“即日完売”の伝説を生んだスバル WRX STI「S207」試乗レポート(4/5)
- 筆者: マリオ 高野
- カメラマン:和田清志
鋭敏な操舵レスポンスと鉄壁なリアの安定感がもたらす「自由自在な感覚」
さらに、これまでのSTIコンプリートカーとは少し異なると感じたのは、中低速コーナーにおけるハンドリングでした。
S207と同じ11対1のクイックなステアリングギア比が与えられた先代WRX STIの「tS TYPE RA」では、まるでミッドシップレイアウトのクルマのように鼻先が軽く感じられ、リアにはエンジン重量荷重がかかっているかのような安定感が得られたのに対し、同じクイックなギア比ながら、ボディ側の入力伝達速度が早くなったおかげで操舵レスポンスがさらに鋭敏となったS207では、中低速コーナーでの進入時に「ひょっとしたら、このクルマは俺の腕でも簡単にドリフトできるのかも?」などと一瞬だけ錯覚します。
もちろんそれは錯覚で、実際には筆者の操縦ごときで低次元なテールスライドなど起こるはずもなく、超鋭敏な操舵レスポンスと鬼レベルの鉄壁なリアの安定感の両立ぶりに圧倒されることになるのですが、この「自由自在感」がもたらす精神高揚効果が凄まじいのです。
STIが独自にテストコースで測定した結果では、ロールレートやピッチレートで欧州のベンチマーク車(たぶんP車)を上回る数値がでたようなので、絶対的なグリップ力や横G限界値などもスバル車史上最強になっているはず。
それでもなお、素人ドライバーでも感じられる面白さや愉しさが増している点は大きな特筆ポイントでしょう。
「ドリフトも自由自在」と思わず錯覚してしまうほど
この「ひょっとしたら自分でもドライ路面で自在にドリフトができるかも!?」と一瞬錯覚してしまうのは、タイヤのグリップ感が、前作のS206が履いていたミシュランのパイロットスーパースポーツの路面にネバネバとまとわり付くような粘着系のグリップ感とは少し異なり、ややアッサリ系の食いつき感であることも要因のひとつかも知れません。
245/35R19サイズのミシュラン・パイロットスーパースポーツを履いていたS206では、「タイヤの性能や特性に合わせたシャシーセッティング」という感じでしたが、255/35R19サイズのダンロップ SPORTMAXX RTを履くS207では「タイヤの方がクルマの性能や特性に合わせてくれている」っぽさが強く、S207本来の持ち味であるキビキビ感がより愉しく感じられます。それゆえに「俺でもドリドリ自在かも感」が出るのでしょう。
本当は異次元レベルで安定してるのに、まるでドリドリ振り回せるかのような感覚が伴うという新たな境地を開いたようです。リアルなのに、ある意味バーチャル。本当に振り回せる腕のある人にとっては、すべてを完全に自分のコントロール下に置きながらの全開アタックがしやすいマシンであるはずです。
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