日本&海外戦略ハッチバック 徹底比較(2/4)
- 筆者: 岡本 幸一郎
- カメラマン:島村栄二
かつての日本車になかった走りの感覚
好調なセールスをマークしつつも、日本では「いまひとつ不評」とトヨタ自身が判断しているらしいヴィッツだが、欧州でのヴィッツ=ヤリスの評価は非常に高い。
カローラランクス/アレックスの後継車として開発されたオーリスは、やはりそのヤリスの上級モデルに位置づけられる。オーリスは欧州市場をメインとして捉え、それに見合わせるべく、従来とは異なる手法で、カローラとはまったく別のクルマとして開発された。
ルックスは正直、大きなヴィッツである。造形上で同様のモチーフが随所に見て取れるが、ボディサイズが異様に大きく見えて、違和感を覚えてしまうほどだ。日本で売るには、なにもここまでヴィッツに似せることもなかったのではと思うところだが、ヴィッツ同様に複雑な面を組み合わせたボディパネルはクオリティへのこだわりを感じさせる。ボディサイドの張り出しに対してキャビンが絞り込まれ、フェンダーフレアの美しさなどもクオリティ感の演出につながっている。
オーリスの開発において、もっともこだわったというのが走行性能だ。カローラとは別のモデルとなったことで、イチから専用に開発したプラットフォームが与えられている。ただし、パワートレイン系はカローラのものを流用する。CVTは、制御が見直され、従来の多くのトヨタ車のCVTに見られた違和感が薄れた。動力性能は1.8Lでは十分。また、高効率CVTの恩恵か、1.5Lでもその差は意外と小さかった。
ところで、1.8Lはせっかく7速のマニュアルシフトが可能でありながら、レッドゾーンが6400rpmからであるにもかかわらず、6000回転弱で必ずシフトアップするのだ。これでは、せっかくの機構が生きてこない気がしてしまう。ハンドリングでは、まずステアリングフィールのよさに気づく。電動パワステのチューニングが上手いのはもちろん、ボディ剛性やサスペンションなど、クルマの素性から見直したように感じられる。
センターに据わり感があるとともに、適度にダルに設定されていて、直進安定性が非常に高い。さらに、ステアリングを切り込んでいくとタイヤがしっかり路面に追従している感覚が伝わってくる。これまでの日本車にはちょっとなかった感覚だ。一般道を普通に走るとしっかり感があり、少し攻めて走ると積極的に走りを楽しめる味付け。ボディ剛性も高く、走りに一体感をもたらしている。しかし、旋回ブレーキではフロントヘビーな素性が顔を出し、リアの接地性が薄れて落ちつかなくなる。これは欧州車に及んでいない点といえるだろう。高速道路では、直進安定性が高く、フラットで引き締まった巡航を可能としている。静粛性も非常に高く、パワートレイン系のノイズはよく抑えられている。むしろ、わずかながらロードノイズや風切り音が感じられるほどだ。
オーリスの走りは、概ねコンセプトどおり欧州テイストの走りを感じられるものだった。ところで、CMで謳っている「直感性能」というよりは、むしろじっくり乗ってみてよさが理解できる。
いち早く欧州テイストを追求した日本車
4ドアセダンのアクセラに対し、5ドアハッチバック車がアクセラスポーツである。
ファミリアの後継モデルに当たるのだが、そのイメージよりも、欧州をメインに開発されたモデルが日本でも売られているという印象が強い。 エクステリアデザインはご覧のとおり、いい意味で「エグい」と感じさせる。前後の尖った形状のランプが印象的で、ウエストラインの下に強いエッジを強調した、いかり肩っぽいフォルムが強調されている。なかなかインパクトのあるスタイルであり、海外で大いに人気を博しているのもうなずける。
走りについても、日本車でいち早く本格的に欧州テイストを追求したモデルといえるだろう。筆者がデビュー直後に試乗した際は、その優れた回頭性とアジリティ(俊敏性)に感心させられ、「ハンドリングマシン」と認識していたのだが、今は少し違う印象を持っている。
ステアリングは中立付近では穏やかに安定した直進性を示すが、少し切り込んだ領域に接地性の不感帯がある。さらに切り込んでいくと、ステアリングゲインとの帳尻が合ってきて、回頭性がよく感じられるのだが、過渡領域のフィーリングがあまりよろしくない。また、旋回ブレーキではリアが唐突に流れそうになることもあるし、立ち上がりではアンダーステアの傾向が強い。限界域ではフロントヘビーの素性が強いのだ。
とはいえ、一般道を普通に走るぶんには、ステアリングゲインの高さが優れた回頭性となって感じられ、スポーティな感覚に終始する。また、高速道路を巡航するときもフラットライド感を与えつつ快適なツーリングを提供してくれる。
動力性能は2Lモデルでも十分。さらに上の2.3Lモデルとなると、余裕すら感じられる。新たに採用された5速ATは、ギアのステップ比について、エンジン特性とのマッチングをもう少し煮詰めたほうがいいように思えた。こちらも2.3Lモデルのほうが好印象だ。
あくまで普通に走るときのドライバビリティを重視
今回の3台の中では唯一の5ナンバー車であり、並べると非常にコンパクトに感じられる。しかし、見た目の質感の高さでは引けを取っていない。シンプルな面構成は、丸みを帯びた中で、各部のラインをくっきりと際立たせている。さらに、ランプ類の上質感も高く、価格のわりに高級感のあるエクステリアとなっている。
ティーダにもセダンモデルが存在し、そちらには「ラティオ」というサブネームが付く。ルノーとのアライアンスの影響を感じさせるエクステリアだが、最近デザインの評価の高い日産が独自に手がけたものだという。
走りは、「欧州テイスト」とか「スポーティ」というよりも、あくまで普通に走るときのドライバビリティを重視してチューニングされているようだ。フラットトルクなHR15DEエンジンに、高効率のCVTを組み合わせ、過不足ない動力性能を確保。このCVTは、従来のCVTに見受けられたベルトのハンチング(たわみ)を感じさせず、発進から急加速まで、あまり違和感を与えない設定となっている点にも好感を抱く。アクセルを踏み込むと、即座に3000回転以上のエンジン効率のよい領域に持ち込み、加速と燃費を両立する制御を行なっている。電動パワステのフィーリングにも安っぽい印象はないし、静粛性も同価格帯のモデルとしては非常に優れていると思う。
乗り心地は、デビュー直後のおろしたての試乗車ではやや初期の硬さが感じられたが、今回の試乗車のように少し距離を走ったクルマでは、当たりがソフトで乗り心地が非常によく感じられた。ただし、あまり現実的でない部分の話ではあるが、もう少し洗練して欲しく思うところもある。一般道を普通に走るぶんにはまったく問題ないのだが、少しハイペースでRの小さいコーナリングにおいて、ロールが強制的に抑えられ、何をやってもアンダーステアになってしまう点。さらに、旋回中のステアリングフィールにおいて、舵角とヨーモーメントの関係が定まらず、わかりにくい部分がある。
また、ブレーキペダルを踏むと初期から制動力が急激に立ち上がり、ペダルで制動力をコントロールできる領域が小さくなっている。これは「よくきくブレーキ」という印象を与えるが、スムーズな運転を妨げる要因であり、実用上は好ましくないと思っている。こういうクルマに求められるよさを十分に備えているだけに、惜しまれる部分である。
デザイン・スペックの総評
「欧州車らしさ」という切り口では最新のオーリスが一歩リード。とくにステアリングフィールの味付けと高速巡航時の走りが素晴らしい。アクセラスポーツはすでに少々古さが感じられた。ティーダはあくまで普通に走ることに主眼を置いて開発されているようで、その意味ではよくまとまっている。3台ともアンダーステアが強く、その点、ニュートラルステアを示し、常に接地性の高い欧州車にはまだ及んでいない。スタイリングについて、3台ともアプローチはまったく異なるが、見た目のクオリティ感は演出できていると思う。
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