衰退のきっかけは“AT限定免許”!本格的に復活の兆しが見えてきた「MT車」(1/3)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
スズキ アルトワークスのMT販売比率は「90%」!
最近、MT(マニュアルトランスミッション)を搭載したスポーティカーが話題になっている。
直近では2015年12月に発売された「スズキ アルトワークス」が5速MTを用意したところ、MTの販売比率は約「90%」にも達した。アルトワークスのATはシングルクラッチ式の「5速AGS」で、ツインクラッチやCVTに比べると変速時の滑らかさに欠けてしまう。
2015年3月にアルトターボRSを5速AGSのみで発売し、「5速MTが欲しい」という声に応えて投入されたのがアルトワークスだった。そのような経緯があるために5速MTの比率が高いのは当然といえば当然だが、それにしても90%という比率はかなり高い。
過去を振り返ると、1980年代の中頃はAT車とMT車の販売比率はそれぞれ「50%」前後だった。
Lサイズセダンを中心にAT比率が高まってはいたが、コンパクトな車種を中心にATとMTが設定されていて価格はMTが安かった。そして当時のATはトルクコンバーター式の3速か4速だから燃費性能も劣り、ATの欠点を避けるために実用性でMT車を選ぶユーザーも多かった。
「AT限定免許」発足により状況が一変
ところが1991年にAT車に限定した「オートマチック限定免許」が発足すると、状況は一変。
AT限定であれば技能講習の時間が短く、運転免許の取得費用も節約できる。同時に1990年代に入ると、2代目マーチなどのコンパクトカーにもトルクコンバーターをロックアップさせる4速ATが増えて、燃費の不満も解消されてきた。
このような事情で1990年代の中盤には乗用車に占めるAT車の比率が80%前後まで高まり、MT車は販売減少と併せて搭載車も減らすようになった。そして2000年代には、AT車の販売比率は90%を上まわり、今ではMT車の比率は5%に満たない。
免許の取得形態を見ても、いまや第1種普通運転免許を取得した人の「56%」はAT限定だ(2014年版・運転免許統計)。
ただしAT車の限定免許が普及したからというだけで、AT車の販売比率が90%に達したとはいえない。直近の統計でも、運転免許取得者の44%はMTの運転を可能としている。
MT車の販売比率が5%以下に下がった理由は、MT車の品ぞろえが激減したからだ。
今は新車として売られるクルマの38~40%を軽自動車が占めるが、軽自動車の中でMTを選べるのは前述のアルトワークスを含めて少数になる。
地域によっては軽自動車は日常生活に不可欠な移動手段で、ユーザーには高齢者も多い(だから増税は許されない)。その中にはAT車を運転した経験のない人も含まれるから、一部のベーシックグレードには5速MTを残している。それでも販売比率はごくわずか。
ファミリーユーザーを対象に売られるミニバンは、ほぼすべての車種がAT専用。セダンやSUVも、一部の車種やグレードを除くとATのみだから、販売比率は必然的に90%を超えるのだ。このあたりはメーカーがユーザーの気持ちを理解していないところだろう。
AT車の比率が増加傾向になり、AT車の限定免許も用意され、AT車の燃費も向上したとなれば「MT車はもう不要」と判断されてしまう。ATの限定免許が発足したのは前述のように1991年で、それ以前に取得したユーザーも大勢いるのに考慮されないのだ。
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