M-TEC モータースポーツ事業部長 勝間田 聡 インタビュー(4/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
他のバイクにはもう乗りたくないと、ライダーは言った
昨年6月の英国視察を終え、7月にはプロトタイプ(試作車)での試走を行い、そこから「神電」の制作に移った。
金属製のスパナ一つ扱うにも、万一、プラスとマイナスの電極にスパナが同時に触れれば、ショートし、感電してしまう。電気自動車はじめ、電動の乗り物を扱うための絶縁された専用工具が販売されているほどだ。
【勝間田聡】「神電」の製作では、そのような失敗はありません。加えて、電源が入ると音が出て、スイッチが入っている状態であることを周りに知らせるなど、電動ならではの安全装置を取り付けています。その警告音は、スロットルを回せば、ライダーが乗って運転している状態といえるわけですから、消えるようにしています。
試験走行は、宮城光(元GPライダー:筆者注)さんに頼んでいます。経験豊富だし、コメントがしっかりしていて、開発に向いたライダーです。その第一声は、「これは、普通のバイクの概念と違う」でした。
驚いたのは、モーターのリニアリティ(直線的かつ連続的に変化する:筆者注)で、変速なしに0~240km/hまで滑らかに速度変化していくところが今までにない感覚だと言います。また、エンジンバイクに比べ60kgほど重い260kgの車重なのですが、軽く感じると。それは、ジャイロ効果が少ないということのようです。
エンジンは、クランクシャフト、カムシャフト、クラッチ、発電機などの回転体が、アンバランスに回り、それぞれの回転がギアチェンジでのエンジン回転数の上下や、コーナーごとの速度の違いによる回転差などで、バイクの姿勢に影響を与えます。
しかし神電は、そうした回転体がモーター一つなので、たとえばカーブの切り返しなどでバイクの動きが軽く感じられるのです。そこが電動バイクの良さで、車体自体は人間一人分ほどエンジンバイクより重くても、今までは、人間がコーナーごと、あるいはシフトチェンジでのエンジン回転ごとに変わるバイクの挙動にあわせて乗っていたのでしょうが、電動バイクならそれが解消されます。だから、宮城さんも、「もう他のバイクには乗りたくない」と言うくらいです。
マン島TTレースで乗ってもらう、ジョン・マクギネス選手にも、茂木で走ってもらいました。そのコメントは、「操縦安定性が良くOK」だという一言です。 彼の要請で変更したのは、体格に合わせて、ステップの位置とハンドルバーの長さだけでした。
電気自動車も、よくできたものであればエンジン自動車とはまったく違った快適さを体験することができる。それが、「神電」にもおのずと備わっているのだ。 開発責任者の勝間田聡も、「無事に帰国したら、私も乗ってみたい」と、笑った。
この記事にコメントする