THE NEXTALK ~次の世界へ~ トヨタ チーム トムス 監督 舘信秀インタビュー(5/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
本物へのこだわりに、クルマ好きの心意気が凝縮
トムスの事業は、半分がレース参戦で、半分は物販だと舘信秀は紹介する。物販とは、スポーティな自動車部品の製造と販売だ。Advoxは、高価なダンパーだが、絶対の自信があると舘信秀は胸を張る。トムスの自動車部品のこだわりとは、何か?
【舘信秀】いつも言っているのは、『高品質』ということ。それがトムスの謳い文句だね。うちのダンパーは、20~30万円するけど、絶対の自信があるし、後席に座った女性が酔わないというほどクルマの質を上げるものになっている。だから、まっすぐ走っていて、ハンドルを持っているだけでも、走るのが楽しいという感覚が伝わるはずなんだ。
また、質のいいクルマは、指一本でハンドルを支えているだけで、真っすぐ高速を走り続けられるはず。そうすれば肩の力も抜けて、疲れない。そういうクルマは若者にも伝わるものなんだ。
ところがそうしたクルマ作りを自動車メーカーがしないから、クルマ離れが起こるんじゃないの?出てくる新車が売れるクルマに終始していて、クルマ好きから自動車メーカーが離れていっているんじゃない?
公共交通機関が便利な東京で、クルマが必要か?という問題もあるよね。クルマの魅力がわかりにくい理由は、色々ある。それでも、僕はクルマが好き。とくに後輪駆動のクルマで、ハンドルとアクセルでクルマを自由自在に操れるというのが楽しい。スピードを出せばいいというのではなく、ゆったり走っていても僕は楽しいからなぁ。そのためには、質のいいクルマでないとダメ。そして、そこにクルマがあるからモータースポーツなんだ。クルマは、20世紀最大の発明だと思う。
ただ、その楽しさはなかなか言葉で伝えられない・・・。
いまは、テレビゲームで、世界で名うてのレースコースを制覇することができる。プロフェッショナルレーシングドライバーも、初めてのコースはゲームで道筋を覚えるとも聞く。
だが、彼らはコースを覚えたあと、実際にそこをレーシングカーで疾走し、現実のレースを戦う。たとえスピンをしてコースアウトしても、リセットすれば何事もなかったかのようなゲームの仮想空間とは違う。
舘信秀自身がその昔、音やスピード、臭いに衝撃を受けたような、本物を観て、体験することの大切さが、時代とともに忘れられかけている。その最たるところにモータースポーツの危機がある。市街地でのレースを期待する舘信秀の思いは、正しい。そして、本当に質のよいクルマを運転してみることが、クルマへの愛着を呼び覚ます。そこに、トムスの自動車部品作りの高品質というこだわりが示されているのだろう。
舘信秀はいま、電気自動車レースの協会の理事長を務めてもいる。
人生いろいろ、紆余曲折にまみれている。舘信秀は、この座右の銘を肝に銘じレース界を生き抜いた。 「今は、色々なレーシングスクールがあって、昔のように先輩に弟子入りするようなレース入門の仕方はないんだろうね」と舘は吐露するが、実は舘信秀の生きざまに共感し、今日も若者が舘の下に馳せ参じている。
レースは人生に似ていると舘信秀は言った。レースを生きることも人の営みであることに変わりはない。ただそこに人体の能力をはるかに超えたクルマという要素が加わり、それを人が操ることで、喜怒哀楽をより強烈なものにする。
それは仮想空間とは比べものにならないほど心を躍らせ、深く心に焼きつかせるものなのである。 END
御堀 直嗣(みほり なおつぐ)プロフィール
1955年東京出身。自動車ジャーナリスト。玉川大学工学部機械工学科卒業。1978年から1981年にかけてFL500、FJ1600へのレース参戦経験を持つ。現在ではウェブサイトや雑誌を中心に自動車関連の記事を寄稿中。特に技術面のわかりやすい解説には定評がある。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。また現在では電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副会長を務める。
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