トヨタ 新型ランドクルーザー(200系・ZX)試乗レポート/2015年マイナーチェンジモデル
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:和田清志
頑固にオフロード指向を貫くSUV“ランドクルーザー”とは
最近はSUVの販売が好調だ。日産 エクストレイルやトヨタ ハリアーは従来から人気が高く、マツダの CX-5やCX-3、ホンダ ヴェゼルなども加わった。品ぞろえが充実で売れ行きが伸びている。
SUVの人気が高まった理由は、実用性とカッコ良さの両立だろう。ボディの下側は、大径サイズのタイヤ、樹脂製の装飾などによって力強さを感じさせ、ボディの上側は5ドアハッチバックやワゴンと同様の形状になる。居住性は前後席ともに快適で、後部の荷室も使いやすい。
そしてボディの下側にアレンジを加えれば、どんなクルマもSUVに変身させられる手軽さも、メーカーにとっては都合が良い。
いわゆる“クロスオーバー”と呼ばれるタイプのSUVはスバルが得意で、かつてはレガシィツーリングワゴンをベースにしたアウトバック(最初の日本名はレガシィグランドワゴン)を造り、5ドアハッチバックのインプレッサスポーツをベースにXV、ミニバンのエクシーガをベースにクロスオーバー7を商品化した。三菱はデリカスターワゴンの時代から今日のデリカD:5まで、4WDモデルの走破力を高めている。
海外では、1979年に登場したAMC(アメリカン・モーターズ)のイーグルがあり、SUVなのにワゴン、2/4ドアセダン、クーペ&コンバーチブルと豊富にそろえた。もっともイーグルのリアサスペンションはリーフスプリングで、ジープベースの乗用仕様とも受け取られた。
以上のようにSUVは何でもアリのジャンル。共通するテーマに“悪路の走破”はあるが、これも今では曖昧だ。マツダCX-3の最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)は160mmだから、ベースとなっているデミオの145mmと比べて大差はない。
こういった前輪駆動ベースのシティ派SUVが増える中で、頑固にオフロード指向を貫くのが後輪駆動ベースの『ランドクルーザー』だ。初代モデルは1951年にトヨタジープの名称で登場。1954年にランドクルーザーに変更した。初代クラウンの登場が1955年だから、最長寿の日本車となる。
ランドクルーザーは本質である悪路性能を突き詰めたSUVの代表的モデル
トヨタ ランドクルーザー、ランドクルーザープラド、三菱パジェロといった本格オフロードSUV(以前は“クロカン”と呼ばれていた)は、シティ派SUVとは車両開発の目的や構造が根本的に違う。
ランドクルーザーはトラックのように強固なラダー(ハシゴ)状のフレームを持ち、そこにエンジンやサスペンションを取り付ける。悪路を走破する時の耐久性が優れ、耐用年数も長い。
4WDは常に4輪を駆動できるセンターデフ式で、センターデフのロック機能と、駆動力を高める副変速機も備わる。
サスペンションはフロント側がダブルウイッシュボーンの独立式、リア側はトレーリングリンクの車軸式になり、柔軟に伸縮することで大きなデコボコも乗り越えやすい。
その半面、ボディは重く、高重心になりやすい。ほかの車種と共通化できないパーツが多いからコスト低減も図りにくい。
だから雪道程度なら何の不安もなく走破できる手軽なシティ派SUVが人気を得たが、悪路性能を突き詰めれば本格オフロードSUVに行き着く。その代表がランドクルーザーだ。存在感の強い外観が注目されがちだが、本質は悪路の走破にある。
マイナーチェンジで新たにトヨタセーフティセンスPを採用し安全性能が向上
▲【LAND CRUISER】機能紹介/Toyota Safety Sense P 衝突回避支援パッケージ
現行のランドクルーザー200は2007年に登場した。2009年には、V型8気筒4.7リッターの2UZ-FE型エンジンを、新開発した4.6リッターの1UR-FE型に変更した。足まわりには4-Wheel AHC&AVSを追加設定している。
2011年にはマイナーチェンジを実施。路面状況に応じて駆動力の伝達やブレーキ制御を変更する“マルチテレインセレクト”、車載カメラで路面状況をチェックできる“マルチテレインモニター”などを設けた。2013年にはディスチャージヘッドランプを採用している。ランドクルーザーのようなオフロードSUVはフルモデルチェンジを行う周期が長く、前述のように数回にわたって変更を施すのが普通だ。
そして2015年8月には、200系ランドクルーザーは改めてマイナーチェンジを受けた。詳細は2015年8月17日に掲載したトヨタランドクルーザー/マイナーチェンジ詳細解説をご覧いただきたいが、トヨタセーフティセンスPの採用による安全性の向上は、特に注目されるだろう。
トヨタセーフティセンスPには、ミリ波レーダーを使ったクルーズコントロールも含まれる。ブレーキ操作を含めて車間距離を自動調節しながら先行車に追従走行できる機能だが、ランドクルーザーは全車速追従型になっていない。速度が下がるとキャンセルされてドライバーがペダル操作をする仕組みだから、追突しないように注意したい。
ちなみにこのランドクルーザー200をベースに開発されたレクサスLXは、停止状態までカバーする全車速追従型だ。レクサスLXのパーキングブレーキは電動式だから、停車時にこれを自動作動させれば、時間が経過しても車両が勝手に発進することはない。だから全車速追従型を採用した。
一方、ランドクルーザー200のパーキングブレーキは手動のレバー式だから、仮に停車させても、アクチュエーターの作動時間が限界になれば勝手に発進させることになる。だから低速域をキャンセルしたと思われるが、安全を考えると統一して欲しい。
スバルのアイサイトは全車速追従型を採用するが、XVなどはパーキングブレーキがレバー式。だから停車後にドライバーが自分でブレーキ操作をしないと、数秒で再発進する。今は過渡期だから、車間距離制御式クルーズコントロールの取り扱いには注意したい。
外装デザインはワイド感が、内装デザインはよりリラックスできる雰囲気が向上
そんなことを考えながら、マイナーチェンジを施したランドクルーザーを試乗した。グレードは最上級のZX(682万5600円)を選んだ。
変更後の外観ではフロントマスクが注目される。ヘッドランプを従来のディスチャージから新型ではロー/ハイビームともLEDに変更した。ヘッドランプの下側には、デイライト(日中の点灯)の機能を備えたLEDクリアランスランプ(車幅灯)も備わる。
従来型に比べると、上下に分割されたライトが表情を精悍に見せており、フロントグリルのワイド感も強調された。
20インチのアルミホイールもデザインを変更。切削と高輝処理が施されて質感を高めている。
車内ではインパネ中央部のデザインを変えた。カーナビ画面を挟んだエアコン吹き出し口の下側は、柔らかい表皮仕上げにしてステッチも入れている。中央部は金属調のデザインで、変更前は冷たい印象だったが変更後はリラックスできる雰囲気になった。
スイッチ類の配置も見直し、ATレバーが収まる前席の中央部分には、マルチテレインセレクトのダイヤルなどが機能的に配置されている。シートの表皮はZXでは本革を採用。インパネの形状変更と相まって、車内全体を上質に見せている。前席はサイズに余裕があり、座り心地も適度に柔軟で快適だ。体のホールド性も十分にある。
後席は床と座面の間隔が不足して膝が持ち上がる。身長170cmの乗員が座ると、大腿部の前側が座面から離れてしまう。
ランドクルーザーは前述のようにフレーム構造のボディを採用。最低地上高は225mmを確保して、水深が最大700mmの河川を走破できる性能も与えた。
そのために前輪駆動ベースのシティ派SUVに比べて床が高く、後席の座面との間隔が不足した。床が高いから乗降性も良くない。
ランクル200の4.6リッターエンジンは、快適性と楽しさを両立した走行性能が特徴
運転感覚はどうだろう。ランクル200に搭載されるエンジンは、前述のようにV型8気筒の4.6リッターで、6速ATと組み合わせる。この性能は従来型と同じだ。
車両重量はZXになると2690kgに達するが、4.6リッターエンジンは最高出力が318馬力(5600回転)、最大トルクは46.9kg-m(3400回転)と余裕がある。1200回転付近でも相応の駆動力が発揮され、4000回転を超えた時の回転感覚も滑らかに仕上げた。
ちなみに今では2~2.5リッタークラスのターボでも同等の性能を発揮できるが、車両重量が2トンを超える車種になると、やはり大排気量のノーマルエンジンは運転しやすい。底力があり、エンジン特性も素直になるからだ。
4.6リッターエンジンは快適性も高く、静かで変速ショックを小さく抑えた。その一方で適度な鼓動が伝わり、エンジンを操っている感覚も味わえる。同型のエンジンを搭載するレクサスLSにも当てはまるが、快適性と楽しさを両立させた。
サスペンションは凝っている。前述のように前輪側はダブルウイッシュボーン、後輪側はトレーリングリンクだが、ランドクルーザー200のZXグレードは4-Wheel AHC&AVSも採用。AHC(アクティブ・ハイト・コントロール)では、油圧により車高をロー/ノーマル/ハイの3段階に調節できる。舗装路の高速走行では、自動的にローモードへ切り替える制御も採用した。
AVSはアダプティブ・サスペンション・システムとして、ショックアブソーバーの減衰力を調節できる。ノーマル/エコ/コンフォート/スポーツS/スポーツS+というドライブモードのセレクト機能も設けた。スポーツS+を選ぶと、足まわりの設定変更に加えて、操舵感が重くなるなど細かな制御を行う。
いろいろな走行モードでカーブを曲がったり、車線変更を試したが、全般的にボディの上側が重く感じる。状況によってはボディが唐突に大きく傾く印象だ。全長が4950mm、全幅が1980mmという大柄なボディでもあるから、峠道などでは不安を抱きやすい。
▼【LAND CRUISER】機能紹介/4-Wheel AHC & AVS
不安の無い走行安定性だが、乗り心地はゆったり感が欲しい
ランクル200の走行安定性自体は、高重心の重量級SUVとしては悪くない。グラッと傾きながらも4輪の接地性を失いにくく、進路もあまり乱されない。前輪駆動をベースにしたハリアーのような軽快感は伴わず、同じオフロードSUVでひとまわり小さなランドクルーザープラドと比べても設計の古さを感じるが、悪路向けのSUVとして不満のない走行安定性を備える。
むしろ気になったのは乗り心地だ。20インチタイヤが路面のデコボコを受けて、常にブルブルと震えている感覚がある。重量級のオフロードSUVだから、舗装路での走行安定性は多少低くても仕方ないと思えるが、乗り心地にはゆったり感が欲しい。サスペンション自体は緩やかに伸縮するが、細かな振動が快適性を削いでいる。
今回試乗した200系ランドクルーザーのZXグレードに装着されていたタイヤは、20インチ(285/50R20)のダンロップ・グラントレックPT2Aであったが、AXには18インチ(285/60R18)、ベーシックなGXには17インチ(275/65R17)がそれぞれ用意される。購入時には複数の仕様を比べて決めると良いだろう。ZXもメーカーオプションで18インチを装着できる(18インチにダウンした場合は価格が8万6400円安くなる)。
このような安定性や乗り心地が、日本における本格オフロードSUVの難しさだと思う。
本来は海外の極悪な道路条件下を走るクルマで、地域によっては立ち往生すると乗員の生命に危険がおよぶ場合すらある。となれば舗装路での走行安定性や乗り心地は副次的な要素だろう。そこにアレコレ注文を付けてもナンセンスだが、少なくとも試乗した日本仕様のZXには、切削と高輝処理を施した美しいアルミホイール、照明の付いた乗降ステップが装着されていたりする。こんなクルマで本当に悪路を走るのか?と思う。
また次元の違う話として、重量級オフロードSUVで乗り入れられる場所は、環境保護やマナーの問題を考えると日本では特設オフロードコースくらいだ。
つまり日本におけるランドクルーザーは、数多くの矛盾の上に成り立っている。となれば理屈を並べてもあまり意味はない。
とはいえ日本で売るならアイドリングストップくらいは付けるべきだ。大排気量エンジンでJC08モード燃費は6.7km/Lだから、アイドリング時の燃料浪費と、二酸化炭素を含めた排出ガスの量も多い。
今の日本では重量級オフロードSUVは棲みにくい。せめて燃費には配慮して、ドライバーも優しい運転を行い、良いクルマだねといわれるランドクルーザーであって欲しい。
[レポート:渡辺陽一郎/Photo:和田清志]
トヨタ ランドクルーザー200 主要スペック(ZXグレード)
全長x全幅x全高:4950x1980x1870mm/ホイールベース:2850mm/最低地上高:225mm/車両重量:2690kg/乗車定員:8名/エンジン種類:V型8気筒DOHC/総排気量:4.608cc/最高出力:318ps(234kW)/5,600rpm/最大トルク:46.9kgf-m(460N・m)/3,400rpm/トランスミッション:フレックスロックアップ付スーパーインテリジェント6速オートマチック<6Super ECT>/タイヤサイズ:285/50R20/販売価格(消費税込):6,825,600円
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