THE NEXTALK ~次の世界へ~ トヨタ福祉車両 製品企画主査 中川茂インタビュー(5/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
目指すべき未来
福祉車両の開発に自ら手をあげて関わってきた中川にとって、改めて、クルマとはどのような意味を持つ存在なのだろうか?
【中川茂】私はもともとクルマ好きで、何処へ行くにもクルマで移動してきました。さらに福祉車両の開発に関わるようになり、車椅子で生活する人にとって、クルマが自分以上に必要不可欠なものであることを痛感しました。
これは個人的な経験ですが…娘を連れて家族で東京へ旅行に行ったときのことです。自宅から東京まではクルマで行きました。しかし東京は鉄道が便利なので、ある博物館の見学には電車で行ってみようと思ったのです。ところが、バリアフリー化が進んだとはいっても、まだ駅によってはエレベーターが必ずしもない所があります。
また、電車が混んでいると、車椅子のまま娘を乗せるのは気が引けて、結局、車椅子をたたみ、抱っこして乗ることもありました。とにかく大変で、気も遣うし、もうこりごりという思いでした。私にとって、それは一つの貴重な経験でしたが、娘のことを思うと、やはりクルマで行けばよかったと反省しました。
中川は、海外で目撃したこんな経験談を語る。
【中川茂】ドイツへ行ったとき、車椅子の人が当たり前のように電車に乗ってきて、その乗り降りに際しては、見ず知らずの周りの乗客たちが、これも当然のことのように車椅子を持ち上げてくれたりして、何の不自由もなく鉄道を利用していたのです。
日本でも、駅などのバリアフリーが整備されていくことが大切なのは言うまでもありませんが、さらに、障害を持つ人たちが健常者と同じように当たり前に生活し、公共交通機関を使って容易に移動できるよう、自然に人々の手が伸びるような、世の中の人々の意識に変化が起こるといいなと思います。そのためにも、障害を持つ人たちがもっと外へ出て行けるように、福祉車両が普及して、出掛けやすくなっていくことを望んでいます。しかも、これから高齢化社会になっていくと、お年寄りで車椅子を必要とする方が増えるはずです。
ところが、実際はなかなか普及しないのですね。価格の問題もまだあるかもしれませんが、何年か後に、福祉車両を標準車と同じように利用をしたいと思ったとき、例えばミニバンなら車椅子を持ち上げるためのテールゲートがあって荷物の出し入れがし難いなどがあるため、購入を躊躇することが考えられます。
そこでいま、福祉車両の「普通のクルマ化」ということにも取り組んでいます。
自動車メーカーに勤めながら、クルマ作りに止まらず、現実の社会を広く見聞し、人々の幸せを実現するためには何でも厭わず実行する。その中川の志は、世界の自動車メーカーの創始者たちが、創業時に思い描いた志に通じる、世のため人のためという原点であると思う。END
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