日産 ノート デザイナーインタビュー/プロダクトチーフデザイナー 前田 敦(3/4)
- 筆者: 森口 将之
- カメラマン:オートックワン編集部
デジタルデータでは出せない、ローテク作業の極意とは
AO:インテリアについてはどうでしょう。旧型は外観同様、実直なデザインでしたが、新型はまずクオリティアップが目立ちます。
M:クオリティというのは難しくて、パネルの隙間を小さくすることだけではなく、良い素材を使っているように見えるか、コーディネーションが適切か、お客さんの身体機能に合っているかなども評価されます。Bセグメントのハッチバックですから、大きな面を使うことはできない。
そんな中で何をキーにするかというと、コーディネーションです。顕著に現れているのがセンタークラスターで、ただピアノブラックを与えるだけでは効果が薄いので、両脇にシルバーのフィニッシャーを持ってきて、内側のオーディオにはクロームメッキをちりばめています。素材の組み合わせがないと質感が出しにくいので、丹念に作り込んでいきました。
AO:インパネ上面のゆったりしたエッジが目立ちますね。
M:我々は砂紋ラインと呼んでいます。こういうデザインをやりたかったわけではなくて、ドライバーから見た包まれ感と、パッセンジャーから見た広がり感を両立させたのです。どの席に座っても楽しめるというのが新型のコンセプトでしたから。これを風とか波とか、もっと強いものにしてしまうと、ティーダのお客さんにとってはアグレッシブにすぎるので、知らないうちに形が変わっていくようなイメージを大切にしました。
AO:エクステリアのスカッシュライン同様、難しい作業だったのではないかと感じるのですが。
M:人間の目はアナログなので、デジタルに変換されたものは違って見えてきます。砂紋ラインは、手で作り上げてこそ、あの雰囲気が出ると思っています。実際、工場でデジタルデータを元にモノを作ると別物になってしまう。なので工場の人に型を撫でてもらったりして、ローテクな作業で仕上げていきました。
AO:メーターについてはどうですか。
M:エコメーターに気をつけました。エコっていうと、緊張する方が多いと思うんです。メーターというのは、数字と目盛りがあって、もともと緊張しやすい環境です。スピード違反しないように、ガス欠にならないように、常にチェックしている。
なのに小さなゲージをたくさん付けて、『今何点ですよ』とやるのは、エコという概念に相容れないと思ったんです。エコって、普通の生活の中で、シンプルにやるものじゃないかと思って。だからプレッシャーを与えず、パッと見て認識できる手法として、光を使ったのです。
AO:ティーダの内装色はベージュというイメージが強かったんですが、新型ノートはブラックだけですね。
M:グローバルで考えると、たとえばアメリカやインドでは明るい色が好まれるのです。ただそういうお客さんが黒を否定しているわけじゃない。きちんとコーディネイトされた黒がなかった。だから黒の中にブルーを挿していくとか、華やかにしていくことによって、そういうお客さんにも訴求できるんじゃないかと考えたんです。
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