メルセデスAMG 新型 C 63 海外試乗|見た目の変更は控えめでも、走りの進化はフルモデルチェンジ級だった!

  • 筆者: 山本 シンヤ
  • カメラマン:メルセデス・ベンツ日本株式会社

最新版”羊の皮を被ったモンスター”の実力を試す

幅広いラインアップを誇るメルセデスAMGの中で、実は累計販売台数が最も多いのがCクラスをベースとしたモデルだ。

その歴史を振り返ると1993年にメルセデス・ベンツと共同開発された初のコンプリートモデル「C36 AMG」が大ヒット。また、コンパクトボディに大排気量エンジンを搭載し、「羊の皮を被ったモンスター」のキャラクターが与えられたC43 AMG/C55 AMGは、ライバルにも大きな影響を与えた一台と言えるだろう。

そんなメルセデスAMGの最新版となるのが、4代目となる現行Cクラスがベースの「メルセデスAMG C 63シリーズ」だ。日本でもノーマルモデルと同じタイミングで改良モデルが発表されているが、実際の発売は「2018年9月から順次」となっている。

今回、一足お先にドイツ・パーダルボルン近郊の一般道~ワインディング~高速道路、そして“ミニニュル”と呼ばれるビルスターベルグサーキットで試乗を行なってきた。

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まずは変更内容をチェック

エクステリアの変更点は少ない反面インテリアの先進性はアップ

新型Cクラスのエクステリアは、ノーマルモデルではバンパーやライトなど新デザインとなっているが、C 63 シリーズはAMG GT専用だった垂直ルーバーの「AMGパナメリカーナグリル」採用とリアデュフューザーの形状変更と変更点は少ない。

一方インテリアは、12.3インチの高精細な液晶メーター(メーターデザインは3タイプ、ウォームアップ/セットアップ/Gフォース、レースタイマー/エンジンデータなどを表示可能)が組み込まれたデジタルコクピット、フラットボトム形状のAMGパフォーマンスステアリング(C63SはAMGトラクションコントロール用ダイヤルと2つのカラーディスプレイボタン付)、従来モデルより横長のセンターモニター(車両情報やサーキットラップタイムを記録するデータロガー機能を有したAMGトラックペースをC 63 Sに標準、C 63にオプション)の採用などにより、先進性がグッと引き上げられている。

9速に多段化された”AMGスピードシフトMCT”

AMG GTと同じ基本設計となるV8 4リッター直噴ツインターボのパワートレインは、C 63が476ps/650Nm、よりスポーツ性を高めたC 63 Sが510ps/700Nmとスペックの変更はないが、トランスミッションはATベースながらトルクコンバーター廃して湿式多版クラッチを採用した「AMGスピードシフトMCT」を7速から9速に多段化。更に駆動系は、従来モデルのC 63が機械式LSD、C 63 Sは電子制御LSDだったが、新型は全車電子制御LSDにアップデートされている。

安定志向から刺激的な走りまで、幅広いセッティング変更が可能

サスペンションは、フロント・4リンク、リア・マルチリンクで、アダプティブダンピングシステム「AMGライドコントロール」の変更については公式アナウンスこそないが、開発者に聞くと「ダンパー、スプリング、スタビライザーなど全てを見直した」と語っている。

ちなみに、エンジン/エキゾースト/トランスミッション/サスペンション/ステアリングなどの特性を変更できる「AMGダイナミックセレクト」は、コンフォート/スポーツ/スポーツ+/レース(C 63S のみ)に加えてスリッピーが追加されている。

更にスピード、ステアリング角、タイヤと路面の摩擦、ヨーレートなどのセンサーや、ドライバーのアクションに対して電子制御LSDを最適に作動(トルクベクタリングと安定制御)させ、高い安定性とコーナリングダイナミクス、最適なトラクションを実現する「AMGダイナミクス」は、ベーシック/アドバンス/プロ/マスターから選択可能だ。

ちなみにESPはON/スポーツ/OFFと3モード、更にAMG GT R譲りの9段階に調整可能なトラクションコントロール付で、ドライバーのスキルや好み、天候や路面に合わせて、レーシングカー顔負けの細かいセットアップが可能となっている。

角が取れしなやかになり、街中での走行はより快適なものに変化

今回の新型メルセデスAMG C 63シリーズの試乗車は全て「C 63 S」で、最初に乗ったのはシリーズの基本となるセダンだ。

従来モデルのメルセデスAMG C 63は、パワートレイン/フットワーク共にアメリカンマッスルカーのようなキャラクターを有していた。常に“やる気スイッチ”が入る解り易いスポーツ性で、明らかにノーマルとは違う世界観が備わっていた。

だが新型は、いい意味で“角が取れた”印象を受けた。ステアフィールには心地よいダルさ、さらに、フットワークはしなやかさとストローク感がプラスされており、荒れた路面でもヒョコヒョコした動きやワンダリングも減っている。そう、普通に乗っている限りは「ちょっと硬めのノーマル」と言うイメージなのだ。なので、従来モデルでは街中で躊躇していたスポーツ/スポーツ+も問題なく使える。

そのような印象をエンジニアに伝えると、「やはり、一般道は快適なほうがいいでしょ?」と。

ボディ形状によってキャラクターを差別化

ちなみにボディ形状によって走りの印象は若干異なっており、セダンを基準にすると、剛性的に有利なクーペはボディに張りがありダイレクト感が強めのソリッド系、逆にワゴンとカブリオレは、セダンより剛性が劣るボディ(と言っても十分すぎるが)に合わせたしなやか系の乗り味だった。

この差はボディ形状によるものだと思いきや、ボディ形状によるキャラクターを加味して意図的に分けていると言う。個人的には前後バランスの良さやしなやかな足の動きが光ったステーションワゴンのバランスが良かった。

モンスター級でも優秀な燃費性能

9速のAMGスピードシフトMCTは、コンフォートモードでは通常のATと変わらない滑らかなシフト制御に加えて、多段化でエンジン回転も抑えられており、燃費性能は510ps/700Nmと言うハイパフォーマンスながらも一般道~高速を流れに乗った走行での燃費は12-13km/Lくらいだった。

サーキットではハイパワーFRの本領発揮

一般道での試乗に続き、サーキットはセダンとクーペで走行した。ビルスターベルグサーキットは全長4.2kmながら中高速コーナーが主体で、あのニュルブルリンクよりもアップダウンが激しい上にエスケープゾーンも少ないコースである。

高出力FRで、そんなコースをインストラクターの先導があるとは言え、“ほぼ”全開での走行は正直ビビる。とりあえず、AMGダイナミックセレクトは「レース」、AMGダイナミクスESPは「マスター」とサーキットベストにセットするものの、ESPは「ON」とビビりながらコースイン。

ただ、様々なデバイスの巧みな連携制御に「運転上手くなった?」と錯覚するくらい安定した走りである。ESP「スポーツ」にするとFRらしい動きの入口を安全に体感することが可能だが、やはりこのクルマの真骨頂はESP「OFF」の時だろう。

Rの小さなコーナーでは絶対的な車両重量の重さで外に逃げてしまう部分はあるものの、それ以外では、従来モデルのようにラフな操作で火傷しそうな野獣のようなキャラクターは影を潜め、クルマが一回り小さく軽くなったと錯覚するくらいの、俊敏性と精密機器のような繊細な操作にも反応するコントロール性の高さが備わっている。そう、510ps/700Nmをシッカリと手なずけているのだ。

ダルさとダイレクト感を両立させ、サーキットでも踏み切れる安定感

ちなみに一般道で感じた心地よいダルさとダイレクト感の両立は、走行状況に応じてマウントの硬さを調整する「AMGダイナミックエンジンマウント」の効果も大きいはずだ。

もちろん、豪快なパワーオーバーステアも健在だが、従来モデルよりも前方向にトラクションが掛かるのと、テールスライドの収まりの良さに、サーキットスピードでもヒヤリとすることは一度もなかった。

ちなみに9段階調整のトラクションコントロールは数値が小さいほど制御の介入が強くなるが、筆者のスキルではタイムを出すなら「3」、振り回して遊ぶなら「7」がベストだった。

サーキットでもボディ形状によって走りの差があり、スライドさせて楽しいのはセダン、動きがややセンシティブに感じたクーペはグリップで走らせたほうが楽しかった。

”9速AMGシフトMCT”でエンジンの美味しいところを使い切る

9速化されたAMGシフトMCTは、レースモードでは変速スピードとダイレクト感などエンジンの旨みをより活かした制御となる。しかし、サーキットでは9速化で最適なギア比を使える一方、ビジーシフトなのも事実で、マニュアルモードよりもアップ時はDレンジ任せでシフトダウンのみパドル使用のほうがリズミカルに走れると思う。

そして、ブレーキやタイヤ(ミシュラン パイロット スーパースポーツ)は従来モデルと変更はないが、相変わらずの絶大な信頼と安心感に加え、半日の連続走行程度では音を上げることはない耐久性も実証していた。

“純度”と“懐の深さ”が増し、走りの進化はフルモデルチェンジ級

新型メルセデスAMG C 63シリーズは、一般道が得意になった反面、サーキットは甘口になったかと心配したが、それは単なる取り越し苦労で、むしろ走りの“純度”と“懐の深さ”が増していた。

最近のメルセデスAMGは四輪駆動の4MATIC採用モデルが増えているが、C 63/C 63 SはFR駆動のみの設定。「なぜ、4MATICを採用しないの?」と言う質問をエンジニアにしたら、「モデルごとのキャラクターに合わせた結果です」と冷静に語るものの、その眼は「コンパクトな車体+高出力+FR=楽しいでしょ」と言いたげだった。

今回の変更は、見た目の違いは僅かながら、走りの進化はフルモデルチェンジ級と言ってもいい。従来モデルのオーナーならば“箱替え”したくなってしまうと思う。

[TEXT:山本 シンヤ/PHOTO:メルセデス・ベンツ日本株式会社]

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山本 シンヤ
筆者山本 シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し。「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“解りやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。西部警察は子供時代にリアルでTV放送を見て以来大ファンに。現在も暇があれば再放送を入念にチェックしており、当時の番組事情の分析も行なう。プラモデルやミニカー、資料の収集はもちろん、すでにコンプリートBOXも入手済み。現在は木暮課長が着るような派手な裏地のスーツとベストの購入を検討中。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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