トヨタ自動車 製品企画本部 センチュリー 開発主査 清水 勉 インタビュー(4/5)

トヨタ自動車 製品企画本部 センチュリー 開発主査 清水 勉 インタビュー
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究極の手作り

センチュリーは、一台ずつ手作りされている。関東自動車工業(7/1からトヨタ自動車東日本株式会社)の工場内は、今日見慣れた自動車生産工場とは景色が違う。19世紀末にドイツで生れた自動車が、アメリカのヘンリー・フォードの手によってベルトコンベヤー式の大量生産をはじめるまでは、馬車のコーチビルダー(製造者)のように手作りされてきた100年前を見るようだ。

トヨタ 製品企画本部 センチュリー開発主査 清水勉インタビュー
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【清水勉】なぜ、手作りなのか?と言えば、それは生産台数が他の量産車とまったく異なるからという、言わば投資と収益との絡みです。とはいえ、それによって物づくりの価値という、大量生産とは違った視点での物づくりがあることを伝承するうえで、価値ある生産方式だと思っています。

また、単に少量生産のコストを抑えるだけでなく、必要なところにはお金を掛けています。たとえば、精度を出すところですね。ただ、そのやり方が違う。大量生産であれば、精密なロボットを導入することで精度を上げるということをするでしょう。

しかし、ここでは、人の力を借り、職人が熟練するなかで精度を高めていきます。溶接しかり、プレスした鋼板の面仕上げしかりです。

たとえばスポット溶接は、カローラの3倍(開発当時)におよぶ打点を人の手で溶接していく。外板の溶接箇所は、盛られた溶接部を職人がヤスリで削って表面を滑らかに仕上げている。プレスされた鋼板は、表面に薄く油を塗り、蛍光灯の映り込みを頼りに職人が自作の小型ハンマーで叩いて、わずかな歪を整えていく。その歪は、素人目には見抜けないほどであるにもかかわらず。

そしてなんと、センチュリーの組立生産現場では、4人が一つのグループを作り、およそ3万点に及ぶ部品の組み立て作業をすべて行う。そのうちの一人はグループリーダーとして全体をまとめる役目も担うため、実際には、グループの一人ひとりが全ての組み立て工程をできるようにならなければならない。仕事をすべて覚えるのに、半年はかかると言う。

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【清水勉】少量生産の決め手は、そうした一つひとつの作業を丹念にやり続ける意欲をどう持ち続けられるかにかかっています。もし、手を抜こうと思えば、抜いてしまっても、そのことがわかりにくい。したがって、誇りを持ってどこまで作りあげられるかにかかっているのです。

また、この技術を伝承することも併せて考えていかなければなりません。私がセンチュリーの担当となって、はじめて関東自動車の工場に来たとき、当時の先輩方は実に楽しそうに働いておられました。現場に誇りが満ち、一体感がありました。物づくりの原点を粘り強くやり続ける姿がありました。

そこを、トヨタの生産ラインにどう活かせるか?物づくりの基本である手間を惜しまないことに止まらず、知恵を使えということです。改善の芽は、現場から出てくるはずだからです。

センチュリーを製造する360の工程には、その数だけ改善の機会があるのです。こうした現場の活気、創意工夫が「物凄いな」と、言わせたいですね。それから、こうした少量生産には、それにあった設計も必要です。そこから物づくりの仕方が違ってくるのです。

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御堀 直嗣
筆者御堀 直嗣

1955年東京出身。自動車ジャーナリスト。玉川大学工学部機械工学科卒業。1978年から1981年にかけてFL500、FJ1600へのレース参戦経験を持つ。現在ではウェブサイトや雑誌を中心に自動車関連の記事を寄稿中。特に技術面のわかりやすい解説には定評がある。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。また現在では電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副会長を務める。記事一覧を見る

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