自動運転バスの実証実験が江の島でスタート! 本格普及までの道のりを改めて考えてみる[“モビリティの世界” Vol.5]

  • 筆者: 楠田 悦子
  • カメラマン:楠田 悦子/小田急電鉄

湘南・江の島でスタートした自動運転バスの実証実験に参加

2018年9月6日から16日まで、神奈川・湘南の人気観光スポットとして有名な江ノ島で、新たな自動運転バスの実証実験が始まりました。私、楠田悦子は9月6日に行われた報道陣向けの出発式に参加し、自動運転バスの実現性について探ってみることにしました。

この実験は、神奈川県が取り組む「ロボット共生社会推進事業」の推進と小田急グループにおけるバスの自動運転の検証のために、小田急電鉄と江ノ島電鉄が神奈川県と連携して実施するものです。また実証実験には、自動運転技術を活用したスマートモビリティーサービスの事業化を目指す、ソフトバンクグループのSBドライブが協力しています。

自動運転バスの実用化はいつ!?

バス業界におけるドライバーの人手不足は非常に深刻で、自動運転バスの実用化を今か今かと期待するバス会社の経営者や自治体の職員の声をよく耳にします。

自動運転バスのみならず、人口減少や少子高齢化による人手不足は、あらゆる産業の効率化や自動化を加速させています。ただし効率化や自動化を実現させるためには、まずは上手に技術と付き合う覚悟が問われています。それはバス業界でも同じことです。

ドライバーのいないバスの実用化など、日本国内や海外の実証実験の映像を観ている限り、あたかも明日にでも実現しそうな錯覚に陥りそうです。しかし、実用化には法整備や運用コストの問題など乗り越えなければならない課題が多く、もう少し時間がかかると言われています。

まだまだ困難も多く、道のりも長い“日本での”自動運転バスの普及を後押しする要因があるとすれば、まさにこのようなドライバー不足の深刻さが、徐々に社会的な理解を得てきたということです。もしもドライバーが十分足りている状況であれば、技術が人の職を奪うとして、労働者の反対が強く、いまだに技術実証すら進まなかったことでしょう。

また、タクシーやバス業界の反対が強く、他国のようにまだまだ上手く普及が進まないケースとして思い浮かぶのが、ウーバーなどのライドシェアです。例えどんなに新しい技術や素晴らしいサービスがあったとしても、社会の状況、事業者の姿勢、その下で働く社員や利用者の理解なくしてなかなか展開も進まないのです。

ドライバーの理解も大切

これまでの多くの自動運転バスの実証実験は、自動運転バスの車両やその運行システムを開発する企業の担当者が運転することが多く、公共交通事業者のドライバーが運転席に座ることは多くありませんでした。現時点では、まだ自動運転バスの技術実証や一般利用者の声を集めたり反応を見ることが第一の目的であり、事業者やドライバーの声を聞く段階までは至っていなかったように思います。

しかし今回の江ノ島での実証実験は、第二段階であるドライバーの自動運転バスに対する理解を高めることを目的としたものです。自動運転バスが技術的にも安定し始めていて、同時に社会的な理解も少しずつ高まってきた結果と言えるでしょう。

自動運転バスが走る小田急電鉄の片瀬江ノ島駅から江ノ島までの一般道は、路上駐車やサーフボードを自転車に載せて走るサーファー、さらに観光客が車道を歩いているなど、バスでなくても運転が非常に難しいエリアです。

江ノ島の実証実験は自動運転レベル4の実現を目的としたもので、現時点ではレベル3相当になります。ドライバーはできるだけハンドルやブレーキなどの操作をしないように心がけ、路上駐車などを避ける際に手動で運転操作をします。日々ハンドルを握って運転をしているドライバーにとっては、自ら運転ができないため非常にストレスを感じることも多いでしょう。

しかし、警察のマニュアルに沿って講習を受け、出発式にハンドルを握った江ノ電バス藤沢のドライバーの反応は、ちょっと意外なものでした。

「自動運転バスの運転は楽しいです。自動運転バスのシステムが、既存のバスにもあれば運転へのストレスが軽減されそうです。このような最新テクノロジーが活用されることで、バスのドライバーの職が魅力あるものになり、ドライバーのなり手が増えると嬉しいです」

自動運転の技術を少しずつ導入して、会社や社会がICT化に慣れる

自動運転バスの試乗を終え、このようなドライバー(実際には積極的に“運転”はしていませんが)の感想を聞いた筆者は、次のようなことを感じました。

自動運転バスの技術は、既存のバスに少しずつ適用していきながら、バスの運行管理者、ドライバー、利用者、社会が徐々にその技術に慣れていき、その積み重ねの先に、ドライバーのいないバスの実用化が実現するのではないか。

これらのプロセスを経てようやく「ドライバーのいないバス」という商品が完成し、初めて市場に広まることが出来るのでしょう。

江ノ島での試乗は、自動運転バスが普及するステップが頭の中で描ける…そんな現実味のあるものでした。

これからも各地のバス事業者でドライバーの理解を深める実証実験が広まり、それを踏まえて、システムや教育など社内のICTをどのように進めないといけないのかなど、現実的な導入に向けた準備が急速に進むことを大いに期待します。

[Text:楠田 悦子/Photo:楠田 悦子/小田急電鉄]

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楠田 悦子
筆者楠田 悦子

「暮らしや社会をより"心豊か"に」をテーマに、新進気鋭のモビリティジャーナリストとして活躍中。 欧州生活、バックパーカー、NGOなどの経験を基に、クルマ、鉄道、バス、自転車、飛行機‥身近な人やモノの移動やその手段の進化に着目。暮らしや社会の問題を考察したり、新たな価値を提案するなど、具体的にアクションをとることがライフワークになった。自動車業界紙、(株)自動車新聞社の記者出身で、モビリティビジネス情報誌「LIGARE」の初代編集長。国や自治体の検討会委員なども務める。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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