トヨタから約105億円の追加出資を受けた、日本期待のAIスタートアップ企業『プリファードネットワークス』西川社長と岡野原副社長が語る自動車産業の未来図 ~後編~

トヨタから約105億円の追加出資を受けた、日本期待のAIスタートアップ企業『プリファードネットワークス』西川社長と岡野原副社長が語る自動車産業の未来図 ~後編~
右:社長の西川氏、左:副社長の岡野原氏 株式会社Preferred Networks 代表取締役社長最高経営責任者(CEO)西川徹 氏 株式会社Preferred Networks 取締役副社長 岡野原大輔 氏 株式会社Preferred Networks 代表取締役社長最高経営責任者(CEO)西川徹 氏 株式会社Preferred Networks 取締役副社長 岡野原大輔 氏 右:取締役副社長 岡野原大輔 氏/左:代表取締役社長CEO 西川徹 氏 画像ギャラリーはこちら

8月4日にトヨタから約105億円の追加資金調達を決めた、AI(人工知能)関連の研究開発を行うスタートアップ企業、株式会社Preferred Networks(以下、プリファードネットワークス)。

本稿の前編では、トヨタとの関係などを西川社長に語って頂いたが、後編では、岡野原副社長に最近の人工知能ブームについて聞いた。

株式会社Preferred Networks 取締役副社長 岡野原大輔 氏

Q.今、自動車産業界では、自動運転に関して人工知能ブームが巻き起こっています。こうした状況を人工知能の研究開発に携わるエンジニアとしてどう思いますか?

岡野原副社長

「人工知能には良い面と悪い面、両方があると感じています。良い面は、企業の経営陣が人工知能について興味を持ち、前向きに取り組んで頂けるようになった点です。現在の人工知能は、ディープラーニングを含む機械学習が主体であり、機械学習による賢さを得るためには学習データが必要です。この1~2年で以前とは状況が変わり、企業側が学習用のビッグデータを(我々のような開発に携わる企業に)出してくれるようになりました。

一方で人工知能は、ディープラーニングや強化学習など多岐に渡る技術の総称です。関連する最新論文が年間1万件ほど出ており、一般の方にはその全容の理解、その中から必要な情報を得ることが難しい状況です。または現時点での人工知能の能力の限界を理解できず、思ったような成果が出ないといったケースもあり得ます。

弊社では、人工知能の実情を正しく理解してもらうため、学会での講演や書籍を出すなどの活動を進めています」

Q.人工知能のベテラン研究者の多くは、過去の事例を鑑みると今回の人工知能ブームも当然終わる。そのためのソフトランディングを考えるべきだという意見がありますが?

岡野原副社長

「(市場が)加熱していることはある程度感じています。ある程度バズっている(流行している)中で、どこかで(市場からの)期待がシュリンク(萎む)するフェーズがあり、それが過ぎた後は、世の中で本当に必要とされる技術をもった企業しか生き残らないと思います」

Q.では、話題を自動運転に戻しましょう。最近、自動車メーカーやIT企業、そして国などの行政機関は、自動運転について顧客が所有する”オーナーカー”と無人運転する商用車などの”サービスカー”という、2つの自動運転の領域を示すようになりました。技術論という面だけではなく、こうした時代変化の中でオーナーカーという考え方をどのように思いますか?

岡野原副社長

「ウーバーやリフトなどのライドシェアリングによって、所有から共有への流れが起こり始めています。日本ではあまり感じませんが、中国、アメリカ、東南アジアではそうしたトレンドを強く感じます。これまでは共有するサービスを構築することが難しかったですが、スマホを通じてネット上の複数のサービスが可能となり、(将来的には)サービスカーの自動運転化が進むと思います。その動きがどのくらい激しい(急速)か、または(オーナーカーからサービスカーへ)一気に置き換わるかどうかは、現時点では分かりません」

Q.個人的な意見として、そうした時代変革は今から何年後に起こると予測しますか?

岡野原副社長

「国や地域によって状況はまったく違うと思います。クルマがすでに普及しているところは、(オーナーカーを)置き換えようとするモチベーションは少なく、変化がゆっくりになるでしょう。一方で、まだクルマを持っていない人たちが多い国や、所得レベルは低いがクルマを使用したい人の多い国では急速にクルマの共有化が進むと思います。また、別の視点では、日本などでは高齢化が進む中で自動運転化が進む可能性があると考えています」

右:取締役副社長 岡野原大輔 氏/左:代表取締役社長CEO 西川徹 氏

Q.こうした議論をしていると、ソフトウエアのプログラミングではなく、自動車産業や地域の在り方など広い視野を見る必要があると思います。皆さんが自動運転という領域での研究開発を進めていく中で、そうした意識を持つようになりましたか?

西川社長

「はい。自動運転が普及するとシェアリングが加速し、(自動車の使用が効率化されて新車としての)クルマの台数が減れば、自動車産業全体がシュリンクしてしまうといった流れになってしまうことも考えられるので、我々がどこまでこの領域に注力すべきなのかという点は、当初から考えてきました。

ただ、ひとつ言えるのは、今ディープラーニング等の分野において、莫大な投資が集まり、研究開発が加速しているのは自動運転の分野です。自動運転を実用化する場合、歩行者や他車への安全を配慮するため、非常に高い画像認識技術が必要になります。そこから、防災、セキュリティ、マーケティングなど様々な分野へ技術を転用することが可能だと思います。そうした中で研究開発を進めて技術を蓄積することが弊社の目的のひとつです」

西川社長は、さらにこう続けた。

「もうひとつが、自動車の未来がどうなるのか、という点です。まだまだ分からないのですが、自動車を軸としたサービスの部分に事業を展開していくのであれば、自動運転化は(研究開発と事業それぞれの分野として)我々ができるようにしておかないといけないと思います」

この他、話題は半導体メーカーの動き、人工知能の研究者の資質など色々とあったのだが、本稿ではこのあたりでまとめとさせて頂く。

自動車産業は今、100年に1度の、つまりは自動車産業史上で初めての革命的な大変革期に突入した。そこには、EV(電気自動車化)、CV(コネクテッド化)、AV(自動運転化)の技術領域に加えて、ライドシェアリングなどMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の分野が融合する。そうした巨大な流れの中で、プリファードネットワークスはソフトウエア開発会社としてではなく、先端技術の蓄積によって業態を超えるほどの進化を遂げるのではないか?

今回のインタビューを通じて、そう強く感じた。ちなみに、現在の社員数は約100人。オフィスは東京とシリコンバレーの2拠点。当面は、開発を集中的に行うため、東京オフィスの拡充が最優先だという。

[Text:桃田健史]

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桃田 健史
筆者桃田 健史

日米を拠点に、欧州、BRICs(新興国)、東南アジアなど世界各地で自動車産業を追う「年間飛行距離が最も長い、日本人自動車ジャーナリスト」。自動車雑誌への各種の連載を持つ他、日経Automotive Technologyで電気自動車など次世代車取材、日本テレビで自動車レース中継番組の解説などを務める。近著「エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?」(ダイヤモンド社)。1962年東京生まれ。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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