三菱自動車工業 開発本部 EV・パワートレインシステム技術部 吉田裕明 インタビュー(5/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
信じること、続けること、それが夢につながる
1994年から18年間にわたり電気自動車開発一筋に邁進してきた吉田裕明の座右の銘は、「信じること、そして続けること、それが夢につながる」である。その背景にあるものとは?
【吉田裕明】自分が信じることを見つけて、やり続けると、夢につながって、実現できるという意味です。電気自動車の開発をずっとやってきて、つくづくそう思うようになりました。
1994年から、電気自動車の開発に関わりはじめてから、必ず電気自動車が世に出るだろうと確信したのは、99年の12月に電気自動車用リチウムイオンバッテリーを開発し、これを搭載した試験車両で、24時間連続走行を行い、急速充電を繰り返しながら2000kmを走り切ったときです。
ところが、時代はハイブリッドカー一色で、アメリカのZEV法(Zero Emission Vehicle Mandate=排ガスゼロの新車を販売しなければならないというカリフォルニア州の法律:筆者注)も、バッテリー性能がまだ十分でないということで繰り延べになるなど、逆風が吹いていました。
また、2001年からは、三菱自動車がダイムラー・クライスラー社の傘下となり、電気自動車開発を言い出しにくい状況にもなりました。それでも、同社のバッテリー担当に、試作したエクリプスEVを乗せたら「諦めてはいけない、止めてはいけない。これはいいクルマだ」と言われ、止めずになんとかつなぎとめていたら、2004年に同社からの支援打ち切りが発表されました。
そこで、それまで温存してきた試作車で開発を行い、i-MiEVの量産にこぎつけることができたのです。 2005年に次世代電気自動車MIEVの技術開発構想を発表した折に、当時、開発本部長だった相川哲郎さんが「EVを売るぞ!」と言われたときは、身震いしましたね。このときは、やってきてよかったと思いました。
さらに、吉田裕明は、電気自動車の将来を力強く語る。
【吉田裕明】電気自動車が将来何処へ向かっていくかを、しっかり明確にしておくことは大切です。そのなかで、ビークル・トゥ・ホームや、ビークル・トゥ・オフィスなど、電気自動車から自宅やオフィスに給電を行うこと、また、リユースバッテリーの活用をきちんと見定めることにより、これまでエンジン車ではできなかったクルマの価値を創造し、クルマというものの概念を大きく変えていくことができると思います。
さらに、非接触充電が実用化すれば、電気自動車のありかたが大きく変わります。すでに、アメリカのベンチャー企業が開発を手掛け、三菱自動車も開発契約を結んでいます。非接触充電を使えば、交差点や駐車場などで、ドライバーが充電を意識することなく補充電を行えます。あるいは、高速道路に敷設すれば、高速道路の走行中はバッテリーの電力を消費せずに済み、さらに高速道路を下りたらバッテリーが満充電になっているということも可能です。
すでに技術はあるので、規格化とか、電波法の整備や、周波数帯の割り付けなどを進めれば、早くて2020年までのどこかで実現できるのではないでしょうか。
もう一つは、インホイールモーターです。これを実用化することで、電気自動車にしかできないユニークな形のクルマを生み出すことができます。
そのように、「他のメーカーとは違うね」というところに、三菱自動車の生きる方向を一つ持っていきたい。電気自動車を、三菱自動車の技術の柱にしたいのです!
2020年と言えば、東京オリンピック招致をうかがう年でもあり、いまから8年後のことである。多くの若人たちが社会を動かす中心人物となっていく近未来に、電気自動車が大きく躍進する芽が出はじめていると、吉田裕明は目を輝かせるのである。
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