雪も走れる夏タイヤ「ミシュラン クロスクライメート」を真冬の北海道でテスト!

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夏タイヤなのに冬も履ける?!気になる雪上での性能はいかに?

いよいよウワサの「雪も走れる夏タイヤ」、ミシュラン・クロスクライメートシリーズを雪上で試すことができた。

ドライとウェットのテストの模様はこちらから

ステージとなったのは北海道士別のテストコース。試乗当日は東京の最高気温が18度まで上昇した暖冬の日で、士別の気温もマイナス3度と高め。しかしながら朝から吹雪に見舞われ大量の雪が降り積もるという、かなりトリッキーな路面状況となった。

こんな雪深さの中で、本当に夏タイヤがグリップするのだろうか?

テストメニューは3つ。

第一ステージは、日産 リーフのFF車(タイヤサイズは205/55R16)による直線制動とスラロームで、これをミシュランのベーシックな夏タイヤである「エナジーセイバー+」と比較試乗した。

ちなみにクロスクライメートシリーズは14インチ以下を「クロスクライメート」、それ以上を「クロスクライメイト+」(プラス)、そしてSUV用を「クロスクライメイトSUV」と分けている。その違いはサイズとコンパウンドだが、これは各レンジの車両及びサイズ特性を考慮した結果で、求める性能に違いはないという。

さて話をテストに戻すと、ここで感心したのは加速エリアとスラロームエリアには圧雪を敷き詰めながらも、制動エリアにはきちんと氷盤を用意したことだ。「雪も走れる」としながらも、このタイヤは氷上性能を備えていない。実際ミシュラン公式ページにおける評価表にも、凍結(アイスバーン)は×とある。それをミシュランはきちんと、我々に体感させようとしてくれたのだ。

アイスバーンはNGだが新雪/圧雪ならばグイグイと行ける

しかしそれ以上に強烈だったのは、同じ“夏タイヤ”であるエナジーセイバー+で雪道を走った印象だった。いや正確には、「走れなかった」印象だと言ってよい。まずエナジーセイバー+では雪上路面での発進自体が難しい。普通にアクセルを踏み込んでしまうとタイヤが一気に空転し、トラクションコントロールがメーターでピカピカと点灯しながらも、クルマは一向に前には進まない。つま先へ僅かに力を入れ、そーっと発進してようやくタイヤが雪をひっかき、そろそろと走り出すような状況だ。

オマケに吹雪によるホワイトアウトでコースをロストし、設定外の深雪へ足を踏み入れてスタックするというあり様。

ちなみに筆者は関東在住だが、雪が降るとどんな近場であったとしても夏タイヤでは走らないことにしている。毎年11月ごろからスタッドレスタイヤを履き始め、これを3月ごろまで履き続けるのだが、久々に「夏タイヤ+雪道」の組み合わせを味わって、改めて雪道に夏タイヤで立ち向かう愚かさを思い知った。

さて肝心なクロスクライメート+はというと、確かに驚くべきバイト性能(雪面に食い込んで行く性能)を発揮して、出足から確実にタイヤを路面に食い込ませながら発進した。その力強さには、あのごついV字パターンによる、高い雪柱剪断性能がイメージできた。エナジーセイバー+での走れなさが一変してモリモリと日産 リーフが歩を進める様子は、ちょっと感動的ですらあった。

一方コンパウンドは氷点下だと、スタッドレスタイヤのような柔らさが感じられない。ハンドルから伝わるのはややゴツゴツとした感触で、路面との密着感も希薄だ。

そしてこの特性は、雪上での走りで如実に表れた。簡単に言うとこのクロスクライメート+、縦方向のグリップはかなり出ているのだが、横方向のグリップレベルはさほど高くない。実際コースの折り返し転回やスラロームでは、操舵は効いてもその慣性でリアがスーッと滑り出す。加速性能が高いだけに速度が上がり過ぎれば、そもそもクルマを曲げられないドライバーも出るだろう。

リアタイヤが滑り出してもアクセルを踏み足すことでトラクションを掛けてやれば、クルマはラリー車のようにカーブをドリフトしながらクリアして行く。しかしこうした運転を、一般道でやりたいか? といえば答えはNO。

いくら雪を走れると言っても、積極的に雪道に繰り出してよいのかは、正直筆者にもつかみきれない。だから安全第一。慣性が働くほど車速を上げず、真っ直ぐ走っては止まり、ハンドルを切ってはアクセルを踏んで行くという走りが堅実である。

注目の氷上ブレーキングは、実のところ判断が難しかった。同じ速度であれば氷上でもクロスクライメート+は、エナジーセイバー+よりも短く止まってしまうのだ。しかし同社でいえばX ICE3+、つまりスタッドレスタイヤとの比較ではないため、その差が判然としない。

これほどクリーンな氷路面は通常路面ではあり得ないが、単純な安心感の観点から言えば、やはり「氷上はNG」となる。

雪上での登坂能力は抜群で一時停止後の再スタートも可能

次のステージでは、日産 ノート e-POWER(タイヤサイズは185/65R15)で登坂路面を走り比べた。いやこれも、「走り比べることは適わなかった」と言った方が適切だ。そもそもエナジーセイバー+では、スタート地点として設定された6%勾配の斜面を、発進することすらできなかったのである。

対してクロスクライメート+は6%勾配を順調に登り、8%勾配へ切り替わる地点でストップしても再スタートを切ることができた。13%勾配地点でストップするとここから脱出できなかったが、試乗車の駆動をe4WDに入れ替えると、見事にこれを登り切ってスタート地点まで折り返したのである。

最後のテストはメルセデス・ベンツ GLA(装着タイヤはクロスクライメートSUV。タイヤサイズは235/50R18)でフリースラロームとレーンチェンジを試したが、ここでは試乗車の駆動力や4輪制御能力の高さが際立ち、クロスクライメート+の印象を引き上げた感が強い。スラロームではフロントタイヤがしっかりと路面を捕らえ、アクセルで姿勢を自在に操れる。レーンチェンジでは時速50km/h台からパイロンをクリアし、切り返しでもテールを振り乱さず車線内にクルマが収まる。

逆に言えば優れた4WD車ならかなりの雪上路面でも、クロスクライメート+で走破することが可能。ただし何度も言うがその接地感には、スタッドレスタイヤほどの安心感は薄い。

使い方次第でとても便利で頼もしい存在になる

さてこうした特性を踏まえた上で、ミシュラン クロスクライメートを総評してみよう。

まずひとつ言えるのは、雪道でこのクロスクライメートを履く場合、「絶対に過信は禁物」ということだ。その高い雪上走破性能に気を良くして、スタッドレスタイヤで走るような速度を出せば、ふいに現れるアイスバーンには確実に足下をすくわれる。

だからこそ年に一度か二度しか雪の降らない非降雪地域でなら使い勝手がよいと思われがちだが、それも筆者には少し疑問。なぜならそういう地域こそ、日陰などでは雪解けによってアイスバーンができるからだ。

よって降雪時の使い方としては、家の前から除雪が行き届いた幹線道路に出るまでのエマージェンシータイヤとして使うのが理想的。

それでも期せずして降り出した雪に対して、家にたどり着けるだけの安全が確保できるのは心強い。日本における非降雪地域のドライバーは雪への対応が苦手な場合が多く、またスタッドレス以外にウインタータイヤの使い方は知らないことも含めて、欧米で言えばオールシーズンタイヤのような使い方が合っていると思う。もっともミシュランはこのクロスクライメートを、ウインタータイヤともオールシーズンタイヤとも謳ってはいないというややこしさはあるが。

もちろんこのタイヤには、美点も沢山ある。

雪が降らずとも気温が低く、通常の夏タイヤではウォームアップが必要な状況でも、走り始めから高いグリップを発揮する。それは降雪時の温度領域をもカバーするコンパウンド性能のおかげで、前編(12月の栃木テストコース)のレポートでも実証済みだ。ドイツなどでは気温が7度以下に下がった場合、ウインタータイヤの装着が義務づけられる。日本にはこうした規則はないが、非降雪地域でもこうした特性は安全につながる。

また冬期に雨が降った場合、スタッドレスタイヤよりも格段に高い、夏タイヤとして考えてもハイレベルなウェット性能を発揮する。それと同時に高速安定性や制動力までもが得られる。これこそが非降雪地域における、冬期最大のメリットだと私は思う。

そして面白いアイデアとしては、降雪地域における夏タイヤとしての活用方がある。そのウインター性能によって季節外れの雪や低温にも対応するばかりか、シーズンイン直前の繁忙期をずらし、空いているときにスタッドレスタイヤへ履き替えを行うことができるのだ。

スタッドレスタイヤの必要性が低い地域のユーザーにとって、一年をひとつのタイヤで過ごせるのは理想的だ。しかし今の技術では、季節を問わず路面も問わないという魔法のタイヤはまだ存在しない。スタッドレスタイヤと同じウインター性能を持つ夏タイヤや、夏タイヤと同じドライ/ウェット性能を持つ冬タイヤはない、と今回の試乗で改めて感じた。

オールシーズンタイヤというとどことなく“万能感”が漂うけれど、それはまったくもって違う。だからこそミシュランもクロスクライメートを「雪も走れる夏タイヤ」と表現したのだろう。

その使い方をきちんと理解することができれば、ミシュラン クロスクライメイトは大きな武器となる“夏タイヤ”である。

[筆者:山田 弘樹/撮影:日本ミシュランタイヤ]

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山田 弘樹
筆者山田 弘樹

自動車雑誌編集者としてキャリアをスタート。輸入車雑誌 副編集長、アルファ・ロメオ専門誌編集長等を経て、フリーランスのモータージャーナリストに。レース参戦なども積極的に行い、走りに対する評価に定評がある。AJAJ会員。カーオブザイヤー選考委員。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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