コスモスポーツ&R360クーペ レストア車両試乗レポート。1960年代の名車を贅沢比較【マツダ体験会レポートNo.1】(1/3)

  • 筆者: オートックワン 編集部
  • カメラマン:MAZDA
コスモスポーツ&R360クーペ レストア車両試乗レポート。1960年代の名車を贅沢比較【マツダ体験会レポートNo.1】
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~はじめに~

3月某日、広島県のマツダ本社で行われた『若手編集者 マツダ体験会』へ、オートックワンの花形部署?編集部に、つい半年前に配属された“新人”編集者である筆者が参加してきた。

2日間みっちり詰まったスケジュールを通して、“若手”編集者がマツダのクルマ造りを知る大変貴重な機会を頂戴したので、このレポートでしっかりとお伝えしたいと思う。主催者の皆様、ほんとうにお世話になりました。

終始おもしろおかしく進んだのだが、2日間のハイライトは、自動車専門媒体界隈の切実な問題である“若手不足”が影響して、このツアーのタイトルが『マツダ体験会』に修正された、初日の午前7時 羽田空港であったことを事実として(又、笑い話として)お伝えしなければなるまい。

就活に悩む皆さん、日本の基幹産業である自動車業界に、メディアという視点から関わってみるのはいかがだろうか。オートックワン編集部の門戸はいつでも全開放である。

本レポートは、自動車業界歴の浅い、ガチの“新人・若手”編集者が感じたマツダをそのままお届けするため、クルマ好き歴の長い“プロ読者”の皆様がご存知のマツダとは異なる世界が描かれるかもしれないが、どうか生暖かい目で見守っていただきたい。

ちなみに、私はこの体験を通じてデミオを侮っていたことを痛感させられ、デミオが欲しくなった。

まずは2日目に行われた『レストア車両体験試乗』の模様からお送りするが、ほかにも工場見学や新型(第6世代)車両イッキ乗り、“人馬一体”ドライビングポジション講座等、今のマツダを知ることができる重要な体験をさせていただいたので、後日掲載する記事にも期待してほしい。

◆オールドモデル試乗レポート

『マツダ体験会』2日目に行われたこの企画は、数々の修羅場を潜り抜けてきたベテラン編集者の皆さんにとっても新鮮な体験であったらしく、誰もが少年のような輝きをもって2つのモデルを見つめていた。

今回試乗できたのは、1960年代のマツダを作った『コスモスポーツ』と『R360クーペ』の2車種だ。後述するが、この2車種は、マツダで静態保管されていた個体を、マツダの若手従業員が中心となって行う“レストア活動”の一環として、“当時の状態を復元”した車両である。

試乗会場は、山口県美祢市の山中にある『マツダ美祢試験場』。MINEサーキットの跡地を利用しているため、全長3.3kmのサーキットを中心に、ワインディングコースやフラットゾーン、悪路ゾーンなど、さまざまな種類の道が用意されている。

◆R360クーペとは

皆さんは「1960年(昭和35年)」と言われて、日本の道路をパッと思い浮かべることはできるだろうか。“もはや戦後ではない”とうたわれるほど日本の経済は発展し、いわゆる高度経済成長期を迎えていた。

1960年代の自動車業界はまさに黎明期。今の主要国産車メーカー以外にも小さなメーカーが勃興し、「日本車」製造に汗を流していた。

当時の花形と言えば、スバル360。通商産業省(現在の経済産業省)が打ち出した『国民車構想』にのっとって、大衆車として機能する軽自動車を約40万円で販売しており、まさに爆売れしていた。

そこに対抗車として登場したのがマツダR360クーペである。徹底的な軽量化と利便性を追求したスバル360とは対照的に、かわいらしくオシャレな見た目、4サイクルV型2気筒エンジン、2速トルコンAT等、当時の先進技術を搭載。マツダの前身である東洋工業が初めて製造した4輪車として、破格の約30万円で発表した。

1960年の平均年収は約30万円、約1年分の給与に相当する。2015年の平均年収は約420万円なので、価格で例えるとアルファードやヴェルファイアに相当する。お金さえ出せさえすれば誰でも車が買えるようになったと言えども、まだまだ一般的というには時間がかかる時代。

とはいえ、当時のほかのクルマと比べると圧倒的に安く、その人気は、初年度で達成した23,417台という数字が物語っている。

◆R360クーペが語るマツダのクルマ造り

R360クーペの魅力は価格だけではない。軽量化されたボディは結果的に燃費の改善につながり、当時主流だった2サイクルエンジンの採用をやめ、4サイクルエンジンを採用したのは、この時から環境性能を考えてのことだった。

また、この車が多くの人々に愛された理由は、トルコンATの採用にある。当時はATが一般的ではなかったため、高齢者や足に障がいを抱える人には運転することが難しかった。

しかし、R360クーペに採用された2速ATは、左手だけでギアチェンジを行うことができたので、結果的に(MT車を含め)当時の軽乗用車の生産台数のシェア率が64.8%に達する人気車となるのだった。

“人馬一体”をテーマに掲げ、より安心・安全に運転できるクルマ造りを目指す現代のマツダにも通ずる理念を感じた。

◆R360クーペが走る!1960年代の空気は旨かった

今回の試乗は、美祢試験場内にあるフラットコース。地方の大型スーパーの駐車場をイメージしていただければサイズ的にちょうどよい。各所にパイロンが並べられ、ブレーキ性能、加速性能、ハンドリング性能を確かめられるコースが作られていた。

R360クーペのボディサイズは当時としてもかなり小さい部類に入る。全長:2,980mm/全幅:1,290mm/全高(車高):1,290mmと、数値的にはビートより小さい程度だが、実際に見るともっと小さく感じる。

走っている姿を見るとほぼおもちゃだ。そこまでスピードが出ていないのにもかかわらず、ものすごく頑張っているかのようなエンジン音がするので、傍からみていて応援したくなってしまう。

しかし、実際に乗ってみると計器類が最低限しかない上にRRなので足元は相当広い。奥行きはもちろんだが、センターコンソールなどが無いので横の空間が広大で、もはや空洞と言っていい。

レストアメンバーによると、シートは3段階で調整できるが、現在のようにスライド式になっていないので、いったん外す形になるとのこと。

発進方法はほぼMT車と同様。エンジンキーをひねるとセルモーターが回り、オイルが充填され、エンジンが始動する(この間2秒ほど)。ブレーキを踏み、シフトノブの頭についたボタンを押しながらレバーを前に倒すと1速。アクセルペダルを踏むと、唸るようなエンジン音が背後から聞こえ、車体が動き出す。

開放した三角窓から排気の匂いが微かに入り込み、当時のことは何一つ知らないにもかかわらず、 なんとなく懐かしい気持ちになった。年代を感じるカラーリングの室内の雰囲気と相まって、不思議と不快ではない。

◆時代の流れを感じさせるR360クーペのブレーキ性能

加速性能を体感する前に、現代とは異なるブレーキ性能についても確認した。諸元表を見ると『油圧内部拡張式 4輪制動』となっているが、いわゆるドラム式ブレーキのことだ。

15km/hほどで発進した後ブレーキをかけてみたのだが、焦るほど止まらない。感覚的には、「ブレーキが効かなくなる夢」と表現すればわかりやすいだろうか。踏めばブレーキがかかっている感じはするのだが、ギュ~っと締め上げていくような感じで、ゆっくりと、ドライバーの意思に遅れて効いていく。

もう一度言うが車速は約15km/h。にもかかわらず前輪が停止線を超えてしまった。

現代のクルマはいかにブレーキ性能が良くなっているかを感じさせる体験であった。今後はブレーキを踏むたびに技術の進歩をかみしめながらペダルを踏むことだろう。そしてきっと、次にブレーキが効かない夢を見たときに乗っているのはR360クーペだ。

◆4サイクルV型2気筒エンジンの実力を試す!R360クーペはどこまで加速できるか

お待ちかね加速性能である。

当時の諸元表では、最高速度85km/hとなっているが、レストアメンバーの話では、(レストア車では)50km/hが確認した最高速度だという。車体自体がご老体なので無理は禁物だ。

いざ加速してみると、車体が軽いため意外にもトルクフルな感じがしたが、ゆっくりと伸びていく印象。最大回転数は5,300回転と当時としては異例の高回転エンジンだったようだ。

ある程度速度が出たように“思えた”ので、2速にギアチェンジしてみる。

操作方法はクラッチペダルが無いだけでMTと同じだ。アクセルを離し、シフトノブの頭についたボタンを押しながら手前に引いて2速。途中でギアがぐいっとかみ合ったような抵抗が逆に新鮮。

半クラッチは不要なのでそのまま加速すると、先ほどよりも大きな音でエンジンが稼働しだす。が、メーターを見ると30km/h前後。

小さい車で、車高が低いためスピード感がかなりあり、ブレーキも思ったように効かないので、読者の皆さんには物足りないだろうが早めにブレーキを踏ませていただく。

◆R360クーペのステアリングには、歴史の重みが乗っていた

加速テストで頑張っていただいた後はハンドリング性能の確認だ。

まず前提として、もちろんパワーステアリングはついていない。パワステが無い車を運転するのは初めてだったのだが、予想以上に重く、内径が大きなハンドルでないとなかなか難しい運転になることが容易に想像できた。

細かいカーブの連続や、大きなカーブなど数種類を体験したが、細かいカーブは小気味良く、大きなカーブは気持ちよくゆったり曲がることができた。

横に振られる感じはあまりなく、足回りはしっかりした印象。低速で走るぶんには遊園地気分でとても楽しい。頑張っている感じを、それとなく背後で演出してくれるエンジンは愛らしくも感じる。

◆R360クーペの内装・外装デザイン

今回試乗させていただいたのは、デラックス仕様のR360クーペだ。内装が豪華なグレードで、リアカーテンがつくなど外から見ても高級感を感じる。メーカーバッジとR360のバッジは金メッキで彩られ、白い車体のアクセントとなっている。

ドアミラーは当時まだ認可されていなかったため、フェンダーミラー。こちらも初体験だったのだが、意外に見やすく、視線の移動も少ないので、これはこれでありなのではと思ってしまった。

ボディカラーはアルペンホワイト・マロンルージュ、シートカラーは赤。ルーフも赤だ。クリーム系の白に暗めの赤がよく合い、スポーティというよりも、落ち着いた印象を受けた。

諸元表では4人乗りということになっているが、後部座席はほぼ無いに等しい。大人2名+小さい子連れのファミリー、ないしは大人2名+荷物、という想定だったそうなので、大人が後部座席に座る場合は、横向きに体育座りをするしかない。次の機会があればぜひ後部座席を体験してみたい。

◆マツダ初の乗用車、R360クーペが伝えるものとは

R360クーペに試乗させていただいて分かったのは、クルマは非常に便利であること。今では当たり前だが、当時の状況を考えると、大人2人+荷物を載せて移動することができるのは相当画期的だったに違いない。それまでオート3輪1筋だった東洋工業が開発に乗り出したのもうなずける。

また、当たり前のことではあるが、現代のクルマはあくまでも昔の延長線上であることを再確認した。

先進技術や安全機能などが盛りだくさんに採用された現代のクルマと昔のクルマの性能は大きく異なるが、基本的な“走る”“止まる”“曲がる”の機能は変わっていない。そう考えると、1960年代にその機能がすでに完成されていた“自動車”という機械/製品は素晴らしいものだということを思い知らされる。

戦争で大きな痛手を受けた日本が諸外国のクルマを生産することで技術を培い、世界に誇れる“日本車”を生み出せるまでに成長したことは、日本のモータリゼーションの幕開けとして、自動車専門メディアに勤める以上しっかりと記憶しておかなければならないと感じた。

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筆者オートックワン 編集部
樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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