「系列廃止は顧客のため」は大ウソ!?東京のトヨタディーラー統合に見るチャネル戦略の行く末

2019年4月、東京のトヨタディーラー4社が統合

トヨタ車を扱う東京地区の販売会社(ディーラー)が、2019年4月1日に統合されることになった。統合される販売会社は、東京トヨタ株式会社/東京トヨペット株式会社/トヨタ東京カローラ株式会社/ネッツトヨタ東京株式会社の4社だ。

現時点でこれらの販売会社は、トヨタ自動車株式会社の完全子会社となるトヨタ東京販売ホールディングスの傘下に置かれ、さらに同社の完全子会社になっている。

つまりディーラー4社は、トヨタにとっては孫会社に位置付けられ、子会社のトヨタ東京販売ホールディングスを含めて2019年4月に統合するわけだ。

これまでの系列軸から地域軸へと移行

今回の東京のトヨタディーラーの統合は、トヨタが2016年から開始した「J-ReBORN計画」に基づいている。従来のトヨペット店やトヨタカローラ店といった4系列(チャネル)を軸にするのではなく、地域単位で販売を見直す方針だ。

今回統合される東京地区のトヨタ店/トヨペット店/カローラ店/ネッツ店は、前述のようにトヨタの直営会社。過去を遡ると、東京トヨタは古河財閥系を中心とした銀行や生命保険会社などが1946年に設立したが、1967年にトヨタ自動車販売が直営子会社にした。

要は100%出資による完全子会社同士の統合だから、今回の東京地区の動きを見る限りは、特に大きな変革とはいえない。しかし同様のことをほかの地域に置き換えると、意味はまったく違ってくる。

販売力の強いトヨタを支えるのはメーカー資本に頼らない地方の地場ディーラー

昨今の自動車メーカーの多くは都市部を中心に規模の大きな直営販売会社を展開するが、トヨタでは、東京都などの一部を除くと、メーカーの資本に頼らない有力な地場ディーラーが育っている。過去には地場ディーラーの経営が悪化して、一時的にトヨタが資本を投入したものの、再び別の地場ディーラーに買い取らせることもあった。

その結果、トヨタと販売会社の関係は常に対等で、トヨタは日本国内で好調に売れるクルマを開発する責任を負う。販売会社はそれを責任を持って販売するという良好な関係が築かれた。今でもトヨタは販売力が強いと言われるが(まさにその通りだ)、背景には地場資本ならではの市場指向がある。

トヨタ店/トヨペット店/カローラ店/ネッツ店の4系列が維持されるのも、地場資本による強靱な販売会社が多いからだ。それぞれが専売車種を扱い、手厚いサービスでユーザーを囲い込んでいる。

ちなみに日産、ホンダ、マツダなど他メーカーの販売店も、かつては系列化されて専売車種を持っていた。ところが2000年代の中盤から後半に掛けて、メーカーの直営化が進んだ影響もあり、全店が全車を扱うようになった。

全店が全車を扱う理由として「全店で全車を買えた方が便利だから」と説明するメーカーもあったが、これは大ウソだ。

「全店で全車を買えた方が便利」なら、そもそも系列を設ける必要はなかったはずだ。全車を扱わず、車種を限定して大切に売った方が、顧客の満足度を高められるから系列を設けたのだ。

系列廃止は顧客のためではなく、販売網・車種の再編のため

それならなぜ今になって系列を廃止するのかといえば、販売網や取り扱い車種を縮小しやすいからだ。

例えば店舗を閉鎖する場合、取り扱い車種を含めて系列化されていると、その車種を供給できない地域が生じてしまう。しかし全店が全車を扱えば、店舗を廃止しても周囲の拠点でカバーできる。

系列化があると、車種の廃止も難しい。系列を維持するには、相応の数の売れ筋車種が必要になるからだ。

例えば今の日産車で堅調に売れているのは、ノート/セレナ/デイズ/デイズルークス/エクストレイル程度だ。売れ筋車種がこの程度では、専売車種を設けた系列化は成り立たない。

つまり販売系列にメスを入れることは、率直にいえば「終わりの始まり」で、販売規模の縮小を前提にした後ろ向きの再編だ。今後も好調に売れるのであれば、せっかく築き上げた販売系列を廃止する必要はない。

ホンダカーズ移行後は粗利の少ない軽自動車の販売増加で業績悪化

そして系列を廃止する前と後で各メーカーの販売実績を比べると、廃止した後の方が全般的に業績が悪化している。また売れ筋車種の偏りも著しくなる。

車種を含めた系列があれば、取り扱い車種の販売に専念して、売りにくい高価格車でも一生懸命に販売する努力をする。

しかし全店が全車を扱うと、売り方も変わってくる。ひとつの店舗がボディサイズから価格まで幅広くそろえているため、「小さくて安価なクルマが欲しい」という顧客が増えると、ボディが大きくて高価なクルマの売れ行きは一気に下がり、歯止めが利かなくなる。

その典型例がホンダだ。ホンダが国内で売るクルマの内、軽自動車の比率は、1990年代の中盤は30~35%だった。軽自動車を扱うのはプリモ店のみで、上級車種はクリオ店、スポーティカーはベルノ店という具合に、タイプに応じて取り扱い車種が分かれていたからだ。

それが2000年代の後半に系列が廃止されてホンダカーズに統合されると、軽自動車の比率が増え始め、2011年に先代ホンダN-BOXが発売された後は、新車販売されるホンダ車の約半数が軽自動車になった。全店が全車を売るから、小型/普通車から軽自動車に乗り替える流れを止められない。ホンダでは当然に小型/普通車が売れ行きを落とし、N-BOXの発売と入れ替わるように、シビックは国内販売を終えた。

2017年のシビック、2018年のCR-V復活は、ホンダカーズへの移行に基づく販売不均衡の反省とも受け取れる。

対等だったメーカーとディーラーの力関係が、今はメーカー側に偏っている

このように国内販売の再編は、あまり良い結果を生んでいない。トヨタは東京のような一部地域を除くとメーカー資本に頼らない直営の販売会社が多いから、他メーカーのように系列廃止に向けて突き進むことはないだろう。

それでも外堀を埋めるように、系列を形骸化させる動きが強まっていることは事実だ。

以前のトヨタ車は、大半が専売車種だった。同じクルマでもネッツ店はヴォクシー、トヨタ店はノア。トヨタ店はエスティマT、カローラ店はエスティマLという具合に区別した。

トヨペット店のプレミオ、トヨタ店のアリオンは、現行型にマイナーチェンジされるまではボディパネルも違っていた。開発者は「ディーラーの意向に基づいて、面倒でもボディを造り分けた。主にトヨペット店がプレミオの内外装をアリオンよりも上級にして、価格を高くすることを希望した」という。プレミオは1.8リッターが売れ筋のコロナ、アリオンは1.5リッターで人気を得たカリーナの後継で、かつては前者が上級に位置したからだ。

この状況が今はずいぶん違う。プリウスは初代がトヨタ店、2代目はトヨタ&トヨペット店、先代型の3代目は全店扱いに移行した。ほかにもアクア、シエンタ、C-HRなど、ハイブリッドを用意する車種には全店併売が目立つ。

プレミオ&アリオンも、マイナーチェンジ後はボディを共通化した。先に述べた開発者の「ディーラーの意向に基づいてボディを造り分けた」時に比べると、「ディーラーの意向」を汲み取っていないことになる。

これはかつて対等だったメーカーと販売会社の力関係が、メーカーに偏っていることを意味する。販売会社の間では「系列を残すとしても専売車種は減り、トヨタ店はクラウン、トヨペット店はハリアー、カローラ店はカローラ、ネッツ店はヴィッツだけになる。そのほかは全店、あるいは2系列店の併売」というのが通説だ。

つまり国内の販売系列を合理的に再編する第1弾が、全社を完全子会社にしている東京地区の統合といえるだろう。この作業を通じて得られたノウハウが、地場資本ディーラーの多いさまざまな地域に波及していく。

ディーラー統合で進む合理化、その一方で販売店の個性は薄れていく

また地場資本の販売会社にも悩みは多い。少子高齢化に加えて人口の流出もあり、4系列を維持するのが難しい地域もある。そこで資本系列が共通の場合は、同じ敷地内にトヨタ店とカローラ店などを併設する複合店舗も見られるようになった。サービス工場などの施設は共同で使う。

この試みをする時も「トヨタ店とカローラ店では、点検費用の基本料金が異なる。同じ工場で、同じメカニックが同じ作業をするのに、お客様からは異なる料金をいただくのか」という課題が生じたりするが、従来のやり方ではムダが増えてしまう。たとえ表向きは変わらなくても、統合をすれば、管理部門、部品の流通、板金塗装など、さまざまな分野で合理化を図れる。

5年ほど前の話だが、トヨタの重役に「最近は全系列扱いなど併売する車種が増えた。系列を廃止するのか。廃止しないとすれば、何を持って系列の個性とするのか」と尋ねたことがある。返答は「系列の廃止は一切考えていない。併売する車種が増えても、店舗の色彩や内装の造り、接客態度などで系列の個性を保てる。お客様は好みに合った店舗に来店される」とのことであった。

果たしてほぼ同じ車種を扱いながら、系列の個性を維持できるのか。この返答に、メーカーと顧客の距離が離れつつあることを感じた。

最も大切なのは、販売会社の自主性に任せることだ。販売会社は常にユーザーに接しているから、その自主性に任せれば、ユーザーの便宜を図ってメリットを高めることに結び付く。

メーカーは販売会社を支援する役割と考えた方が良い。少なくともトヨタよりも先に国内販売を再編したブランドを見る限り、メーカーが率先すると良い結果は生まれない。

[TEXT:渡辺陽一郎]

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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