日本人デザイナー 永島 譲二氏、最新BMWデザインを語る|線一本でスポーティに魅せる匠の技とは

  • 筆者: チダ ユウタ(オートックワン編集部)
  • カメラマン:オートックワン編集部/ビー・エム・ダブリュー株式会社

日本人デザイナー、永島 譲二氏がBMWの最新デザインを語る

2018年11月5日、東京臨海副都心・青海にあるBMW Tokyo Bayで、ドイツのBMW本社でその手腕を振るう日本人デザインディレクター 永島 譲二氏によるトークショーが行われた。

これはBMW最新モデルのデザインに隠された工夫やその意図を紹介するための場で、会場には自動車ジャーナリストや報道関係者が多数参加。その前で永島氏は、実際にペンを走らせてスケッチをしつつ、発表されたばかりの新型車のコンセプトアートも紹介しながら、各モデルのデザインについて語った。

>>永島氏のスケッチ&BMW 最新モデルのデザインを見る

キドニーグリルの形状ひとつで車高をより低く魅せるワザ

まず引き合いに出されたのは、BMW 新型8シリーズクーペ。2018年6月にドイツ本国でその全貌が公開されたフラッグシップクーペだ。この8シリーズクーペは、コンセプトモデルのプロジェクトマネージャーを永島氏が務めたとのこと。8シリーズクーペのデザインについて永島氏がまず紹介したのは、キドニーグリルの形状だ。

これまでのBMW車のキドニーグリルは、水平方向に最も広がる位置が、中央より上だった。

それに対しこの8シリーズクーペは、グリルの最も広がる位置が中央よりも下に来ている。これについて永島氏は「視線が集まる位置を相対的に低くすることで、スポーツカー特有の車高の低さを強調する意図がある」と説明。より低い位置で水平方向の広がりを強調することで、ワイド&ローなプロポーションを強く印象づける意味があるという。これまでのキドニーグリルはいずれも上辺が長い台形型、それ以前は長方形や正方形だったので、これは全く新しいアプローチということになる。

8シリーズクーペの後輪の存在感を強調させる「面のねじれ」

続いて紹介されたのは、同じく8シリーズクーペのボディサイドのデザインの工夫。

このボディサイドの造形は写真を見てわかる以上に複雑で、前輪後部ではエアアウトレットにより逆スラント状(上から下に行くに従って狭くなる)になっている。ところがボディ後部に進むに従ってボディ下部のボリュームが増し、反対にリアフェンダー上部は比較的スリムになっている。このデザインの意図として永島氏は「リアフェンダー上部に光を当てて存在感を際だたせることで、後輪の存在感を強調し、BMWらしい運動性能の高さ、スポーティな雰囲気を強調するため」と説明する。

ちなみにこの意匠は、面の始点と終点がねじれていることから「面のねじれ」と表現していた。

後輪を強調するためにフェンダーの盛り上がりを強調する、トレッド自体を広げるというのはよくある手法だが、光の当たりまで計算して、複雑な造形の中でさり気なく、それでいて確かに後輪の存在感を強調しているというのが印象的だった。

大型化するボディをデザインの力でいかに小さく魅せるか

続いて話は次期3シリーズに進む。

先日オートックワンでも紹介した次期3シリーズは、ご存知の通りBMWの売上の大半を担うセダンだ。派生モデルとしてステーションワゴンや5ドアハッチバック、クーペやカブリオレも擁する、文字通りBMWの顔となるモデルである。

永島氏は3シリーズについて、コンパクトに魅せる上での工夫を語った。というのも、現在世界中で販売されているあらゆる車種が大型化の一途を辿っており、その中で以下にコンパクトに、機敏に魅せるかが大変なのだという。なお車体が大きくなる背景には2つの要因があり、一つは年々厳しくなる衝突安全基準、そしてもう一つが、乗員の体型(主に身長)の大型化であるという。この2つの事象は、世界共通で起こっていることらしい。

これにより車体の大型化は不可避で、実際次期3シリーズは、一昔前の5シリーズと並ぶボディサイズとなっている。

しかし、ボディが大型化するに任せてデザインすれば、3シリーズ特有のスポーティさ、機敏さを損なうほか、上位モデルとの差別化も難しくなってしまう。そこで次期3シリーズには、細部まで含めて多くの工夫がされている。

リア左右にプレスラインを追加し、無駄な広がり感を抑える工夫

まず永島氏が言及したのはテールランプ左右のプレスライン。この部分はサイドから見ると分かりづらいが、このプレスラインを起点にそれ以降のボディが内側に狭まっている。これにより斜め前から見た際、このテール部分が必要以上に広がって見えず、結果としてコンパクトに見えるというわけだ。

目立たせたい場所を強調するだけでなく、必要ない部分を削って魅せるのもまたデザインなのである。それも、サイド、リアから見る分には何の違和感も感じさせずに、である。

ショルダーライン下部を大胆にえぐってスリム感を強調

続いてボディサイドのプレスラインの造形にも言及。新型3シリーズではドアハンドルより高い位置に一本、前後タイヤハウス上端に揃う位置に一本のプレスラインが走っているが、その間を大胆にもえぐるように凹ませ、軽快感を演出している。

この部分は高さ的に、見る人の視線が集まりやすい箇所とのことで、この部分を敢えて削ることで、3シリーズらしい軽快感を表現したという。たしかにこの部分が膨らんでいたらと想像すると、少々締まり無いようにも感じられる。

完成形を見れば「なるほど」で済む話だが、それを膨大なトライ&エラーから模索していくのは容易ではないだろう。

デザインには“臭み”も必要。意外にも好きな一台とは

会のラストには質疑応答の場が設けられ、その中で、かつてBMWのチーフデザイナーとして活躍したクリス・バングル氏のデザインに話題が移る。

クリス・バングル氏といえば、2000年台初頭に多くのBMW車をデザイン。4代目7シリーズ(E65/E66)を皮切りに、5代目5シリーズ(E60/E61)、初代Z4(E85/E86)、5代目3シリーズ(E90)が代表作として知られるが、それまでコンサバ路線を貫いてきたBMWにあって、その攻めたデザインには賛否両論があったのも事実。それは歌舞伎の隈取を連想させるヘッドライトが印象的な5代目5シリーズ(E60/E61)も例外ではなかった。

このデザインについて永島氏は「意外に好きですよ」とのこと。

曰く、当時BMWブランドの屋台骨的な位置づけだったセダンの5シリーズでは商業的な失敗は許されず、そんな状況下であそこまで“暴れる”というのはなかなかできることではない。その点、クリス・バングル氏はそこに自分らしさを濃密に表現していたという。

そのデザインの独特さ、そしてとことん好き嫌いが分かれる様を“臭み”と表現しつつ、バングル氏が築いた一時代を「あの時代があったからこそ、今のBMWがある」と評価した。

セダンはある程度“型”が決まっているが、SUVの可能性はまだ広がる

また質疑応答の場で永島氏は、最近BMWブランド内で販売台数をどんどん伸ばしているSUV車にも言及した。

BMWに限らず、セダン車はある程度“型”が決まっており、斬新なアイディアで抜本的に新しいものを生み出すのが難しいという。これと対照的にSUVは、メルセデス・ベンツ Gクラスのような本格的なクロスカントリー志向のもの、同社のX2のようなシティ派のSUVクロスオーバー、さらにはX4やX6のようなクーペスタイルのものまで、自由にデザインする余地があるという。

そのため今は無いようなキャラクターを持ったモデルも生み出せる可能性があるということで、この先、想像を超えたニューモデルが登場することもあるかもしれない。

これまでにない旋風を巻き起こすかもしれない、同社のSUV戦略にも期待したいところだ。

※写真は2018年10月に本国で正式発表されているBMW X7。

[レポート:オートックワン編集部 / Photo:ビー・エム・ダブリュー株式会社、オートックワン編集部]

永島 譲二氏 プロフィール

■現職:BMW AG(ドイツ本社)BMW デザイン部門 エクステリア・クリエイティブ・ディレクター

■1955年 東京都生まれ

■学歴

・1978年3月 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業

・1978年9月 ミシガン州ウェイン州立大学 大学院に入学

・1979年12月 デザイン修士課程修了

■職歴

・1980年5月 アダム・オペル(ドイツ)デザイン部門

・1986年4月 ルノー(フランス)デザイン部門

・1988年11月 BMWデザイン部門

■手がけた主なモデル

BMW Z3(1986)、先々代BMW 5シリーズ(1996)、先代BMW 3シリーズ(2005)等

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筆者チダ ユウタ(オートックワン編集部)
樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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