熱海
古屋旅館
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「昔ながら」と「今ならでは」のいいとこ取りした宿

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古屋旅館

熱海で最も古くからある温泉宿・古屋旅館の創業は1806年。…ということになっているが、実際にはそのはるか昔から代々宿屋を営んできた。現当主の内田宗一郎氏は、何と17代目。老舗であるがゆえ頑なに守り続ける部分もあり、現代の顧客に合わせて柔軟に変化させる部分もありと、双方を上手く織り交ぜながら宿作りを進めている。

部屋「清潔こそ最上のもてなし」これが古屋旅館のスタンダード

客室の襖を開けたとき、鮮烈な藺草(いぐさ)の匂いが立ち上ってきた。角が硬く張られた畳の、ほんのり緑がかった色あいが美しい。自分が子どもだったころを思い出す、という人もいるかもしれない。隅々まで掃除の行き届いた部屋は、そこにいるだけでも清々しい気持ちになり、満ち足りた旅になる予感すらする。古屋旅館のモットーは「何より清潔なこと」。徹底した清掃マニュアルがスタッフ間で共有され、目が行き届く範囲で客人をもてなしたいと、客室数は26室に抑えられている。そして、通常よりも頻繁に行うという畳替えも清潔の秘訣。いずれまた訪れるときも、きっと藺草の匂いがするはずだ。ちなみに「畳替え」というのは冬の季語。畳を替えることで、新たな気持ちで正月を迎えようとすることから。久しぶりに嗅ぐ新しい畳の匂いで、リフレッシュして新たな気持ちになったなら、それこそ「善き旅」と言って良いだろう。

風呂熱さ調節が必要なのは源泉掛け流しの温泉である証拠

熱海は古くから「熱海七湯」と呼ばれる自噴の温泉で名高い地であった。古屋旅館は、そのひとつである「清左衛門の湯」を所有しているため、風呂は全て源泉掛け流し。温泉を直接汲み上げ、源泉から浴槽までの配管距離を緻密に計算し、源泉口で約90度という高温の湯が浴槽に注ぎこまれる時点では、入浴に適した温度になるよう設計されている。加水も加熱もしていないので、入浴時には湯温確認をお忘れなく。熱すぎるときは湯もみ棒でかき混ぜ、湯温が低いように感じたら蛇口をひねり温泉の注入量を増やす。このひと手間が、実は源泉掛け流しの醍醐味なのだ。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物温泉(低張性・アルカリ性・高温泉)。効能は神経痛、筋肉痛、関節痛、疲労回復など。男女ひとつずつの大浴場は古代檜、露天は男性が御影石、女性は伊豆石。温泉露天風呂付きの部屋、温泉内風呂付きの部屋などもあり、入浴の楽しみかたも多様だ。

料理客人の目に触れない、美食のための努力とは

本格懐石の夕食と、繊細で上品な味わいの和朝食。四季折々の味わいを楽しめ評価も高い古屋旅館の料理だが「旅館の和食は、まだまだ改善の余地がある」と現当主の内田宗一郎氏は言い切る。食べて美味しいこと、目にも美しいこと、暖かいものは温かく、冷たいものは冷たく…そのために、できることがいくつもあるというのだ。もちろん、部屋食ならではの難しさもある。例えば茶碗蒸し。人気メニューで必ず献立に載せているため、部屋近くまで温かさを保つよう、いち早く温蔵庫運搬を導入した。興味深いのは内田氏や調理長、調理スタッフの間で「この店で食べた○○が美味しかった」「しらすにごま油を数滴たらしてみると…」など、携帯端末上での情報交換が盛んに行われていること。味はもちろんのこと、盛り付け方、価格その他、さまざまな食のトレンドがディスカッションされている。このような陰の努力が、美食を創りあげているのだ。

歴史「熱海で最も古い」を実感する数々のこと

古屋旅館のルーツは山梨にあるという説が濃厚だ。山梨には古屋姓と内田姓が多く、200余年にわたり古屋旅館を営んできた内田家の先祖は、武田の武士であったという言い伝えもある。玄関で客人を迎える古屋門は、黒澤明監督の映画「影武者」で使用されたもの。何気なく通っている門にも、知られざる歴史がある。敷地内には古屋天満宮という神社も歴史を感じさせる。菅原道真が太宰府に流されたとき、自分の姿を彫った木像を七体作って海に流した。そのうちの一体が熱海の海岸に打ち寄せられ、漁師が拾い祀ったものがこの天満宮だそう。他にも、現在は移転しているが、熱海に初めて郵便局が開設されたのは古屋旅館の敷地内であったことから、郵便局開設記念碑もある。館内ギャラリーには、日露戦争で連合艦隊司令長官として指揮を執った東郷平八郎ゆかりの品などが展示されている。旅先で、過ぎ去ったかつての日々に思いを馳せるひとときも悪くはない。

幸せの連鎖お客様の満足を生むのは、従業員の満足から

古屋旅館17代目・内田宗一郎氏のビジョンは明確だ。従業員がいきいきと働き、お客様に接することができないと、決してお客様は満足しないものだと考える。「熱海の旅館で一番働きやすい」、「働いていてやりがいを感じる」と言ってもらえる職場を目指す、とことあるごとに明言している。熱海に生まれ育ち、この街を愛している17代目が抱く「熱海を憧れの街にしたい」との強い思い。その思いが明るく活気に満ちた古屋旅館をつくり上げている。一期一会の出会いは、きっと満足ゆくものになるはずだ。

伝統の上にあぐらをかくことはしない。しかし、新しいものが全て良いとは限らない。17代目がよく口にするのは「奇をてらわず、0.5歩遅れて歩む」「背伸びをしない」という言葉。ひとつひとつ地道に、お客様の要望に応えていくという姿勢は、「いつ来ても変わらない」「馴染みがあって落ち着ける」という客人からの評価につながっている。これこそが老舗の実力なのだ。

キーパーソン

古屋旅館 17代目当主 内田宗一郎

1973(昭和48)年、熱海生まれ。静岡県立韮山高校卒、早稲田大学法学部卒業後に三和銀行(現・三菱UFJ銀行)入行、財務などを担当。2002(平成14)年に古屋旅館入社、2015(平成27)年、代表取締役に就任。

17代目はよく笑う人だ。「生まれ変わっても、またこの旅館の息子で生まれたい」と思うことがあるという。それは笑顔が大好きで、子どもの頃から笑顔に囲まれて育つことのできた、この環境を最高だと考えているからだと言う。「お客様の笑顔に接していることが何よりも好き」なのだとも。古屋旅館が2世紀以上も看板を守り続けてくることができた秘訣は、案外そのあたりにあるのかもしれない。

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