欧州勢の急速なEV化に“ちょっと待った”! トヨタ・日産ら日本勢の電動化に向けた現実的な取り組みとは
- 筆者: 渡辺 陽一郎
日本政府は2020年10月26日(月)、菅首相の国会所信表明において、2050年までに脱炭素社会(カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)の実現に向けた宣言を発信した。
これを受け東京都の小池知事は12月8日(火)の会見で、都内で販売する全ての乗用車について2030年までに電動化を義務付ける方針を掲げるなど、クルマの世界では大きく“電動化”が話題となっている。
そんな中欧州では、電動化=電気自動車(BEV)化へ一気に動いている。カーボンニュートラルの覇者となるのは欧州か、それとも日本か。
欧州勢の動きに待ったをかける、トヨタ・日産など日本勢の取り組みについて、カーライフジャーナリストの渡辺 陽一郎氏が解説する。
欧州でいま急速に進む“電動化”! しかし良い事ばかりではない
そもそもクルマの「電動化」とは一体どういうこと!?
最近のクルマにまつわるニュースでは「電動化」という言葉が頻繁に使われる。クルマをモーターで動かすことを表すが、「電動」の解釈は幅広い。
自動車業界では、マイルドハイブリッドなども含めてモーター駆動全般を“電動”と捉えるが、政治家などの発言や一部の報道では、内燃機関(エンジン)を使わない電気自動車(BEV)や燃料電池車(FCV)のみを電動とする見方もある。
欧州で電気自動車の売れ行きが急上昇しているのは“補助金”のおかげ
そして欧州連合(EU)では、内燃機関を搭載しない電気自動車や燃料電池車の普及に積極的だ。
2050年にはEU内の温暖化ガスの発生をゼロに抑える目標を掲げ、「2030年までにゼロエミッションの電気自動車や燃料電池車を3000万台に普及させる」方針を打ち出した。
売れ行きも増えており、2020年には欧州18か国において、電気自動車が72万台(シェアは7%)、プラグインハイブリッドは60万台(同6%)販売された。
欧州で電動車が好調に売れる背景には、コロナ禍による需要の落ち込みに対応した補助金の交付もある。補助金を差し引くと、もともと欧州で人気のあったクリーンディーゼル車と同等の負担で購入が可能だから、電気自動車やプラグインハイブリッドを普及させる追い風になった。
電気自動車が急速に普及する欧州、ただし課題も山積する
2030年に電気自動車が3000万台まで普及すると仮定しても、欧州におけるゼロエミッション車の保有台数は全体の15%だ。2050年に域内の温暖化ガスの発生をゼロに抑えるため、この普及水準を維持する考えだが、欧州自動車工業会は現実的ではないという見解も示している。
欧州自動車工業会では、充電スタンドの不足も訴えている。
2030年に電気自動車を目標通りに増やすには、充電スタンドも300万箇所まで完備させる必要があり、現在の15倍に相当するとしている。
このように欧州は、電気自動車の普及に力を入れながら、困難も抱えているわけだ。
国によるエネルギー政策の大転換なくしては、カーボンニュートラルなど達成出来ない
日本で電気自動車の普及が現実的でない理由は“発電”の構成比にある
日本にも同様のことが当てはまる。
日本自動車工業会(自工会)によると、日本では火力発電の割合が80%近くを占めており、原子力発電は20%少々だ。火力で発電された電気を使って電気自動車を走らせると、走行段階で二酸化炭素を排出しなくても、発電の段階で生じてしまう。
つまり電気自動車の普及で二酸化炭素の排出量を根本的に抑えるには、太陽光、風力、水力、地熱など、再生可能エネルギーを普及させる必要がある。
ただし原子力発電は二酸化炭素を排出しないが、安全面を含めて不安が多い。
デカい容量の電池は製造過程のCO2排出量がハンパない! 高性能EVが抱える課題とは
また電気自動車やプラグインハイブリッドに使われるリチウムイオン電池も、現時点では製造過程における二酸化炭素の排出量が多い。
電気自動車の場合、電動機能を備えないノーマルエンジン車の2倍以上ともいわれ、リチウムイオン電池の総電力量が増えるほど、製造時の二酸化炭素排出量も増加する。
マツダによると、35.5kWhのリチウムイオン電池を搭載するMX-30EVモデルと、マツダ2のクリーンディーゼルを比べた場合、製造過程における二酸化炭素排出量はMX-30EVモデルが多いと説明する。
この後の走行過程では、MX-30EVモデルの二酸化炭素排出量は少ないが、製造過程で上まわった分を取り戻せるのは8万6000kmを走った頃になる。この距離に達するまで、総合的な二酸化炭素排出量は、マツダ2のクリーンディーゼルよりもMX-30EVモデルの方が多いのだ。
言い換えれば、電池容量が大きな電気自動車は、1回の充電で長い距離を走行できる半面、製造時の二酸化炭素排出量が増えて本末転倒になってしまう。
日本は長年に渡り培ってきたハイブリッド技術で欧州のEV独占戦略に対抗
CO2排出量の抑制を目指す欧州CAFE規制
こういった状況の中で、日本メーカーが緊急の対応を迫られるのが欧州連合だ。
2021年には、二酸化炭素の平均排出量を1km走行当たり95g以下に抑えることが求められている。95g/kmを超えると「超過した1g当たり95ユーロ(1万2350円)×欧州の販売台数」を罰金として支払わねばならない。通称CAFE規制と呼ばれるものだ。
欧州メーカーは、先に述べた電気自動車化の流れに沿って車種を充実させている。ただし、EV化を推進するメーカーの中でも、VW(フォルクスワーゲン)社のように、実際にはCAFE規制をクリアできなかったメーカーもある。
これに比べて日本メーカーの欧州対応はさまざまだ。
日本メーカーの欧州市場におけるCAFE規制への対応は多彩な手段を持つ
トヨタはカローラ、C-HR、カムリ、レクサスを含めて幅広い車種にハイブリッドを搭載する。欧州の車種構成も幅広く、プリウス以外でも、ノーマルエンジンを選べないハイブリッド専用車が増えた。これによりCAFE規制をクリアしている。
日産は電気自動車としてリーフとe-NV200を導入しており、今後は新型車のアリア発売が控える。
今のところ日産のハイブリッドe-POWERは大半が日本向けだが、今後は状況が変わる。可変圧縮比エンジンのVCターボを発電用に使うe-POWERが新型車のキャッシュカイ(日本未発売のSUV)に搭載され、欧州でも販売される。つまり今後の日産は、海外でも電気自動車とe-POWERを環境技術の柱に据える。
ホンダは2020年に電気自動車のホンダeを発売した。日本の販売計画は1年間で1000台だが、欧州では1万台を売る計画だ。ハイブリッドとしては、ジャズ(フィット)、HR-V(ヴェゼル)、CR-Vもそろえる。
マツダは今のところCX-30などのマイルドハイブリッドと、MX-30の電気自動車だ。CX-5は欧州では直列4気筒2リッターガソリンエンジン中心のラインナップとし、排気量を小さく抑える。三菱はプラグインハイブリッドのPHEVが中心になる。
日本のハイブリッド技術がCO2削減に大きく貢献する
以上のように欧州メーカーは、電気自動車とプラグインハイブリッドが中心で、日本は電気自動車、プラグインハイブリッド、ベーシックなハイブリッドなど幅広い技術で優れた性能を達成していく。
例えば日本仕様のトヨタ ヤリス ハイブリッド Xはオーソドックスなハイブリッド車だが、20年以上に渡り培った技術力の積み重ねで、WLTCモード燃費は36km/Lと優秀だ。1km当たりの二酸化炭素排出量も64gに収まる。
日産 ノート X(e-POWER)は、WLTCモード燃費が28.4km/Lで、1km当たりの二酸化炭素排出量は67gだ。
トヨタや三菱にはプラグインハイブリッドもあるので、日本メーカーはさまざまな技術を組み合わせる。
2050年のカーボンニュートラル実現は、EV化すれば解決するような単純な話ではない
今後電気自動車を中心に据えるのであれば、日本、海外ともに複数の課題を解決する必要がある。
まず根本的に二酸化炭素の排出量を抑えられる再生可能エネルギーの普及だ。その上で、電気自動車を運行できる十分な発電量も確保せねばならない。
リチウムイオン電池を含めて、電気自動車の製造過程における二酸化炭素の排出抑制、日本では軽自動車を含めた電気自動車の価格低減など多岐にわたる。
したがって電気自動車を短期間で普及させようとすれば、発電時まで含めたトータルの二酸化炭素排出量が増加したり、ユーザーが不便を感じてしまう。欧州の性急な電気自動車化の動きは一見華々しいものだが、現実を冷静に見るべきだ。
ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車と複数の技術を使いながら、進化の度合いに応じて、いわばグラデーション的に環境性能を向上させていく必要がある。
[筆者:渡辺 陽一郎]
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