DESIGNER's ROOM 日産自動車 青木護プロダクトチーフデザイナー(3/3)
- 筆者: 金子 浩久
- カメラマン:オートックワン編集部
蒔絵の美しさがヒントとなったセンターコンソール
青木さんの言葉を待つまでもなく、フーガのインテリアデザインは、とても華やかだ。
革、プラスチック、金属などの素材がさまざまに組み合わされ、フーガ独自の世界を作り上げている。2本と同じ曲線が見当たらないほど、その造形は凝っている。
青木:「自然界には、直線や同じ曲線というものが存在していませんね。われわれ日本人は、昔から自然を敬って共に生きてきました。その姿勢をインテリアに反映させました」
たしかに、フーガの車内には直線や平行する2本の線などが存在しない。自然の景観や生き物の肢体のように、ナチュラルな曲線が連続している。
青木:「センターコンソールも、金属パーツの銀色と対応させて、華やかさを醸し出すことに成功しました」
鈍く光って見えるセンターコンソールは、本物の木材に銀粉を擦り込んだものだ。
青木:「蒔絵がヒントになって作りました。プレミアムカーのデザインでは、出自が強く問われるんですよ」
青木さんの言う“出自”とは、メーカーの歴史であり、そのバックボーンとなる国の伝統だ。
青木:「ベタな日本(笑)は嫌われますが、蒔絵の美しさは日本人にも西洋人にも共感を得られると思います」
同感だ。“日本らしさとは何か”という問いに対する答えは人それぞれだが、蒔絵とはいいアイデアだと思う。蒔絵のことを知らない人は気付かないだけだし、蒔絵を知っている人はニヤリとさせられる。
青木:「インフィニティは日本のブランドですから、日本のいいものを吸収していかなければなりません」
出自が問われるとは、まさにそのことで、インフィニティが世界で勝負するためには、自ずと“インフィニティとは何か”、“日本とは何か”を問い続けなければならないだろう。
青木:「他には視認性を向上させるために、大きなメーターにしました。世界最大だと思います」
直径120ミリのスピードメーターとタコメーターは、視認性を向上させるために、それぞれ内側に少し傾けられている。
よく見ると、メーターダイヤル面は機械式高級腕時計のようなギョーシェ彫りさえ、施されている。なんという凝りっぷり!
青木:「艶、勢、精。インフィニティを表わす、コアな言葉です。フーガは、今回のモデルチェンジで大きく変えましたが、今後はその中心となる価値を変えることなく、進んで行きます。プレミアムブランドにとって、一貫性や連続性はとても重要ですからね」
フーガの大胆な変身には、時代の変化への対応と販売戦略の変更という課題があった。
青木:「難しいんですけどね」
青木さんの口からは枕詞のように「難しいんですけどね」と何度も出てくる。たしかに難しかったであろうと想像が付くが、その甲斐あって、フーガは見事に生まれ変わった。青木さんたちデザイナーの貢献が大きい。
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