交通(モビリティ)先進都市の台湾・高雄市から占う日本の未来|私たちの生活を深化させる“モビリティ”の世界 Vol.4

日本人観光客にも人気の台湾でいま注目すべきは“モビリティ”

タピオカミルクティや日本人の舌にも合うやさしいヘルシーフード。気候も温暖でマリンスポーツや温泉も楽しめる。東京から約3時間の距離にあって、それでいてリーズナブルかつ親日で清潔…

国内旅行のような感覚で行ける台湾はいま、老若男女問わず人気の海外旅行先です。

そして“モビリティ”の側面でメディアで取り上げられ注目される台湾モノといえば、昭和40年代頃に造られた日本製の古い鉄道車両とノスタルジックな車窓風景でしょう。他方では、日本も車両開発で協力した台湾新幹線が浮かぶ方も多いかもしれません。それだけみると、台湾の交通サービスよりも、いまだ日本の方が先進的だというイメージが付いているような気がします。

しかし、実はそんなことはありません!

台湾の交通の楽しみ方は、ノスタルジックな鉄道だけではないのです。さまざまな問題に対し“野心的なチャレンジ”が行われていることはまだまだ知られていません。それも、我が日本にとっても刺激になるような事例の数々です。

今回はそんな「知ってるようで知らない」台湾の交通事情をお伝えします。

>>台湾・高雄市で取材した時の画像はコチラ

時代の最先端をいく公共交通の仕組みが完成しつつある台湾・高雄市

台湾南部に位置する第3の都市「高雄市」。今回はこの街に注目します。

高雄市に訪れて誰もがまず最初に触れるであろう民間公共交通、地下鉄・ライトレール線「MRT」(高雄捷運:高雄メトロ)。空港や都心部、そして各観光地などを結ぶ便利な路線です。地下鉄は車内に自転車を持ち込むこともできて、電動車いすやハンドル形車いすもひとりで乗り降りできるようバリアフリーの一貫した思想で造られています。

開業したばかりのライトレール(LRT:次世代型路面電車システム)はLRTの本場、欧州から輸入した車両を使用。白と緑のカラーリングが高雄の街並みにも良くマッチしています。しかしふと見上げると、LRT・路面電車につきものの、街の空を蜘蛛の巣のように覆う煩わしい架線がないことに気付きます。高雄メトロのLRTは、駅などでパンタグラフ充電をして車両に急速充電し、蓄電池で走る仕組みなんです。

2017年9月から正式運行を開始。その後も少しずつ延伸工事が進んでいて、将来的には街をぐるっと一周するような計画になっているそうです。

EVバスや充実した自転車シェア

このほか高雄市では、今年2018年から68台のEVバスが走りはじめました。台湾ではいま国をあげてバスのEV化を推進しています。車両の屋根にバッテリーを積んでいるため、外見からはEVかどうかわからないほど。

そして本コーナーでも既にご紹介済みの、日本でも注目されている自転車シェア。鉄道駅としっかり乗り継ぎができていて、初乗りの30分は無料。公共交通としてラストマイルの移動をしっかり支えています。

日本ではまだまだLRT、EVバス、バリアフリー、自転車シェアは、普及を前に多くの課題を抱えているのが実情です。あんなことこんなことが出来ると素敵だろうなと筆者が思うことを、日本から3時間の隣国で実現できてしまっていることに、嫉妬すらしてしまうほどです。

一見理想的だが課題も多く抱える高雄市

ここまでの話では、なんと高雄市は優等生なのかと思うでしょう。しかし高雄市もたくさんの問題を抱えています。

高雄市は鉄鋼産業の盛んな都市で、大気汚染が大きな問題です(だからこそEVバスが積極的に導入され始めました)。そして大卒の初任給が8万円程度にも関わらず家賃は高く自家用車の保有率は低くめ。通勤補助もないため、一般的な街中の移動は小型スクーター(約15万円)などのオートバイが中心です。

高雄市の人口は、中心部が150万人、合併した周辺部も合わせると約250万人ですが、同程度の人口を有する横浜、大阪といった日本の大都市と比較すると、自動車・バイク依存度が高いのが高雄市の特長と言えるでしょう。

実際に高雄市を訪れてみると、道路の脇はバイクで埋め尽くされています。そのため特に若い人の交通事故が深刻なのだとか。鉄道やバス路線網が張り巡らされ、一家に一台自動車が買えるほど経済的にそこそこ安定している日本の都市部の方が、もしかすると問題は少ないのかもしれません。

とはいえ、ICT・IoT化が急速に進む今、まさに公共交通網を再整備しようとしている高雄市の事例は、少子高齢化の中での交通政策を新たに見直す必要のある日本の都市においても、なにか参考になるケースのような気がします。

「高雄が頑張っているなら、うちの街でもできるんじゃないか?」

日本に似た街並みを見ると、きっと新たなアイディアが湧くことでしょう。

高雄が交通でキラリと光って見える理由は「人材と哲学」にあり

筆者がはじめて高雄市を訪れたのは、2017年に高雄市がホストで開催されたエコモビリティワールドフェスティバル(EcoMobility World Festival)がきっかけでした。

エコモビリティフェスティバルは、ただ鉄道やEVの単なる展示会やカンファレンスではなく、「持続可能な環境にやさしい街づくりのために移動手段やそのサービスはどうあればよいのか」といった議論を行う国際会議。

ヨーロッパをはじめとする世界各国の自治体担当者や、カーシェア、ライドシェア、自転車シェア、自動運転バス、モビリティアズアサービス(MaaS)など、新しいサービスの関係者が集まって議論する質の高い会議でした。

「アメリカのような自動車社会から、ヨーロッパのように、人を中心としたまちづくりやモビリティを考えるように考え方を大きく転換させました」と話すのは、高雄市政府交通局副局長のShu-Chuan,Chang氏。1990年の後半あたりから本格的に交通政策が動き出し、公共交通を整備し始めたようです。

高雄市交通局の政策に詳しい市議会議員は「高雄市では交通政策を重視しています。大気汚染問題や道路を埋め尽くす小型バイクの数を減らして、交通事故のない街を作ることは非常に大切です。そのためにもラストマイルを担う自転車シェアを含めた、環境負荷の低い公共交通を統合的に整備することが大切なのです」と、哲学や具体策を細かな問題点にまで踏み込んで力強く語ります。

いっぽう地下鉄に勤める元企画担当者は「日本やヨーロッパの事例を参考に事業を進めています」とも話していました。

日本的な街並みで、たくさんの日本文化に囲まれた生活を送っている彼らですが、交通政策に関する思考は、生活を重んじるヨーロッパの関係者と話しているような気持ちになります。

日本の都市交通施策には“哲学”がなく、課題からただ逃げ回っているだけである!

筆者の憶測でしかありませんが、このようなフェスティバルは、東京を除く日本の自治体がホストをするのは非常に難しいのではないかと感じます。

日本と比較すれば公共交通の整備や大気汚染対策など、遅れをとる面もありますが、高雄市はグローバルレベルで議論ができる人材がいるという意味で、一歩進んだモビリティ都市だと言えるでしょう。

「どんな街に私たちはしたいのか」

「持続可能な都市にとって公共交通がなぜ重要なのか」

「自動車ではなぜだめなのか」

「課題も多い新たな技術やサービスをまずどのように使い、同時にどのように課題を解消していけば良いのか」

哲学的かつ重要な避けては通れない議論ですが、こと日本では、少子高齢化、財政難などいろいろな理由をつけながら、逃げ回っているような気がしてならなくなりました。

[TEXT:楠田 悦子/PHOTO:楠田 悦子]

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楠田 悦子
筆者楠田 悦子

「暮らしや社会をより"心豊か"に」をテーマに、新進気鋭のモビリティジャーナリストとして活躍中。 欧州生活、バックパーカー、NGOなどの経験を基に、クルマ、鉄道、バス、自転車、飛行機‥身近な人やモノの移動やその手段の進化に着目。暮らしや社会の問題を考察したり、新たな価値を提案するなど、具体的にアクションをとることがライフワークになった。自動車業界紙、(株)自動車新聞社の記者出身で、モビリティビジネス情報誌「LIGARE」の初代編集長。国や自治体の検討会委員なども務める。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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