トール/ソリオハイブリッド/フリードプラス ~スライドドアを備えた、いま人気の最新コンパクトミニバン3車を徹底比較~(3/4)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:小林岳夫
広い室内と各種の便利な装備で自宅と同様の快適性を満喫
背の高いコンパクトカーは日常生活の中で便利に使えるツールだが、一家に1台のファーストカーでもある。快適性や質感を高めることも大切だ。そこでトールは、価格を割安に抑えながら内装をていねいに造り込んだ。
インパネは樹脂製だが、ステッチ風の細かな装飾を施した。手で触ると樹脂製と分かるが、見栄えは合成皮革を使ったソフトパッドのようだ。エアコンのスイッチなどが収まるインパネの中央には、光沢のあるブラックのパネルも使った。前席は腰を包む形状でサポート性が良い。背の高いボディによって頭上の空間が十分に確保され、角度を立てたフロントウインドーとの間隔も広い。ミニバンような開放感がある。
後席も広々としており、頭上に加えて足元のスペースにも余裕がある。後席のスライド位置を後端まで寄せると、身長170cmの大人4名が乗車して後席に座る同乗者の膝先空間は握りコブシ3つ半に達した。Lサイズセダンでも2つ半程度だから、足をゆったりと伸ばせる。
シートアレンジも多彩だ。後席を床面へ落とし込むように格納すると、車内の後部がボックス状の広い荷室になる。荷室高は1,070mmと高く、大きな荷物も積みやすい。 床面のボードを反転させると汚れを防止するシートになり、26インチサイズの自転車も気兼ねなく積める。デッキボードを持ち上げると、背の高い荷物も収納しやすい。後席は格納と併せて、240mmの前後スライド機能も左右独立式だ。
左側にチャイルドシートを装着した時は、前方に寄せると便利。運転席に座る親との間隔が縮まり、信号待ちの時などに子供のケアをしやすい。
右側は後方にスライドさせると、大人が快適に座れる。後席には70度のスライド機能も備わり、前席をリクライニングさせて連結すると車内をベッドルームのようにアレンジできる。
またコンフォートパックをオプション装着すると、運転席と助手席のヒーターに加えて、前席の背面に折り畳み式テーブルが備わる。ボトルホルダーも内蔵され、後席に座ってオヤツを食べたりする時に使いやすい。
運転席と助手席のカップホルダーは回転式。押し込んだ状態ではスマートフォンなどが収まり、回転式だから手前に2段階で引き出すとさまざまなサイズのカップに対応できる。一番手前に引き出しした状態では500mlの紙パックが収まる。インパネ中央の下側には5Lの容量を備えた大型ボックスがあり、脱着式だからゴミ箱としても使いやすい。
このほかインパネからドアの内側まで、さまざまな場所にトレイやポケットを備えた。自宅にいる時と同じような機能があるので、快適かつ便利に移動できる。
安全装備はスマートアシストIIを幅広いグレードに装着した。センサーには赤外線レーザーとカメラを併用するので、歩行者も検知して警報を発する。車両については、緊急自動ブレーキの作動も可能とした。
収納設備を充実させて緊急自動ブレーキの機能も充実
インパネはシンプルなレイアウトで、メーターはインパネ中央の奥まった位置に装着した。チェックする時は視線が左に寄るが、上下方向の移動は少ない。奥まった位置に装着されるから目の焦点移動も抑えられる。機能は一長一短だ。
前席はサイズに余裕を持たせ、肩の周辺までサポートする。座面は適度に柔軟で、背もたれの下側は適度に硬いから、乗員の体をしっかりと支える。 後席は腰が少し落ち込む座り方だが、底突き感はなく快適に仕上げた。背が高いために、頭上に十分な空間がある。
また身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ半。トールと同等のスペースを持たせた。
後席の格納操作は簡単で、背もたれを前に倒すと座面も連動して下がる。トールのような床面に落とし込む方式ではないから、荷室高は少し不足するが、ワンタッチだから操作は簡単だ。ちなみに同じスズキ車でも、スペーシアはトールと同様に床面へ落とし込むように格納する。車種の性格に応じて使い分けており、ソリオの方式でも実用的には十分な広さが得られる。
後席のスライドと格納は左右独立式で、乗車人数や荷物の量に応じて調節できる。前後席をリクライニングさせて連結すると、車内をフラットな空間に変更することも可能だ。ゆったりと足を伸ばして休憩できる。
収納設備は多彩で、メーターが高い位置にあるのを利用して、ハンドルの奥側にフタの付いたボックスを設けた。カップホルダーは500mlの紙パックに対応しており、インパネ中央の下側にある大型のボックスは、トールと同様に脱着が可能だ。
助手席の下にはワゴンRなどにも採用される容量の大きなアンダーボックスが備わり、グリップが付いているから車外に持ち出せる。助手席の背面には、Gを除いて折り畳み式テーブルを標準装着した。
安全装備では、デュアルカメラブレーキサポートをGを除く全車にオプション設定している。2つのカメラで歩行者や車両を検知して、危険が迫ると警報を発したり、緊急自動ブレーキを作動させる。さまざまな装備をバランス良く充実させた。
後席を格納すると大人が就寝できる広い空間になる
フリードプラスのメーターはデジタル式だ。アナログ式と違って速度を感覚的には把握しにくいが、メーターパネルを薄型にデザインできた。インパネ最上部の奥まった位置に装着され、視線移動と目の焦点移動を抑えながら圧迫感も抑えている。
ATの操作レバーとエアコンのスイッチは、比較的高い位置に装着されて操作性を向上させた。機能的で質感も満足できる。
前席の座り心地は快適だ。座面は適度に柔軟でサポート性が優れ、背もたれの下側は少し硬く造り込んだ。後席は、身長170cmの大人4名が乗車して、乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半になる。トールやソリオに比べると少し狭く、床と座面の間隔も不足気味だから膝が持ち上がりやすい。それでも大人4名の乗車は十分に可能だ。
注目されるのは荷室の機能。先の項目で触れたように、フリードスパイクは荷室の床を深く掘り込んだ。床面地上高が335mmと低いため、収納性が優れ、背の高い物も積みやすい。専用のユーティリティボードを使うと、荷室が上下2段に区分される。掘り込んだ下側は、大容量のアンダーボックスとして便利に使える。後席の座面を持ち上げて背もたれを前に倒すと、フラットな荷室の床面積がさらに広がり、大人2名の就寝も可能だ。
ディーラーオプションではラゲッジクッションマットも用意され、車中泊に対応している。荷室の側面にはユーティリティナットが備わり、棚やネットも装着しやすい。 フリードスパイクのボディはトールやソリオよりもひとまわり大きく、取りまわし性は低下するが、荷室の容量が拡大されてさまざまな機能も持たせた。収納設備の数は平均的だが、メーターが高い位置に装着されるので、ハンドルの奥側にフタの付いた収納ボックスを設けた。
インパネには引き出し式の小さなテーブルが備わる。緊急自動ブレーキを作動できる安全装備のホンダセンシングは、ミリ波レーダーと単眼カメラを併用する。歩行者や車両を検知して、衝突の危険が生じると警報を発したり、緊急自動ブレーキを作動することも可能だ。
時速10~40kmで走行中に、路側帯の歩行者と接触しそうになった時は、ハンドルも制御して回避操作を促す。 またミリ波レーダーの応用で、車間距離を自動制御して追従走行できるクルーズコントロールも採用した。
時速25kmを下まわるとキャンセルされるので速度に注意する必要はあるが、高速道路を巡航する時などは疲労を軽減できる。
内装・装備の総評
タント、スペーシア、N-BOXなど、全高が1,700mmを超える背の高い軽自動車は、車内の広さ、居住性、シートアレンジを巡る競争が激しい。そのために後席のスライド位置を後端まで寄せると、足元空間を大幅に拡大できる。
トールとソリオは、軽自動車のノウハウを投入して開発されたので、後席の足元空間がボディの大きなフリードを上まわった。居住性の確保という意味では、フリードのスペースがあれば十分だが、後席に装着したチャイルドシートに子供を座らせる時などは、足元にタップリした余裕があると作業がしやすい。
後席に座るだけだとムダな空間に思えてしまうが、子育て世代のユーザーなら便利に使いこなせる。足元にオムツやタオルの入った袋などを置けるのも都合が良い(ただし衝突時に加害性が生じる荷物は必ず荷室に収めたい)。
一方、フリードプラスはボディが大きく、後席を畳んだ時に得られる広い荷室と床下の収納スペースが魅力だ。価格も高いので、車内で宿泊したり趣味を楽しむ空間とするなど、フリードプラスの機能を有効活用できるユーザーに適する。
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