ホンダ 新型クラリティPHEV試乗|ホンダは今なぜクラリティにプラグインハイブリッドを追加するのか?

  • 筆者: 渡辺陽一郎
  • カメラマン:和田清志

FCV・EVに続き、PHEVのクラリティが登場

「クラリティ」といえばホンダの燃料電池車(FCV)だが、2018年7月20日にプラグインハイブリッドのクラリティPHEVが国内で発売された。北米ではクラリティの燃料電池車に加えて電気自動車もリース販売され、さらにPHEVを購入できる。

クラリティPHEVで驚かされたのは、その販売価格で、588万600円に達することだ。直列4気筒1.5リッターエンジンをベースにしたハイブリッドシステムと充電機能を搭載して、本革&プライムスムースの電動パワーシート、ホンダインターナビ&リンクアップフリーなども標準装着するが、それにしても高価格ではないだろうか。

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1.5リッターエンジンは主に発電機として作動する

ホンダ クラリティPHEVのハイブリッドシステムは、スポーツハイブリッドi-MMDと呼ばれるタイプで、アコード/オデッセイ/ステップワゴンなどにも使われている。エンジンは主に発電機として作動するが、効率の優れた高速時には、エンジンがホイールを直接駆動することもある。

アコードなどは直列4気筒2リッターエンジンを搭載するが、クラリティPHEVは前述のように1.5リッターにして効率を高めた。

制御も異なり、アコードなどで直接駆動するのはアクセルペダルを軽く踏んで走る高速巡航時だけだが、クラリティPHEVでは、エンジンとモーター駆動を同時に行って加速する場面もある。基本はスポーツハイブリッドi-MMDだが、制御は進化している。

EVで101km走行できる高性能ぶりだが、588万円は割高感あり

そしてプラグインハイブリッドだから、駆動用リチウムイオン電池を搭載する。総電力量は17kWhで、トヨタ プリウスPHVの8.8kWh、三菱 アウトランダーPHEVの12kWhに比べて容量が大きい。1回の充電のEV走行距離は、WLTCモードでは101kmに達する(JC08モードでは114.6km)。

それでもアウトランダーPHEVは、後輪をモーターで駆動する4WDを成立させ、本革シートなどを備えたGプレミアムパッケージが468万1260円だ。588万600円のクラリティPHEVには割高感が伴う。駆動用リチウムイオン電池の容量が17kWhに増えることを考えても、4WDのアウトランダーPHEVと同程度の価格が妥当だろう。

販売台数の少なさが価格を押し上げた原因

クラリティPHEVの報道試乗会では、まずはこの価格について開発者に尋ねた。返答は「先進的な制御を行っていて、なおかつクラリティの生産台数が少ないこともあって価格が高くなった」とのことだ。

クラリティの燃料電池車と北米で販売されている電気自動車は、前述のようにリースでもあるから販売規模が小さい。販売比率ではPHEVが最も多いが、それでも北米で1年間に2万台、日本では1000台にとどまる。これも価格を押し上げている理由だ。

2018年8月3日に掲載したトヨタ新型センチュリー試乗でも述べたが、商品の価格は機能だけでは決められず、販売規模に左右される。クラリティPHEVも、少量生産だから割高になった。

急速充電の料金プランが定額制になるのは2020年から!?

クラリティPHEVでもうひとつ注意したいのが、急速充電器の料金プランだ。日産 リーフの場合、月額2016円で日産の販売店やNCSに加盟する急速充電器を無制限で使えるが、クラリティPHEVでは急速充電をすると1分当たり16円、200Vの普通充電が1分当たり1.5円徴収される。

仮に急速充電器を使ってリチウムイオン電池の最大レベルとなる80%まで充電する場合、所要時間は30分だ。料金は16円×30分だから480円になる。そして満充電で走れる距離がWLTCモードで101kmだから、80%であれば約80km。1km当たりの走行コストは、480円÷80kmだから6円だ。

一方、ハイブリッド走行時のWLTCモード燃費は24.2km/Lだから、レギュラーガソリン価格が1リッター当たり145円として(今は150円を超えるが)、145円÷24.2kmになり同じく約6円となる。

これでは急速充電器を使っても走行コストの節約にならない。今後ガソリンの価格が130~140円に下がれば、急速充電器の使用が割高になる。損得勘定でいえば、急速充電器の使用は避けて、自宅で充電するか給油して走るのが得策だ。

しかし2020年には、ホンダも日産と同様の定額制充電サービスを実施するという。不確定な話だが、17kWhの総電力量を生かして急速充電器を積極的に使いたいなら、定額制になってからクラリティPHEVを買う手もあるだろう。

EVならではの静かで滑らかな加速感で乗り心地も上々

試乗はリチウムイオン電池が十分に充電された状態で行われたので、モーターのみの駆動で発進した。これは電気自動車と同じだ。モーターは反応が素早いから、追い越しのためにアクセルペダルを踏み増した時の印象は、ガソリンエンジン搭載車に換算すると3.5リッター並み。そのままアクセルペダルを踏み続けると、モーターの特性で速度上昇が次第に鈍るが、それを体感する機会はほとんどないだろう。

さらにアクセルペダルを深く踏んでフル加速をすると、エンジンが始動して積極的に発電を行うが、ノイズの増加はほとんど気にならない。加速感は常に静かで滑らかだ。

走行安定性は、車両重量が1850kgと重いこともあり、スポーティな印象ではない。それでもカーブを曲がったり車線変更をする時の姿勢は安定して、その時の揺り返しも小さく、運転感覚には安心感が伴う。

タイヤサイズは18インチ(235/45R18)で、銘柄はブリヂストン エコピアEP150であった。指定空気圧は250kPaと少し高いが、乗り心地の硬さは感じない。マンホールの蓋や段差を乗り越えた時も、ショックを上手に吸収し、走りと乗り心地は良い。

古典を想わせる大柄なセダンボディ

欠点は取りまわし性だ。全長が4915mm、全幅が1875mmのボディは、日本車の中では大柄な部類に属する。しかもボンネットが見えないから、車幅やボディの先端位置が分かりにくい。

一方、真後ろの視界は工夫されている。独立したトランクスペースを備えたセダンだが、後席の背もたれの上側と、トランクフードに横長の細いウインドウを装着。これで真後ろの視界がある程度は確保される。

こんなことをするなら、最初から視界の優れたボディをデザインすれば良いだろうと思うが、この個性的な外観もPHEVを含めたクラリティの価値なのだろう。

全長が4915mmに達する割に、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が2750mmにとどまる外観は、前後のオーバーハング(ホイールからボディが張り出した部分)が長く、クラシックに見える。個人的には1940年代に発売されたフォードリンカーン コスモポリタンとか、チェコのタトラT603などを連想してしまう。

内装は悪くないが、中央のモニター画面はタブレット型端末をただ貼り付けただけなように見える。価格が600万円近いクルマなのだから、もう少し上質感が欲しい。

居住性はおおむね良いが、天井を後ろに向けて下降させたから、後席は腰が少し落ち込む。足元は広く、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半だ。それでもボディサイズを考えると、空間効率は高くない。

「なぜクラリティにPHEVなのか」というストーリーが欲しい

それにしてもホンダの意図が分かりにくいのは、2016年にクラリティを燃料電池車として発売しながら、後になって電気自動車を北米で販売し、さらにプラグインハイブリッド車を加えたことだ。水素で走るクラリティは、トヨタ MIRAIと双璧になる燃料電池車として登場したから、プラグインハイブリッドでは環境技術が退化したように受け取られてしまう。

仮に、トヨタ プリウスが普通のエンジンを積んだ廉価版を発売したら、情けないというか、ガッカリした感じになるだろう。クラリティPHEVの発売は、これに似ている。「なぜクラリティにPHEVなのか」というストーリーが欲しいところだ。

最近のホンダは、一度国内導入を取りやめたシビックやCR-Vを次々と復活させているが、これらも唐突でストーリーがなく戸惑いを感じる。日本の市場に本気で取り組むのは、結局のところ軽のN-BOXとN-VANだけという感じだ。2017年1~7月の国内販売状況を見ても、軽自動車がホンダ車全体の約50%を占める。今後もこの状況は変わりそうにない。

[TEXT:渡辺陽一郎/和田清志]

ホンダ 新型クラリティPHEVの主要スペック

ホンダ 新型クラリティPHEV(EX)の主要スペック

全長

4915mm

全幅(車幅)

1875mm

全高(車高)

1480mm

ホイールベース

2750mm

乗車定員

5人

車両重量(車重)

1850kg

駆動方式

FF(前輪駆動)

エンジン

1.5リッター 水冷直列4気筒横置

排気量

1496cc

エンジン最高出力

77kW(105PS)/5500rpm

エンジン最大トルク

134N・m(13.7kgf・m)/5000rpm

モーター最高出力

135kW(184PS)/5000~6000rpm

モーター最大トルク

315N・m(32.1kgf・m)/0~2000rpm

トランスミッション

電気式無段変速機(CVT)

JC08モード燃費

28.0km/L

WTLCモード燃費(平均)

24.2km/L

WTLCモード燃費(市街地)

23.0km/L

WTLCモード燃費(郊外)

24.3km/L

WTLCモード燃費(高速)

25.1km/L

EV走行距離(JC08モード)

114.6km

EV走行距離(WTLCモード)

101.0km

燃料

無鉛レギュラーガソリン

価格(消費税込)

588万600円

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筆者渡辺陽一郎
樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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