コスモスポーツ&R360クーペ レストア車両試乗レポート。1960年代の名車を贅沢比較【マツダ体験会レポートNo.1】(3/3)

  • 筆者: オートックワン 編集部
  • カメラマン:MAZDA

◆レストア活動について

このレストア活動が開始されたのは2015年。若手従業員が中心となって始めた企画で、マツダの100周年記念に向けて、1年に1台のペースで行われる予定だそうだ。

気になるのは、なぜ若手がレストア活動を始めたのか。コスモスポーツとR360クーペに試乗する前に話を聞くことができた。

◆「どれだけマツダのことを知っていますか?」

これはレストア活動を企画した若手従業員たちが、自分たちに問いかけた質問だ。

回答としては、SKYACTIV技術、ロータリーエンジン、ル・マンでの優勝などが挙げられるが、これはマツダの歴史においてほんの一部分でしかない。そう気付いた彼らは、「お客様に寄り添っていくためにはマツダをもっとよく知らなければならない」と思い、このレストア活動に至ったという。

また、過去の車を題材にした理由は「過去から未来を通して知ることで、マツダの思想や哲学を体感し、共感したいから」とのことだった。要するに“未来を創る”ために“過去を造る”のだ。なんとアツイ企画だろうか。

レストアチームは、当初十数人の若手で構成される予定だったが、社内で有志の募集をかけてみると、開発系・生産系部門だけでなく、管理や営業部門からもメンバーが集ったという。

さらに、古い情報を基にパーツの制作方法を探る中でサプライヤーを尋ねると、「うちでも古い工法を探ってみたいので、ぜひ一緒にやらせてほしい」と積極的に参加してくれたという。

驚くべきことにこの活動、部門だけでなく会社まで飛び超えた横断企画だったのだ。

ブランドコンセプトやテーマを掲げる企業はたくさんあるが、それがマネジメントだけではなく現場の隅々まで浸透している会社は少ない。工場見学レポートでも書くが、どの部門の方の話を伺っても、「魂動デザインを実現するのは自分たちだ」「お客様のために自分は何をすべきか」という意識を、しつこすぎるくらい感じた。

さらに、従業員だけでなく、本来別の企業であるサプライヤーまでもがマツダのモノづくりに対する思想に共感し、理解し、自ら考え、実践している。これが最近のマツダがブランドイメージを強化し、確実にファンを増やすことができた理由だろう。

身内にファンを増やす。単純だが実は一番難しいことをマツダはこの数年で実現したのである。

◆未来を創るために、過去を造る

後述になったが、実は試乗会の直前まで、R360クーペは試乗できないかもしれないと聞かされていた。

前日の懇親会では、R360クーペの調整に関わった高田氏(普段はハーネス設計を担当している)が、苦々しい表情を浮かべながら食事をしていた姿が記憶に残っている。

しかし、いざ試乗会が始まると、R360クーペが元気に走り回っているではないか!これはどうしたことかと高田氏に尋ねると、前日の曇った表情とは一転、晴れ空のごとく満面の笑みで経緯を話してくれた。

不具合の原因は、真鍮製のキャブレターフロートに穴が開き、オイルが侵入したことで必要な浮力が保てず、オーバーフローを起こしていたこと。それを、マツダ勤続50年の“レジェンド”と呼ばれるベテラン技術者が見事に直し、正常に動くようになったという。

私はこの時のT氏の満面の笑みこそが、レストア活動の意義であり、次のマツダを担う重要なファクターなのだと思った。こうしたボトムアップの成長ができるからこそ、“人中心”のクルマ造りが可能となったのだろう。私はこの笑顔をきっかけにマツダのことをもっと応援したいという気持ちになった。

この記事を書く間も、きっとT氏はハーネスと格闘しているのだろう。デザイン部門との調整が一番大変だと言っていたが、自動車の血管ともいえる重要な部品だ。

デザインが開発を先導する珍しい体制ではあるが、ぜひこれからも良いハーネス設計を続けてほしい。“レジェンド”と呼ばれるその日まで。

◆100周年に向けた今後の予定

今回は2015年にレストアされたコスモスポーツと、2016年にレストアされたR360に試乗することができたので、残るは3台。どれもマツダの歴史を語るうえで欠かせない名車たちなので、その走る姿を見ることができると思うと胸が高鳴る。

今後のレストアラインナップは以下の通り。

――――――――――――――――

2015年:コスモスポーツ

2016年:R360クーペ(デラックス)

2017年:ルーチェREクーペ

2018年:ファミリア(5代目)

2019年:三輪トラック(DA型)

――――――――――――――――

きしくも東京オリンピックの年に100年企業になるマツダ。今後どのようなクルマで我々を魅了してくれるのか非常に楽しみだ。

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