水素時代はすぐそこ!? 燃料電池バスで最新の水素事情を追った(4/4)
- 筆者: 中込 健太郎
- カメラマン:中込 健太郎
この日の最終目的地「国際水素燃料電池展(FC EXPO 2019)」へ
ちょうど時を同じくして、東京ビッグサイトで国際水素燃料電池展が開催されていた。燃料電池バスに乗った我々は、最後にこの会場を訪れた。
今年で15回目を迎えたこのイベント、博覧会というよりは、ビジネスマッチングを促進するための商談会のようなイベントだが、その日進月歩の進化ぶりには目を見張るものがあり、水素関連の産業ビジネスに直接従事していなくとも、とても興味深い展示が目白押しだ。
これまで利用価値の無かった低品位石炭で水素を生み出すプロジェクト
今年の展示で一番興味深かったのはHySTRA(技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構)の水素運搬船をはじめとする、水素流通に関するプロジェクトの紹介だ。このプロジェクトは褐炭(かったん)という、今まで利用価値が見いだされにくかった低品位の石炭を利用して、水素を安価かつ大量に作ることからスタートする。
実は世界中の石炭の約半分はこの褐炭で、水分や不純物が多く、かさばる割に発熱量が低い。
燃料としては煮ても焼いても使い勝手の悪い褐炭だが、それでも空気に触れると自然発火する恐れもあり、放置することにはリスクが伴っていた。これを利用して、水素を含むガス化することができるのだという。そこから水素を取り出すことが可能だ。
化石燃料を燃やして利用することは環境保護の観点で推奨されない面もあるが、それでも今まで利用されてこなかったこの褐炭を有効利用することはエネルギーバランスの観点でも一定のメリットがあり、既存のエネルギーとの競合ではない独自の活用ができることになるのだ。
そうして取り出した水素を-253度まで冷やして液化し、日本に運ぶのが本プロジェクト。液化すると体積は800分の1になる。さらに石油などに比べて圧倒的に軽量な水素を、オーストラリアから16日間かけて、9000キロ離れた日本へ運ぶ。
運搬船の建造に1年強。水素貯蔵関連の艤装にさらにもう1年ほどの時間で、世界初の液体水素運搬船が間もなく完成するという。
こうして運ばれてきた水素は、水素利用先進都市である神戸で受け入れ、液体のまま保存していくという。褐炭を用いた今回の水素流通プロジェクトが完成すると、水素は飛躍的に身近なエネルギーになるのではないだろうか。
実は水素利用先進国である日本
実は水素利用プロジェクトに関しては、世界に先駆けて日本の企業が積極的な取り組みを行っているのをご存じだろうか。
日本で唯一の液体水素サプライヤーである岩谷産業、LNG運搬船やLNG貯蔵タンクなど極低温技術を必要とする大型施設の建設に取り組む川崎重工、LNG業界のパイオニアであるシェルジャパン、石炭ガス化発電で培ったガス化技術を持つ電源開発や電力インフラエネルギー関連を多数手がけてきた総合商社丸紅。こうした企業がタッグを組んで取り組んでいるのだ。
再生可能エネルギーといっても、絶対的な国土の大きくはない日本では、必ずしも有利というわけではない。
けれどもそういう国でも、低炭素で、安価に文明の利器を利用し続けることが可能になるかもしれない。そんな可能性を水素は持っており、それを安定供給する仕組みづくりの点で、日本は実用化目前の段階にある。これはもっと多くの日本人が知っておくべきことかもしれない。
本格的な水素社会は到来間近! 今後の動きに乞うご期待
冒頭でも述べたとおり、とかく火力か原子力かという電力ソースの議論だけがエネルギー論として語られるが、水素はその枠組を超えて、あらゆる余剰電力と水があれば改質が可能なエネルギーだ。「既存のエネルギーでさえも、無駄を減らし有効活用できる」。そうした利点が水素にはある。
「水素を利用できる」という選択肢が身近になる日は、もうすぐそこまで来ていると言っても過言ではない。
[執筆 / 撮影:中込 健太郎]
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