トヨタ 新型 水素燃料電池車「FCV」新型車解説/渡辺陽一郎
- 筆者: 渡辺 陽一郎
2014年度内、いよいよ発売間近となった燃料電池車!
世界初の量産ハイブリッド乗用車として、トヨタがプリウスを発売したのは1997年。
あれから17年を経て、駆動用モーターを備えたクルマは大幅に普及した。今ではOEM車まで含めると、すべてのメーカーがハイブリッドを扱う(日産 セレナのOEM車となるスズキ ランディを含む)。
販売比率も増えて、新車販売されるクルマの約17%がハイブリッドになった。40%に達する軽自動車を除き、小型&普通車だけでとらえると30~40%がハイブリッドだ。そしてEV(電気自動車)の日産リーフ、三菱iミーブも用意され、クルマの電動化が積極的な普及を開始している。
この流れをさらに加速させるのが、トヨタが2014年6月25日に開発の進捗状況を発表したFCV(燃料電池車)といえるだろう。
EVとの最大の違いは「航続距離の長さ」
FCVの原理は、水素と酸素を反応させて電気を取り出し、モーターを駆動するものだ。
水に電気を流して水素と酸素を発生させる「電気分解」の逆の作用と考えれば良い。FCVは高圧の水素タンクを搭載する「発電装置を備えたEV」に位置づけられる。
EVは家庭やディーラーなどの充電設備で充電を行うが、駆動用電池の容量により航続可能距離が短いとされている。短距離移動用のセカンドカーなどに使えば不都合は生じないが、長距離を移動する用途には適さない。
その点、水素タンクを用いたFCVであれば長距離の移動も可能だ。バスやトラックに有効なパワーユニットとされ、トヨタと日野自動車は、燃料電池ハイブリッドバス「FCHVバス」を共同で開発。実証実験も行った。
水素と酸素を反応させて電気を生み出すFCスタックは、フロントシートの下側付近に配置。ボディの前側に搭載されたモーターを駆動して走行する。
1回の水素充填によって走れる距離は実用的にも500km以上とされ、EVに比べると大幅に長い。
水素の充填所要時間は約3分だから、急速充電器を使ったEVの充電時間に比べても大幅に短い。このあたりの使い勝手は、ガソリンやディーゼルエンジン車に近い。
車両価格は税抜きで約700万円(消費税込みなら約756万円)を想定している。市販されれば、経済産業省による補助金の交付も受けられるだろう。2014年内に、トヨタ店とトヨペット店で販売を開始する予定だ。
気になるのは水素の製造と供給方法。水素は石油、天然ガス、植物、水力、太陽光など、さまざまな方法で生み出せる。現時点ではリサイクルされていない廃棄物なども活用できる。そして前述のように貯蔵密度が高い。
課題はやはりインフラの普及と車両価格
一方、供給方法には課題が多い。現在、水素ステーションは全国に12箇所。今後の展開計画としては、2015年に高速道路などを含めて100箇所に増やし、2025年には1000箇所、2030年には5000箇所とされている。そのためには規制の見直しなども必要だ。
ちなみに給油所(ガソリンスタンド)の数は、1955年頃から本格的な普及を開始し、1975年頃にはほぼ整ったとされている。
70年代の後半から90年代にかけては5万~6万箇所で推移してきたが、2004年に5万箇所を下まわり、2010年には4万箇所以下まで減った。今後は給油所を水素ステーションに変更することも考えられるだろう。
課題は多いが、燃料電池車が増える前に、水素ステーションのインフラが整うことは考えにくい。給油所も車両の保有台数に従って増えた経緯があり、水素ステーションもFCVの増加に伴って整備される。
そして「自民党資源・エネルギー戦略調査会」は、「水素社会を実現するための政策提言」を行っている。この内容には、FCVを普及させるためのさまざまな優遇措置を盛り込んだ。
たとえば2015~2017年までは、タクシー会社を除く企業と個人がFCVを購入した場合、水素を「無料で提供」するという。実質2年間は「FCVの燃料代がタダ」になるわけだ。さらに2015~2020年までは、FCVについては「高速道路も無料化」するという。
購入時の補助金も手厚い。「1台あたり200万円台になり得る水準の補助を2025年までの10年間にわたって」実施するとしている。
これらの施策を続けることで、2025年頃までにはFCVの価格をハイブリッドと同等に抑え、2030年には1年間の販売台数を40万台(累計販売台数は200万台)にしたいとのことだ。
仮に政策提言の通り、1台当たり200万円台(つまり300万円未満)で手に入るほどの補助金が交付されれば、多くのユーザーが購入できるだろう。ただし、交付額は1台当たり約500万円に達する。政府はそこまで多額の補助金を負担できるのか。
この点を自民党に取材すると、「政策提言の内容はあくまでも目標値ですが、自民党は、そこまでの意気込みでFCVの普及を図って行こうと考えているわけです」とコメントした。確かに政策提言の目標値から減額されるのが当たり前ともいえるため、「1台当たり200万円台」という思い切った金額を掲げる必要があるのだろう。
ちなみに今のところEVの補助金額は75万円が上限。先の政策提言が達成できず、700万円弱が実売価格になったとしても、ハイブリッドのレクサスGS450hなどとほぼ同額になる。
自宅の近くに水素ステーションのあるラッキーなユーザーは、所有してみたい気分になるのではないか。EVと違って、マンションなどの集合住宅に住んでいても不都合はなく、日本の住宅環境にも適している。
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