1ランク上の走りを実現し、最もプレミアムスポーツを示した1台に進化したエクストレイルAUTECH

更なるこだわりがプラスされているエクストレイルAUTECH

2020年1月に一部改良が行なわれた日産 エクストレイル。恐らく現行モデルとしては最終進化形となると思うが、注目なのはその変更内容だ。

一つは「プロパイロットの進化」で、従来の単眼カメラから単眼カメラ+ミリ波レーダーのセンサーフュージョン式に変更。さらに、遮音ガラスや静音タイヤなどを採用した音振性能向上を図ったというもの(最下級のSグレードを除く)。

つまり、モデル末期にありがちな「お買い得感アップ」ではなく、ハードにもシッカリと手が入った積極的な改良なのだ。この辺りは新体制に変更され、「技術の日産」をアピールするための“変化”の一つかもしれない。

更に日産のファクトリーカスタムモデルを担当するオーテックジャパンがリリースする“特別”な「エクストレイルAUTECH」の進化は、更なるこだわりがプラスされている。

改めてAUTECHをおさらいすると、2017年4月に発表された「NISMOロードカー事業拡大」に合わせて登場した日産のファクトリーカスタムのブランドで、モータースポーツ直系で直接的にパフォーマンスを感じさせるデザインのNISMOに対して、プレミアム感の高いクラフトマンシップを感じさせるプレミアムスポーツ路線を担う存在だ。

すでにミニバンのセレナ、コンパクトのノートにライナップされ、エクストレイルは第3弾のモデルとなるが、昨今プレミアムクロスオーバーSUV人気が著しい中、モデルラインアップが少ない日産の中で、「より都会的なエクストレイルが欲しい」、「よりプレミアムなエクストレイルが欲しい」と言う声から誕生したモデルである。

今回の進化は「見えない部分」

エクストレイルAUTECHはアイコンの一つとなるドット柄グリルに加え、専用デザイン&メタル調フィニッシュのフロント/リアバンパー、カラード化されたフェンダー/サイドシル、専用アルミホイール、デュアル出しのマフラーなどにより、どちらかと言うとカジュアルなイメージの強いエクストレイルに高級感と先進性がプラスされている。

インテリアはブルーステッチ&AUTECH刺繍付のブラックレザーシート、ブラック/ブルーコンビの本革巻ステアリング、レザー調のインストパネル、ピアノブラック調のドアトリム、更にエクストレイル唯一のカーペットインテリア(フロア、ラゲッジ、ラゲッジボード)などにより、エクストレイルの機能性/使い勝手を損なわずに質感をアップ。また、本革シートカラー(2色)、ステアリング(3色)、ステアリングステッチの縫製パターン(3種類)の中からユーザーの好みに合わせてインテリアコーディネート可能な「プレミアムパーソナライゼーションプログラム」も継続して設定されている。

ここまでは従来モデルと変わらないが、今回の進化は「見えない部分」にある。それはSACHS製ショックアブソーバーを含む専用サスペンションの採用だ。エクストレイルAUTECHにはエクストレイル唯一の19インチタイヤ&ホイール(ノーマルは17/18インチ)が採用されるが、サスペンション周りはノーマルに準じていた。

確かにタイヤ&ホイール変更によりオンロード側にシフトした味付けにはなっていたものの、「AUTECH=プレミアムスポーツ」と言うからには、走りに「プラスα」があったほうがいいと思っていたが、今回そこにメスが入ったのである。

実は海外向けのエクストレイルにはSACHS製ショックアブソーバーを採用するモデルがあった!

SACHSはZF傘下のサスペンションブランドでヨーロッパを中心に圧倒的なシェアを持つが、最近は日本車への採用も増えている。「雨、荒れた路面、どんな道路状況であっても安全に快適に速く」をコンセプトとし、世の中で「いいクルマ」と評価されているクルマの多くが採用を行なっている。

実は海外向けのエクストレイルにはSACHS製ショックアブソーバーを採用するモデルがある。今回はそれを用いながらAUTECHらしい走りを作り上げるために細かなチューニングを実施。具体的にはガソリン車は前後のスタビライザーを変更(スプリングは変更なし)、ハイブリッド車はフロントスプリングを変更(スタビライザーは変更なし)が行なわれている。実はこれらのアイテムも他の仕向地用を上手に活用。この辺りもファクトリーカスタムならでは……と言える部分だろう。

専用サスペンションの実力は!?

一般道では19インチを履いていることを忘れてしまうほど

その走りはどうだったのか? 一般道ではヒョコヒョコする無駄な動きが抑えられ、ギャップの乗り越えの優しさやシットリとした足の動きなど、「あのエクストレイルがこんなに滑らかになった!?」とビックリ。これは大げさではなく、正直言ってしまうと19インチを履いていることを忘れてしまうくらい。

ちなみにパワートレインの変更はないが、CVTの回転変化が目立ちにくくなっている。恐らくベース車に施された静粛性向上の効果による物だが、結果的に走りの質向上にも寄与している。2リッターNAエンジンは実用十分な性能を備えるが、応答性やレスポンスに関しては少々気になる部分も。スムーズさや力強さを求めるならば1モーターのハイブリッドがお勧めだ。

無駄な動きが抑えられフラット感も高い高速道路

高速道路は一般道での印象に加えて、直進性安定性の良さを実感。また、低速域では「よく動く」と感じた足だが高速域では無駄な動きが抑えられフラット感も高い。目線もブレにくく運転がより楽になっているのが解る。

ちなみにステアリング系はEPS制御を含めてノーマルから変更されていないが、まるでベアリングを使ったかのような滑らかさとセンター付近の精度がアップ。恐らくサスペンション変更でタイヤの接地もより良くなっているのだろう。実はプロパイロットを使用すると、今まで以上に「ステアリングを握ってください」の警告も……。

ワインディングではコーナリング時の一体感を更に感じる

ワインディングではSUVを感じさせない走りを見せる。従来モデルのようにコーナリング時にいきなりグラッと傾く事はないのとクルマの動きに連続性があるので安心感が高い。更により精度の増したステアリング系と4つのタイヤを効果的に使うセットアップの相乗効果で、コーナリング時の一体感も増している。

1ランク上の走りが実現できたことでで、「見た目」と「走り」のバランスが整った

実は今回の撮影時、機材車が某社製最新ハッチバックだったのだが、それよりも「走りが楽しい!!」と感じたくらい(笑)。これまでエクストレイルでワインディングを走って一度も楽しいと思ったことはないが、今回エクストレイルAUTECHに乗って改めようと(笑)。

結論、このように走るステージ問わず1ランク上の走りが実現できたことでで、「見た目」と「走り」のバランスが整った。AUTECHが目指すプレミアムスポーツの本質は「GT性能」を高める事だが、それはすなわち「雨、荒れた路面、どんな道路状況でも安全に快適に速く」が身上のSACHSと同じである。筆者はこの二つのブランドのタッグは“運命”だったと思っている。

厳しい事を言えば「最初からやってよ」と思う気持ちがないわけでもないが、今回AUTECH独自の走りを構築できた事は高く評価したい。これまでAUTECHの動向を長らく見守ってきた筆者としては、今回のエクストレイルAUTECHが最も「AUTECH=プレミアムスポーツ」を表現できた1台だと思う。加えて、現行モデルの“集大成”と言ってもいい完成度を備えたエクストレイルだ。

[筆者:山本 シンヤ/撮影:土屋 勇人]

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山本 シンヤ
筆者山本 シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し。「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“解りやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。西部警察は子供時代にリアルでTV放送を見て以来大ファンに。現在も暇があれば再放送を入念にチェックしており、当時の番組事情の分析も行なう。プラモデルやミニカー、資料の収集はもちろん、すでにコンプリートBOXも入手済み。現在は木暮課長が着るような派手な裏地のスーツとベストの購入を検討中。記事一覧を見る

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