン部へ入る課程は、とてつもなく長く険しいチャレンジだったに違いない。
フォルクスワーゲン入社15年目のレスマナ氏は現在43歳。28歳でカーデザイナーの夢を手にしたことを考えれば、そこには世界基準の高いスキルが常に要求され続けてきたはずだ。
彼は言う。「デザインにとって大切なのはオリジナリティと根気だ」と。それを見つけるまで決して諦めてはならない。そしてたくさんのモノに関心を抱き、センスを磨くこと・・・。
今、日本人の精神に足りないのは、実はこのことなのかもしれない、と、考えさせられたインタビューであった。
(TEXT:吉澤憲治)
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