スズキ ワゴンRの新型と旧型を比べてみた(1/2)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
軽トールワゴンの代表格、スズキワゴンRを新旧徹底比較!
スズキワゴンRは軽自動車の主力車種。後席を含めて居住性が優れ、広い荷室にアレンジできる。収納設備も豊富に用意した。
販売台数はさらに背の高いホンダ N-BOXやダイハツ タントの方が多いが、機能のバランスはワゴンRが優れている。N-BOXやタントに比べれば荷室が狭く、スライドドアも装着されないが、その分だけボディが軽く重心も低いからだ。ワゴンRは実用重視の軽自動車でありながら、走行性能や燃費も満足できる。
ワゴンRは新型を2017年2月に発売して、従来型と同様に高い実用性を備えながら、外観のデザインにも力を入れた。標準ボディのハイブリッドFZは、ハイブリッドFXやFAとはフロントマスクの形状が異なる。上級のスティングレーを含めて、3種類の形状を用意した。
ボディスタイル/サイズ/視界/取りまわし性比較
軽自動車のボディは、どの車種も規格枠いっぱいの寸法で造られている。ワゴンRも同様で、全長の3395mm、全幅の1475mmは新旧ともに同じだ。全高は新型が1650mmで、先代型のFZやスティングレーよりも10mm低い。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2460mmだから、先代型に比べて35mm伸びた。
外観のデザインは、先代型と2世代前が似ていたこともあり、新型は大幅に変更された。標準ボディのFXとFAはシンプルで、ハイブリッドFZはランプの部分をボディ同色のパネルで上下に分けている。上側は車幅灯/ハイビーム/方向指示機で、下側にはLEDのロービームを装着した。先代型に比べて存在感が強い。
スティングレーは先代型との違いがさらに際立ち、LEDの車幅灯やヘッドランプを縦方向に配置して、中央のグリルとフロントマスクの厚みを強調した。
一般的に軽自動車やコンパクトカーのフロントマスクは、車幅をワイドに見せるため水平基調で仕上げることが多い。先代スティングレーはこの手法だったが、新型は縦基調を強めた。
初代ワゴンRは1993年に発売され、縦基調の潔いフロントマスクが人気を得た。新型のデザインには、標準ボディ、スティングレーともに原点回帰の傾向が見られる。
ボディ側面の形状も大きく変わった。前席のサイドウインドウは、下端の部分が前方に傾斜して躍動感を演出する。後席側は面積を少し狭め、中央のピラー(天井を支える柱)を太く見せている。
内装のデザイン/質感/操作性/視認性比較
先代型のインパネは実用性を重視したが、新型は室内をワイドに見せるため、デザインにも配慮している。水平基調で、インパネが薄く感じられるように工夫した。インパネの上端部分の高さは先代型とほぼ同じだが、傾斜を付けたことで左右に細長く見える。
メーターをインパネ中央の高い位置に配置した理由も、視認性の向上ではなくワイド感の演出にある。速度計を確認する時には視線が左へ寄るが、上下方向の移動は少ない。メーターの見やすさは一長一短だ。
エアコンのスイッチもFAを除くオートタイプは横長で、比較的高い位置に装着しから操作しやすい。
注意したいのは収納設備だ。先代型では、助手席の前側には上からインパネボックス/トレイ/グローブボックスと並んだが、新型は薄型のトレイとグローブボックスのみになる。カップホルダーは従来の引き出し式からシンプルな固定式に変わった。
進化度数:1点/10点(もう少し頑張りましょう)
前後席の居住性比較
前後席ともに、先代型も軽自動車としては座り心地が快適だった。特に後席は多彩なシートアレンジを採用しながら、座面の造りが平板になっていない。
新型では肩まわりのサポート性が少し向上した。後席の座り心地はあまり変わらないが、ホイールベースの拡大分(35mm)をそのまま後席の足元空間に充当している。後席のスライド位置を後端に寄せた時、前後席に座る乗員同士のヒップポイント間隔は1035mmだ。Lサイズセダンでも950mmくらいだから、後席の足元空間は前後方向がかなり広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ半。先代型の3つ分よりも余裕がある。
進化度数:3点/10点(比べてようやく気付くレベル)
動力性能比較
新型ワゴンRのエンジンは、ノーマルタイプ、ハイブリッド、ターボの3種類だ。ハイブリッドは従来型に設定されていたSエネチャージの発展型になる。ISG(モーター機能付発電機)が減速時を中心とした発電、アイドリングストップ後の再始動、エンジン駆動の支援を担当する。ISGが走行中にエンジン駆動をアシストできるのは最長30秒間だ。
以上の機能はSエネチャージと同じだが、新型では停止時にブレーキペダルを緩めると(アクセルペダルは踏まない状態)、エンジンを始動させず、モーター駆動のみで徐行できる。このモーターによるクリープ走行は連続10秒間が限度だから、エンジンがスグに始動する。要は簡易型のハイブリッドだが、車両接近通報装置も採用されて「本格的なハイブリッド気分」を味わえる。
一方、車両重量はハイブリッドFXが770kg、ハイブリッドFZとスティングレーハイブリッドXは790kgだ。この数値は先代型と同じだが、装備を充実させながら車両重量の増加を抑えた。
ちなみに新型ワゴンRは、プラットフォームを刷新してアルトなどと共通化した。それなのに車両重量が先代型と同じなのは、先代型がトータルで70kgの軽量化を図っていたからだ。そのためにライバル車のダイハツムーヴX・SA(820kg)、ホンダ N-WGN G・Lパッケージ(830kg)、日産デイズX(840kg)に比べると、今でも30~50kg軽い。
ノーマルエンジンの動力性能は、先代型と大差ない。市街地での運転感覚を左右する最大トルクは、先代型が6.4kg-m(4000回転)、新型が6.1kg-m(4000回転)になる。実用回転域の駆動力が低下した実感はないが、動力性能、加速感覚ともに同程度だ。
ターボは先代型に比べて実用回転域の駆動力が少し高まった。先代型も軽自動車としては加速力に余裕があったが、新型では1リッターの自然吸気エンジンに近い感覚で運転できる。
進化度数:2点/10点(もう少し頑張りましょう)
走行安定性比較
走行安定性はかなり良くなった。背景には3つの理由がある。
まずは操舵感の改善だ。先代型は操舵に対して車両の向きが過敏に変わり、電動パワーステアリングが直進状態に戻ろうとする特性は弱かった。過敏な設定は市街地をキビキビと走れるようにするための配慮でもあったが、少々行き過ぎがあって違和感を伴った。新型ではそこが改善されている。
ちなみにスズキ ハスラーやスズキ スペーシアは今でも先代ワゴンRに似たクセが残るため、運転感覚の質でワゴンRを選ぶこともできる。
2つ目の理由はプラットフォームを新しく造り替えたこと。軽量化と併せてサスペンションの剛性アップなどが図られ、カーブを曲がったり車線を変更する時の動きを安定させている。
3つ目は、ハイブリッドFZの足まわりにスタビライザー(ボディの傾き方を制御する棒状のパーツ)を組み込んだこと。先代型はスティングレーのみの装着であった。
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