アストンマーティン ラピードS 海外試乗レポート/西川淳(2/2)
- 筆者: 西川 淳
超現場的“知恵と工夫”が生かされているエンジンのマウント方法
オールアルミ製で比較的軽い部類に入るエンジンとはいうものの、車体前半部では“重量物”に違いないV12エンジンの搭載位置を下げることは、そのまま、重心位置を下げることになる。重心位置が下がれば、運動性能が上がる。しかも、この方法ならば余計なシステムを積まずにすむから、車重も増えない。
とてもシンプルな解決策だが、だからこそ、スポーツカーにとっては大歓迎で、このあたり、巨大資本のメーカーでないにも関わらず、モータースポーツに力を入れてきたエンジニアリング軍団の、超現場的“知恵と工夫”が生かされた、と言っていい。
従来に比べて19ミリも低い位置に搭載されたエンジンこそが、新型ラピードSのハイライト、主人公である。
従来型と同排気量、すなわち5935ccのV12自然吸気エンジンとされたが、レーシングテクノロジーを果敢に応用し、内容・仕様を刷新。新開発のAM11型として、最高出力で+81PSの558PSとパワースペックは大幅にアップし、同時に、燃費性能も2割近く改善している。
組み合わされるミッションは、“タッチトロニック2”とよばれる6速ATで、パワーアップに伴い最適にチューニングされている。重量バランスに優れたトランスアクスル方式をもちろん継承。トルクコンバーター付きであるにも関わらず、変速フィールはダイナミックのひと言である。
見どころはパワートレインだけに留まらない。
アストンマーティンのボディ骨格といえばVHアーキテクチャが有名だが、それが第4世代へと進化した。アルミニウムにマグネシウム合金、そしてコンポジットを加えたハイブリッドボディとなった。そこに新開発のAM11エンジンを低く積みこみ、新たに“トラック”モードを加えた三段階(他は“ノーマル”と“スポーツ”)の電子制御アダプティブダンピングシステムADSと、最適化された“タッチトロニック2”およびスタビリティコントロールDSCを得て、“4ドア・アストンマーティン”のスポーツカー本気度は、新型ヴァンキッシュ並みに、いっそう高まったと言ってよさそうだ。
眺めているだけでも幸せな気分に浸れる室内
インターナショナル試乗会は、スペイン・カタローニャ地方のとある小村を起点に開催された。ちょっとアシを伸ばせば、ピレネー山脈の裾野に届く。カントリーロードとワインディングに恵まれた、絶好の試乗コースが用意されていた。
他の2ドアアストンと同様に、ラピードSのドアも、やや前方に向かって跳ね上がる。スワンスィングと呼ばれる開き方である。
頭をドアに打ち付けないよう気をつけて、コクピットへと滑り込んだ。景色と匂いは、正にブリティッシュラグジュアリィの世界。
従来モデルとデザインは同じだ。けれども、選び抜かれたマテリアルの数々にベニアウッドのトリム、贅沢なレザーハイドと、随所に光るアルミニウムなどなど、高級マテリアルをふんだんにあしらった室内は、眺めているだけでも幸せな気分に浸れる。
4ドアであるだけの、リアルスポーツカー
クリスタルのキーをダッシュセンターの中央に押し込んだ。一瞬のクランキングを待って、V12エンジンが盛大なうなり声をあげ、目を覚ました。アイドリングのサウンドは骨太で逞しく、乗り手の気分を盛り上げる。
ADSのモードをいきなり“トラック”にして、カントリーロードを走り出した。その途端、「前のラピードとは、ぜんぜん違うぞ!」と心のなかで叫ぶ自分がいた。
ノーズの動きが、断然にシャープである。手応えといい、動かした後に乗り手のカラダに残る余韻といい、非常に素直で、一体感がある。エンジンとフロントアクスルが低い位置で一体となって動き、しかも軽快だから、自信を持ってステアリング操作が可能だ。
そのうえ、パワートレインの反応も自然でクイック、力強いから、すべてに余裕をもって対処することができた。これはもう、新型ヴァンキッシュに近いフィールである。
これらは、新型AM11エンジンのパワーレスポンスによるところも大きい。以前にも増して高回転域まで力強く回るようになり、しかも低回転域ではフレクシブルだ。
山や谷にこだまする、素晴らしいエグゾーストサウンドに心をうばわれつつ、頼もしいブレーキングと正確なコーナリング、そして豪快なアクセルオンを楽しむ瞬間。これこそが、スポーツカーの醍醐味だ。ラピードSは、いわゆるスポーツセダンなどではない。4ドアであるだけの、リアルスポーツカーだった。
スポーツサルーンなどではない。ラピードSは、2ドアモデルに決して負けない、リアルスポーツカーだった。
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