【動画あり】三菱 新型デリカD:5 試乗│唯一無二のミニバンオフローダーは、選ぶ価値の高い1台

ミニバンながら“オフローダー”という独自の魅力を追求する、三菱を代表するモデル

多人数乗車の可能なミニバンは、日本で人気の高いカテゴリーとされる。そこには主に2つのニーズがある。ひとつは車内の広い実用的なファミリーカーだ。多人数で移動できて、3列目のシートを畳めば自転車などの大きな荷物も積みやすい。収納設備が豊富で、子育て世代のユーザーに適する。

このタイプには、コンパクトミニバンであればトヨタ シエンタとホンダ フリード。ミドルサイズなら日産 セレナ、トヨタ ヴォクシー/ノア/エスクァイア、ホンダ ステップワゴンなどが該当する。

その一方で、Lサイズのミニバンには、まったく違うニーズがある。背の高い大きなボディは存在感が強く、フロントマスクにはメッキグリルも装着されてかなり目立つ。広い車内は豪華に仕上げた。多人数乗車や自転車の積載も可能だが、それ以上に高級セダン的な価値を備える。このニーズに応えたのは、トヨタ アルファード&ヴェルファイア、人気は下がり気味だが日産 エルグランドがある。

こういったミニバンのあり方から距離を離し、独自の魅力を追求するのが三菱 デリカD:5だ。売れ筋は4WDで、メカニズムはアウトランダーの2.4リッターエンジン搭載車と同じだ。前後輪へ駆動力を配分する多板クラッチには、締結力を強めるロックモードを装着した。デリカD:5は、ミニバンの4WDの中では走破力が最も高い。

>>新型デリカD:5の内外装を画像でチェック

またミニバンでは唯一のクリーンディーゼルターボも用意され、実用回転域の高い駆動力と燃料代の安さを両立させた。4WDとディーゼルの組み合わせで、デリカD:5はミニバンスタイルのSUVともいわれる。

発売から約12年を経過するが、1ヶ月に1000台少々が売られている。そこで今後も販売を続けるべく、先ごろビッグマイナーチェンジを実施した。

ただし改良されたのは4WDを備えるディーゼルのみだ。今は販売総数の90%をディーゼルが占めるので、ガソリンエンジンは従来型を継続生産する。

改良を受けた新型デリカD:5の詳細な解説は、2018年11月24日に掲載したので、今回は実際に試乗を行った。試乗車はプロトタイプ(試作車)になる。標準ボディとアーバンギアを用意するが、ディーゼルエンジン、足まわり、4WDなどの設定は全車共通だ。タイヤサイズも価格が最も安いMは16インチだが、ほかの売れ筋グレードはすべて18インチを履く。

一見ド派手なマスクも、実車を眺めるとそれほど違和感なし!?

外観は写真で見ると奇抜な印象だが、実際に眺めるとそれほど違和感はない。標準ボディはフロントグリルがハニカム(蜂の巣)状で、ボディの前後には悪路でボディを守るスキッドプレート風のパーツを装着する。SUVのイメージに仕上げた。

アーバンギアはメッキグリルがシンプルな形状になり、ボディの前後にエアロバンパーを備える。スポーティな雰囲気が特徴だ。

車内に入ると、インパネの周辺が上質になった。ソフトパッドが多く使われ、ステッチ(縫い目)も施している。インパネの中央部分やATレバーの質感も高い。

ただし従来型が装着した助手席前側のアッパーボックスは廃止されている。便利な装備だから、開発者は残したいと考えて検討したが、質感の向上と両立させるのは難しかったという。

静粛性の増したエンジンと、高回転域が保ちやすくなったトランスミッション

試乗を開始すると、まずエンジンノイズが以前に比べて静かになっている。今はマツダのディーゼルもノイズと振動が小さいから、新型デリカD:5が特に優秀なわけではないが、以前の少し騒がしい印象は薄れた。

動力性能も向上している。ビッグマイナーチェンジではエンジンにも改良を施し、ATは従来の6速から8速へ多段化したからだ。1000回転を少し超える領域で走っている時に、アクセルペダルを軽く踏み増しても、着実に速度を高める。1700回転付近からは加速が活発になり、2000~3500回転では、高い動力性能を発揮する。アクセル操作に対するエンジンの反応も機敏だ。この実用回転域の性能は、ノーマルタイプのガソリンエンジンでいえば、3.5リッターに匹敵する。

ディーゼルだから、ガソリンエンジンほど高回転域の吹き上がりは活発ではないが、それでも3900回転付近までは直線的に回る。エンジン回転の上昇が伸び悩む印象はない。ATが8速になったから、高い加速力が欲しいときには、高回転域を保てるようになったこともメリットだ。

操舵感、安定性、乗り心地、さまざまな性能がバランス良く向上

エンジンに併せて足まわりも改善を受け、走行安定性も向上している。まずカーブに入る手前でハンドルを切ったときの反応は、以前は少し曖昧だった。改良後はステアリングの支持剛性が高まり、ハンドル操作に対する車両の動きが正確になっている。ボディが重く背の高いミニバンだから、安定確保のために機敏な設定にはしていないが、鈍さが払拭されて運転がしやすい。これは走る楽しさも高める。

カーブに入った後の挙動も向上した。ボディがフラリと唐突に傾く不安感を抑えている。下り坂のカーブを曲がっている時に、例えばアクセルペダルを戻したりブレーキを踏むような操作を強いられても、進路を乱されにくい。挙動の変化が穏やかに進み、なおかつ後輪の接地性を高めたから、どっしりした安定感が生まれた。

大小のカーブが続く峠道を走った時は、外側のタイヤが踏ん張って旋回軌跡を拡大させにくい。スポーティに走る性格のクルマではないが、以前に比べて曲がりやすく安定性も高めたから、さらに安心して運転できる。

ホンダ オデッセイ、ステップワゴン、トヨタ アルファード&ヴェルファイアなどは安定性がさらに高いが、デリカD:5は悪路走破力も大切にしたから、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)に余裕がある。全高は1875mmに達した。車両重量も、ディーゼルターボと4WDの搭載で1900kgを上まわる。その一方で全幅は1795mmに収まる。この重くて高重心のボディを考えれば、操舵感や走行安定性は上手にバランスされている。

乗り心地は、低い速度で荒れた路面を走ると硬めに感じるが、以前の重い18インチタイヤが路上を細かく跳ねるような粗さはない。つまり操舵感、安定性、乗り心地まで、さまざまな性能をバランス良く向上させた。

背景にはボディやサスペンションの改良がある。新しいエンジンと8速ATが搭載され、衝突安全性も高めたから、ボディの前側は骨格を変更した。ショックアブソーバーはリヤ側を含めて見直され、優れた効果をもたらしている。先代アウトランダーやギャランフォルティスから使い慣れたプラットフォームだから、的確なセッティングが行えたこともあるだろう。

悪路走破性は言わずもがな

悪路も走ったが、4WDをロックモードに入れておけば、平然と走破していく。ディーゼルの実用回転域で発揮される高い駆動力も、悪路の走破に適する。

稀に空転が生じると、そのホイールだけに自動的にブレーキを作動させて空転を抑え、駆動力の伝達を確保する制御もある。これは改良を受けて綿密になった。過信や無理は禁物だが、これだけの走破力があれば、実用的には十分だろう。

設計の古さは否めないものの、そこも含め満足できたなら選ぶ価値の高いミニバン

新しいデリカD:5のフロントマスクは賛否両論だと思うが、SUV的な悪路走破力が表現されている。「上級ミニバンに乗りたいが、アルファード&ヴェルファイアはちょっとイメージが合わない」と感じているユーザーにはピッタリだ。

念のために、アルファード&ヴェルファイア、ヴォクシー/ノア/エスクァイア、セレナなども乗り比べて判断すると良い。デリカD:5のディーゼルは、走りをフルモデルチェンジ並みに進化させたが、設計の古さを感じさせる部分も残るからだ。高い床による乗り降りのしにくさ、高い視線による左側面の大きな死角、重くて格納のしにくい3列目シートなどは、デリカD:5の欠点だから購入するなら必ず確認したい。

このあたりも含めて満足できたなら、選ぶ価値の高いミニバンといえるだろう。三菱車の持ち味を実感しやすい商品でもある。

[筆者:渡辺 陽一郎 撮影:茂呂 幸正]

三菱 新型デリカD:5 テストドライブ動画はこちらから

三菱 新型デリカD:5 主要諸元

三菱 新型デリカD:5 主要諸元

エンジン

直列4気筒DOHCインタークーラーターボチャージャー付

駆動方式

4WD

価格(消費税込)

約385万円~約425万円(予定)

JC08モード燃費

13.6km/L

全長

4,800mm

全幅(車幅)

1,795mm

全高(車高)

1,875mm

ホイールベース

2,850mm

乗車定員

7~8人

車両重量(車重)

1,930~1,960kg

排気量

2,267cc

最高出力

107kW(145ps)/3,500rpm

最大トルク

380Nm/38.7kgf・m/2,000rpm

トランスミッション

8速スポーツモードAT

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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