M-TEC モータースポーツ事業部長 勝間田 聡 インタビュー(3/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
たった1周にすべてを賭ける!
105年を超える伝統のレースに、2009年からTT Zero Challenge(ゼロ・チャレンジ)という新たなクラスが誕生していた。動力にCO2を排出しない、クリーンエミッションの機構を持つことを定めたクラスだ。これに、無限は挑戦する。
【勝間田聡】マン島のコースは、1周約60kmです。そして標高差が約400メートルあり、コーナーは210個あります。最近よく知られるようになったドイツのニュルブルクリンク(北コースで全長約22km、高低差約300m、カーブの数172個:筆者注)みたいな感じでしょうが、その約3倍の距離があり、カーブの数もさらに多く、とても簡単に覚えられるようなコースではありません。
そこで、TT Zero Challengeは、1周のタイムを競います。たった1周か?と、最初は驚きましたが、現地を視察してみると、オートバイに搭載できるバッテリー量で、平均時速160km/hほどの速さで走るとなれば、その1周60kmさえ走り切れるかどうか?…途中で電欠(ガス欠ならぬ電力ゼロ:筆者注)になり、棄権する出走バイクもありました。
去年まで3年間の実績として、昨年優勝した米国のプライベートチームが、100マイル/h(160km/h)にわずかに届かない平均速度で走っています。その100マイル/h超えを達成すると、大会の記録として残り、賞金ももらえると言うので、そこを我々も狙っています。
ただし、開催期間中、予選が2回、そして決勝を迎え、都合3回の走行枠があるとはいえ、いずれにしても満充電で1周走れるかどうかで、途中で充電していたら間に合わないし…はるばるマン島まで出かけて行って、現地で走れるのは、合計たった3周でしかありません!
わずか3周の挑戦となるマン島TTレース出場のため、まずは社内のチーム体制づくりからはじまった。
【勝間田聡】我々は日常業務を抱えていますから、このプロジェクト専用の人員を設けることはできません。兼任で取り組むしかない。ならば、本当にやりたい人に集まってもらおうと、公募で手を挙げてもらいました。
集まったのは、およそ10名です。電動バイクということで、やはり電気系に強い人間が多いですね。逆に、バイクに詳しいというのは少なくて、メカニックにモトクロスの経験者がいるくらいです。ほとんどのメンバーは、普段はフォーミュラニッポンやGTレースに関わっています。
そこで、まず集まった全員にバイクの免許を取ることを条件としました。さっそくみんな取ってきましたよ。ライダーのコメントを聞くにしても、オートバイのことがわからなければ理解も対処もできませんから。
製作上苦労したのは、部品の調達です。はじめは、ミニ四駆みたいに、モーターやバッテリーを買って来れば組み立てられるだろうと思っていました。ところが、まず、レースで使えるようなモーターやバッテリーなどを手に入れることができない。工業用のモーターはあっても、小型軽量でハイパワーなモーターがなかなか無いんです。バッテリーはリチウムイオンですが、簡単に買える状況になく、セル単位で買って来て社内でパッキングしています。
それから、モーターの試験をするベンチ(台上試験器:筆者注)も購入しました。設備投資が掛かりましたが、今回だけでなく、将来的に活用できますから。
「神電」(自然界にある電気のすべてをつかさどる神の力を受けてレースに挑む意味を込めて命名:無限資料より)と名付けられた電動バイクのレーサーは、カーボンフレーム製である。モーターやバッテリーが重くなるため、少しでも軽くするための選択だ。オートバイでは、モトGPでもアルミフレームが主流であり、カーボン製はめずらしい。
神電の姿は、モトGPを戦うレーサーに似た格好だ。これについて勝間田聡は、「マン島TTレースのベテランライダーに乗ってもらいますが、彼は、他のエンジン車のクラスにも出場するので、パッと乗り換えても違和感のないパッケージングにしました」と、設計の経緯を説明する。
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