トヨタから約105億円の追加出資を受けた、日本期待のAIスタートアップ企業『プリファードネットワークス』西川社長と岡野原副社長が語る自動車産業の未来図 ~前編~
- 筆者: 桃田 健史
株式会社Preferred Networks(以下、プリファードネットワークス)___
自動車、IT、電機それぞれの産業界で、今やその名を知らない者はいないほど、日本を代表するAI(人工知能)関連の研究開発企業に成長した注目のスタートアップだ。
西川徹氏と岡野原大輔氏が東大大学院に在学中の2006年に起業し、2014年に現在の企業体系となった。
2014年以降は、トヨタ、工場用ロボット大手のファナックとの資本提携、そしてDeNAとの合弁会社設立など、大手企業とのパートナシップを次々と結び事業規模を拡大してきた。
そうした中、今年8月4日に衝撃的な発表があった。プリファードネットワークスがトヨタから約105億円の追加出資を受けることが決まったのだ。
トヨタとプリファードネットワークスは、2014年10月に共同研究及び開発を始め、2015年12月にはトヨタが同社へ10億円の出資をした。このたびの追加出資によって、プリファードネットワークスは、トヨタとのつながりがさらに強化されたわけだが、その真意と今後の事業方針が気になるところだ。
今回は、オートックワンの独占取材として、プリファードネットワークスの創業者・代表取締役社長最高経営責任者(CEO)である西川徹氏と、創業者・取締役副社長の岡野原大輔氏に、東京大手町の同社本社にてインタビューを行った。以下、Q&Aの形でご紹介する。
Q.まずは、トヨタとの関係についてお聞きします。8月4日、トヨタから約105億円の資金調達に関するプレスリリースが出ました。この件に関する経緯を教えてください。
西川社長
「もともと、弊社として研究・開発を加速するための資金需要があり、100億円程度は必要と考えていました。弊社が進めている自動運転の実現やロボット高度化には、大量のデータを学習させる必要があります。そのため、優秀な人材と潤沢な計算資源の確保のため、追加の資金調達がこの段階で必要だと感じていました。このことをトヨタに相談したところ、(すでに共同開発を進めている)自動運転の事業も加速でき、また各種の事業に対するシナジー効果も大きいという話になりました」
Q.トヨタとの関係は2014年10月、ディープラーニングの応用の可能性を探るため自動運転領域での共同研究として発表されました。そもそも、トヨタとはどうやって知り合ったのですか?
西川社長
「弊社の長谷川(取締役・最高執行責任者長谷川順一氏)が前職の時代から交友のあるトヨタ関係者と、新しい事業の可能性を考えていました。我々の事業が2014年、それまでの検索エンジンなどの領域から、IoTと機械学習の分野へと方向性が大きく転換した中で、自動運転などの領域を含む機械を制御するためのディープラーニングにおいてトヨタとの親和性が高いと判断しました」
Q.トヨタの中で、AIやディープラーニングの研究開発というと、2016年1月にアメリカでTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)を設立しています。TRIとの関係の詳細について、現時点で御社からお話して頂くことは難しいと思いますが、一般論としてTRIをどう思いますか?
西川社長
「自動運転を開発するには様々な技術を掛け合わせていくことが必要です。トヨタには、今回の(約105億円の投資に関する)プレスリリースの中で、弊社が持つ世界トップレベルの知能化関連技術がトヨタにとって必要不可欠であると表明して頂きました。そのうえで、TRIを含めてトヨタと関連する企業やトヨタ本社の各部門と弊社が、研究領域において適材適所で連携することになると思います」
Q.では、トヨタ以外の自動車メーカーとも、事業で連携することもあり得るのでしょうか? それとも、自動車産業ではトヨタとのエクスクルーシブ(独占契約)なのでしょうか?
西川社長
「契約の詳細は申し上げられませんが、基本的にはトヨタ様を中心に開発する予定です。自動運転領域で様々な企業と連携するよりも、トヨタとがっちり組んだ方が(自動運転の開発を進めて事業化することが)早く進むと我々は判断しました」
Q.話題を御社の事業全体に広げてお聞きします。御社が現在進めている事業領域について教えてください。
西川社長
「交通システムではトヨタ、またロボティクスにおいては、製造業の高度化を目指してファナック、そしてライフサイエンスでは国立がん研究センターなどと共同研究を行い、この3つの分野に注力しています。学習には大量のデータを必要とするため、我々だけでは開発を進めることが難しく、各分野においてデータをお持ちの力強いパートナーと組んでいる状況です」
Q.また、御社はオープンソースとして『チェイナー』を独自開発しています。これを基盤に今後の事業を拡大するのですか? オープンソースはマネタイズ(課金化)することが難しいですが、どのような事業計画を考えているのですか?
西川社長
「ソフトウエアを開発しているエンジニアにとって、オープンソースソフトウエアに関わることは大きなモチベーション(やる気)になります。独自のオープンソースソフトウエアを持つことで、外部から優秀な人材が集まってきます。さらに、自分たちでも技術開発を加速させることができます。そのため、それが直接的にビジネスにならなくてもよいと考えます。一方で、マイクロソフトやインテルとの協業が実現したのは、弊社がチェイナーを持っていることが大きいです。チェイナーはいま、様々なコミュニティで使われており、そうしたチェイナーを軸にして、さらにバージョンアップしながら新しいパートナーとの協業を広げていきたいと思います」
まだまだ興味深い話は尽きないので、後編へと続く。
[Text:桃田健史]
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