クルマの開発で一番大事なのは”コミュニケーション“|新R&Dオフィスビルから見えてくる次世代三菱車の姿

三菱車開発の中心地「岡崎」に新たなR&Dオフィスが誕生

日本国内を始め、欧米や東南アジア、中国など全世界13か所で新型車の研究・開発(R&D:Research and Development)を行う三菱自動車。その中心は、愛知県岡崎市にある技術センターだ。

岡崎にはこのほか車両製造を行う岡崎製作所(岡崎工場)も併設。R&D部門と工場部門を合わせ、約100万平方メートルに及ぶ敷地の総面積を有し、三菱自動車の一大拠点となっている。

2018年秋、その岡崎に新たなR&Dオフィスビルと環境試験棟が相次いで竣工。11月27日にその両施設が報道陣にお披露目された。新施設の概要や、その背景にある三菱自動車の次世代開発の取り組み、さらには11月26日に発表されたばかりの三菱 新型「デリカD:5」の同乗試乗体験の模様などをレポートする。

>>より良い働き方のための工夫がたくさん!三菱 新R&Dオフィスビルを画像で見る[Photoギャラリー]

三菱が再び攻めの姿勢へ! 新型車の相次ぐ投入に伴い研究開発部門への投資も強化

見学会にはR&D部門の責任者でもある三菱自動車工業 山下 光彦 副社長執行役員や、三浦 順 執行役員 開発マネージメント本部長、三菱自動車工業 原 徹 車両技術開発本部長らが登壇。新R&Dオフィスビルが出来た背景などについて説明した。

三菱ではこの10数年、一連のリコール隠しや燃費偽装問題など開発部門も関わる重大な事案が複数発生。販売台数の減少や次世代新型車開発の縮小など、その影響は少なくなかった。

しかしルノー日産とのアライアンスを経て、三菱の中期経営計画では商品の刷新や販売増に関する戦略を発表。研究開発費や設備投資の強化を宣言した。

山下副社長は、例えば2018年度は2009年に比べ倍以上の開発費が投資されているとし、研究開発の成果として、直近で発表された「エクリプス クロス」や、ASEAN(アセアン・東南アジア諸国連合)地域向けの小型ミニバン「エクスパンダー」(日本未発売・写真右)などがそれぞれ好調な売れ行きと高い評価を得ていると胸を張る。

さらに今後も、先行発表されたばかりの新型「デリカD:5」や、ASEAN向けピックアップトラックの新型「トライトン/L200」など、2019年も引き続き既存モデルのモデルチェンジや新型車投入などで攻めの姿勢を示していくとした。

クルマの開発に最も大事なのは”コミュニケーション“

このようなR&D部門強化の一環として、新R&Dオフィスビルの建設は行われた。しかし人員増によって手狭になってきた旧来の施設を建て替え・増強するだけではなく、新R&Dオフィスビルでは「働き方・働きがい改革」に向けた施策も数々行われている。

新R&Dオフィスビルでは、オフィスフロアに加え多目的に使えるコミュニケーションスペースを各フロア毎に複数用意。建物の中央には吹き抜け構造の広いダブル階段を設け、人が行き交う空間を意識的に拡げることで新たなコミュニケーションの創出も狙っている。公式な「会議」のみならず「雑談」の機会も増やし、結果として新たな価値を生み出そうという発想がベースにある。

この巨大な吹き抜けは空調換気システムとも連動しており、集中力を妨げる要因となる「暑い」「寒い」を排除することで、業務に集中出来るオフィス環境とした。

このほかにも宗教・宗派を問わず利用出来る祈祷室を設けたりと、多様な取り組みがなされている岡崎の新R&Dオフィスビル。その詳細は画像も併せてチェックしてみて欲しい。

三菱は元々技術志向が強いメーカーであり、開発者らもそうした誇りのもとで先進技術を搭載した数々の名車を誕生させている。しかし他方では、一部の技術者らが燃費測定数値を恣意的に補正することで、実際の数値よりも良く見せようとした軽自動車の燃費偽装問題なども発生している。不正がいけないのはもちろんだが、三菱が一番の問題として自ら指摘したのは、社内での自浄作用が働かなかったことにある。

山下副社長は「1つのクルマの開発には500名もの人間が関わる。そして1台のクルマには3万点もの部品が必要となる。そんなクルマの開発には何より”コミュニケーション“が大事。以前にも増して車載システムも複雑になっていく中、新R&Dオフィスビルは有効に機能するだろう」と話した。

吹雪やゲリラ豪雨、そして電波障害までも徹底テスト

三菱・岡崎の新R&Dオフィスビルに続き、環境試験棟と第二電波試験棟も見学した。

2018年9月に竣工した環境試験棟は、車両テスト用に気温マイナス45度からプラス55度までの環境を屋内で人工的に再現できるほか、雪や雨、風なども発生させることで吹雪やゲリラ豪雨といった厳しい状況下も試験ができるというもの。路面に大きなローラーを設置し車輪を回すことで走行状態を再現するシャシーダイナモも設置され、車速0km/hから最高220km/hまでの高速走行状態も再現出来る。

三菱では北海道・十勝に試験場を有し、冬のテストも実施しているが、自然環境下での耐雪・耐寒試験は天候に大きく左右されコストもかかることから、より安定的かつ詳細な試験結果が得られるものとして期待をかけている。

いっぽうの電波試験棟は、ひと足先となる2016年4月の竣工。車両に関わる電波の影響について、法やISO等の規格に則って試験を行うもの。クルマが周辺の無線や車載の携帯電話、テレビ、ラジオといった電波の影響を受けず正常に動作するかを確認する「電波免疫性試験」や、逆にクルマから発せられる電磁波が周囲の無線や車載の機器に対して影響を及ぼしていないかを調べる「妨害波測定試験」などが行われる。こちらも車両はシャシーダイナモ(0-120km/h)に載せられ走行状態を再現するとともに、ターンテーブルで回転させることもできるので車両の四方に対する影響をそれぞれ測定することが可能となっている。

増岡 浩氏のドライブで新型デリカD:5をひと足お先に(同乗)試乗した!

会場では、2018年11月に発表・予約開始され、2018年度中の発売を予定する三菱 新型デリカD:5の同乗試乗も行われた。残念ながら運転はまだお預けで同乗試乗というかたちだったが、その運転手がラリードライバーでもある増岡 浩氏と聞いてびっくり。三菱の社員ドライバーとしてパリダカールラリー優勝を果たした名ラリーストが語る新型デリカD:5とは。

まず急な登坂路を途中で停車させ、ヒルスタートアシスト機能を用いて難なく再発進させる増岡氏。本来はパジェロなど本格的なクロスカントリー型4WD車をテストするような急坂を、最大トルク380N・mを発揮する2.2リッターターボディーゼルエンジンのトルクでぐいぐい登らせた。坂の前後で平坦路とつながる急角度の部分や坂の頂上部でも、高い最低地上高185mmに加え、前側のアプローチアングル21度、後ろ側のディパーチャーアングル23度、車体の腹の部分を打ち付けない角度を表すランプブレークオーバーアングルは16.5度と、それぞれ十分な余裕があることでクリアしている点も見逃せない。

続いて、周回のテストコースへ走り出す。現行型デリカD:5のディーゼルモデルは、アクセルを踏み込むと明確に「ガラガラガラ」というディーゼルサウンドが車内へ響き渡る感じだったが、新型では明確に静粛性が改善されたことを実感出来た。遮音のみならず、車体剛性の見直しやATの8速化による効果も大きいと増岡氏。

程なくでこぼこの多い舗装路や、ダートと呼ばれる砂利道に突入した。本来は耐久テストで用いる荒れた路面へ、増岡氏は躊躇なくハイスピードで突入させ、わざと滑らせるような動きをしてみせたが、ASC(アクティブスタビリティコントロール:横滑り防止装置)の動作も自然なもの。世界の名ラリーストが運転しているということを差し引いても、横に乗っていてその安定感は頼もしい限り。背の高い重量級ミニバンとは思えない軽やかな身のこなしもみせてくれた。

三菱では、新三菱ブランド“Drive your Ambition”を掲げ、次世代モデルの開発に取り組んでいる。同社が持つ伝統的なSUVメーカーとしての価値や、早くから量販EV・PHEVなど電動化車両を手掛け続けている価値をさらに高めることに加え、システムとしての価値(未来の自動運転技術も見据えたコネクティビリティなど)という3つめの価値を備えるというものだ。ルノー日産アライアンスの成果として、各社の先進技術共有もそこに含まれているのは言うまでもない。

そんな“Drive your Ambition”の片鱗は、早くもこの新しいデリカD:5にも表れているようだ。

風通しの良いオフィスで、これまで以上に活発な議論を行い、厳しい試験の末に生まれてくるであろう次世代の三菱車。その仕上がりにますます期待が高まるばかりだ。

[筆者:トクダ トオル(オートックワン編集部)/撮影:三菱自動車工業・オートックワン編集部]

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トクダ トオル(MOTA)
筆者トクダ トオル(MOTA)

昭和44年生まれ。週末は愛車に乗って(時に鉄道に乗って)家族とともにドライブやキャンプを楽しむ1児のパパ。自動車メディアに携わるようになってから15年余りが経過。乗り換えに悩むユーザーの目線に立った平易なコンテンツ作りを常に意識し続けている。記事一覧を見る

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監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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