スバルが新型XV発売日にあえて新車で衝突デモ! 安全・安心を目指す企業姿勢が凄い
- 筆者: 山田 弘樹
- カメラマン:株式会社SUBARU
目の前で“ドッパーンッ!”スバル 新型XVを惜しげもなく使った衝突デモ
ヒューッというモーター音が聞こえたその少しあと、目の前を黒い物体が通り過ぎたと同時に“ドッパーンッ!”という、生々しくも乾いた炸裂音が試験場内に鳴り響いた。なぜ生々しいのに乾いているのかは、最初の“ドッ”が40%オフセットさせたアルミ製のハニカム材にバンパーがぶつかった音で、次の“パーン!”はその部品が砕け散り、50秒/1000の速さでエアバッグが開いた正反対の音だからだ。衝突の音って、いつ聞いても心臓に悪い。
これはスバルがメディア向けに開催した「衝突実験試験見学会」での1コマ。グローバルプラットフォームを得て好評のスバル 新型XVを惜しげもなく使い、その安全性と、スバルの安全への理念を我々に伝えてくれたデモンストレーションである。
昨年JNCAPで過去最高得点(199.7点/208点満点)の実力
スバルの安全技術といえば、ステレオカメラを使って緊急ブレーキ支援や運転支援を行う「アイサイト」。そしてこのアイサイトはスバルのデータによると、Ver.2へと発展した時点でその衝突事故の発生率を、これまでから84%も低減したという驚愕の実績を持っている(現在はver.4を開発中)。
しかし言い換えると、減ったとはいえ衝突事故は起こしていると言える。そのときパッセンジャーを救う技術こそが、新型インプレッサから投入された『スバル グローバル プラットフォーム(SGP)』の技術であり、運転席、助手席、車両サイドに設えられた7つのエアバッグである。
実際65km/hのオフセット衝突で、スバル 新型XVはそのモノコックをきれいな形で残した。時速65キロというと大したスピードじゃないように思うだろうが、ぶつかる相手は停止している物体。衝突時の瞬間的な衝撃は、最大で60Gにも及ぶのである。
しかし、この衝撃をXVはきっちり吸収・発散したのだろう。前述の通りドアがきちんと開閉できる状態で、モノコックの形を保っていた。これこそが、昨年JNCAP(Japan New Car Assessment Program)において過去最高得点(199.7点/208点満点)を獲得した実力のひとつである。
そしてサイドのカーテンエアバッグが開くことで窓ガラスにダミー人形の頭部が打ち据えられることもなく、ステアリングシャフトから足を守るニーエアバッグもきちんと展開されていた。
スバルは交通死亡事故減少へ新型インプレッサから「歩行者保護エアバッグ」も標準化
いくらアイサイトの技術を持ってしても、不意に左右から飛び出してくる人や自転車の全てを避け切れる訳ではない(もちろんこれに対してもスバルは研究を進めてはいる)。
ちなみに現在日本では、交通事故による死亡件数は年間4000人を下回るところまで来ており(2016年時点)、政府はこれを2020年までに2500人へ削減する目標を立てている。
実際に自動車メーカー各社の安全技術が向上した結果、自動車乗車中の死亡事故は1322人まで減少し、これは全体の32%まで低減したというデータがある。だがこれを「ぶつかられる側」の事故に目を向けると、歩行中の死亡率は全体で37%(1534人)、自転車乗員の死亡事故は14%(572人)と、全体の51%にも及んでいるというのであった。
そこでスバルは、新型インプレッサから「歩行者保護エアバッグ」を標準化することで対策した。
これはボディ剛性を高めるために必要不可欠なAピラー付け根部分の硬さが、歩行者に対しては危険部位になってしまうことを解消するためのエアバッグ。万が一の際にはボンネットとフロントウィンドウの隙間から展開し、歩行者の頭部や体を守るのである。
ちなみにエアバッグの展開判定は、バンパーと車体の隙間に仕込まれたシリコンチューブの潰れ具合によって、圧力センサーが行う。たとえば大きな障害物とぶつかるような衝撃でも、はたまた樹脂ポールにぶつかるような軽い運転ミスでも、歩行者保護エアバッグは開かないように作られているのだ。
その実演ではペットボトル8本を積んだショッピングカートに追突したケースと、時速50km/h程度の速さで水深200mmの水壕(すいごう)へと突入したケース(衝撃でバンパーが外れるほどの衝撃だった)の2パターンを行なったが、どちらにおいてもエアバッグは開かなかった。
また、このエアバッグは雪や泥がボンネットに溜まった状態や、厳しい温度領域(下は-30℃、上は80℃)でも、正常に展開できるまでテストを行ったのだという。
この他にも衝突時にプロペラシャフトを縮ませることでエンジンを乗員スペースの下へスムーズに潜り込ませる「コラプス式プロペラシャフト」や、後部座席の「シートベルトリマインダ」の採用など、安全装備の充実が図られている。
企業全体で安全を確保する姿勢へ日本はまだ遅れている
今回こうした安全技術の取り組みを見学して大切だと思ったのは、これを「単なる商品に留めてはいけない」ということだ。
たとえば、フォルクスワーゲングループでは事故が起きた際、車内の「SOS」ボタンを押すことで現場と管理側のインタラクティブ通信が可能になるシステムを採用したり、2020年までに現行車での事故による死亡者や重傷者数ゼロを目指すボルボなどは(vision 2020)、事故発生現場にボルボ スタッフを急行させて状況把握に努めている。
安全技術を売るだけでなく、企業全体で安全を確保する姿勢を取る行動力は、まだ日本で未発達の分野。そしてこれに対して真っ先に取り組むべきなのは、アイサイトで安全性能を広くユーザーに知らしめたスバルだと思う。
きっとスバルならば、今回紹介した技術を発表するだけでなく、その技術によってどれほどの命が救われ、さらにどのような支援が必要であるかを広めて行けるリーディングカンパニーになれるはずだ。
[Text:山田弘樹]
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