トヨタ 新型クラウン(プロトタイプ)試乗&解説|自ら”茨の道”を選んだトヨタの意図とは(3/3)

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自動車評論家 渡辺陽一郎が選ぶ、ベスト・バイ・グレード

クラウンは趣味性で選ぶ車種だから、エンジンやグレードは好みに応じて決めるべきだが、客観的には2種類が推奨される。

まずは2リッターターボのRSだ。幅広い回転域で駆動力が高く、ハイブリッドとは違う”回す”楽しさが味わえる。RSの足まわりは乗り心地が少し硬いが、操舵感は機敏でグリップ性能も高く、上質なスポーティセダンに仕上げた。従来型のアスリートを使うユーザーが乗り替える対象にも適する。

2つ目は2.5リッターハイブリッドのS・Cパッケージだ。ハイブリッドは滑らかで静かに回って燃費も優れ、標準ボディは乗り心地が快適になる。S・CパッケージはSに比べると18万円程度の価格上昇で、安全装備などを充実できる。

つまり2リッターターボを含めてS・Cパッケージは、装備の割に価格を抑えた買い得グレードに位置付けられる。3.5リッターのハイブリッドは、動力性能が過剰で価格も高まり、推奨グレードには含まれない。

>>トヨタの代名詞・クラウンの新型を画像でじっくり見る

自ら”茨の道”を選んだトヨタの意図とは

それにしても新型クラウンは大きく変化した。外観は6ライトボディの5ドアクーペ風で、グレードでは3つのシリーズが統合され、ロイヤルサルーンを廃止した。

この理由として、まずはユーザーの高齢化がある。従来型はスポーティなアスリートが約半数に達するものの、平均年齢は65~70歳だ。これを40~50歳に抑えて需要を将来に繋げるため、外観から走行性能まで大幅に見直した。

2つ目の理由は、上級セダン市場において、メルセデス・ベンツ/BMW/アウディのドイツ製輸入車が台頭していることだ。これにストップを掛けるため、クラウンは大幅な変更を行った。

ただしドイツ車の拡大は国産セダン全体の問題だ。今ではクラウン以外の国産上級セダンは、レクサスを筆頭に、すべて海外向けに開発された車両になる。少なくとも日本では、レクサスなどはメルセデス・ベンツやBMWの後追いに思えるから、本家本元のドイツ車を求めるユーザーが多いのは当然だ。クラウンのほかにも「日本を大切に考えたセダン」がないと、ドイツ車の浸食を食い止めるのは難しい。

このような事情があるとはいえ、伝統のクラウンをずいぶんと好き勝手に変えてくれたものだと思う。戸惑いを感じる歴代クラウンのユーザーと販売店は、決して少なくないだろう。

これだけ路線を変えた以上、トヨタは従来以上にクラウンの顧客と販売店を手厚くケアする必要がある。その結果、新型クラウンが売れ行きを伸ばせたなら、トヨタは国内市場で貴重な成功体験を得られる。将来の国内販売戦略にも、優れた影響を与えるに違いない。

そしてクラウンは国産乗用車の中心的な存在だから、新型の成否は、国内市場全体の動向を左右するといっても大げさではない。

クラウンとは、そういうクルマである。

[Photo:渡辺 陽一郎 Text:茂呂 幸正]

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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