フォルクスワーゲン 新型パサート TDI 国内初試乗|ようやく日本へやって来たVWのクリーンディーゼル、その実力を徹底評価

排ガス不正問題を経て・・・VWが満を持して日本へ投入するクリーンディーゼル

いよいよ“あの”フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン搭載モデルが日本市場に導入される。2015年に発覚したディーゼルエンジンの排ガス不正問題以降、長い沈黙を経てようやく息を吹き返したそれは、一体どんな仕上がりになっているのだろうか。私自身も非常に楽しみにしていた。

現在、日本国内においてのディーゼル乗用車市場は拡大傾向にある。特に輸入車においてのそれは右肩上がりで、JAIA(日本自動車輸入組合)調べによれば実に年間販売台数の2割を超えるという。

思えばあの2015年あたりは、輸入勢が日本の厳しい排出ガス規制を、技術という武器を以てくぐり抜け、ディーゼル鎖国状態にあった日本の扉をこじ開け始めた、まさにそんな時期であった。

もしあのときに不正がなされていなかったら(暴かれていなかったら、ではない。不正は決して許されるものではないから)、フォルクスワーゲンは間違いなく最も早期にディーゼルエンジンを日本市場に導入したメーカーのひとつとして新世代クリーンディーゼルのパイオニア的存在になり得ただろうし、現在の勢力図も変わっていた可能性は高い。

何故ならば、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンはずっと前から「とっても良かった」からだ。

走って楽しい、しかも燃費に優れているうえ車両価格もエコノミー。

かつてなんども欧州でドライブしているが、アクセルを踏む、ということをダイレクトに楽しめる、非常に魅力的なコだったのだもの。

まだ日本で買えるディーゼルエンジンにさほど選択肢がなかったあのとき、あのタイミングでディーゼルエンジンを導入出来ていれば“一人勝ち”状態になれたかもしれない。それを思えばあのとき、「なんでこんな時期に・・・もったいない」と思ったことも確かだけど(きっと販売店側も同じ思いだっただろう)、あの痛みを乗り越え、新型エンジンに生まれ変わったからこそ、コンシューマーにとって安心&安全、完璧な商品力を持つディーゼルがいま、生まれたとも言える。

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パサートTDIには極めてクリーンな新開発ディーゼルユニットが搭載される

そう、今回の新型2リッター直4ターボディーゼルエンジンはフォルクスワーゲン起死回生の一撃。2015年に問題を引き起こしたあのエンジンではなく、まったくの新開発ユニットだ。あらゆる環境対応技術をバカスカ投入し、フェアな数値でユーロ6はもちろん、日本のポスト新長期排ガス規制をクリアしてきた。それどころか、ドイツ自動車連盟ADAC(日本でいうところのJAFみたいな感じ)によるRDE測定(実路走行試験)では、メーカー別NOx平均排出量が競合他社12社中、下から2番目という素晴らしい結果を導き出したのだ。

具体的には

・電子制御式コモンレール式燃料噴射システム→NOx、PM減

・DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)→PM減

・SCR(選択触媒還元システム)→NOx減

・EGR(排気再循環システム)→NOx減

となり、それぞれに血の滲むような創意工夫がなされている。たとえばEGRは高圧と低圧の2系統を持つデュアルサーキットEGRで、低圧ではスタートやアウトバーンなどの高速走行、また日本の登坂道などの高負荷時に作動し、高圧では低負荷時に対応し、CO2排出を最適化する。

また、SCR排ガス処理システムに関しては、SCRコーティングしたDPFを採用。ミクスチャー制御を開発するなど細部にまで余念がない。

とかいう難しい話は置いといて、じゃあ一体そのエンジン実際どうなのよ、というところが肝心カナメだと思う。

一言で言うなら、非常にディーゼルらしいディーゼルだった。・・・走り以外は。おっと、いきなり辛口でゴメンナサイ。理由は以下。

VWの新開発クリーンディーゼル、音・振動は思いのほか“ワイルド系”

まず音だ。

ガラガラといういわゆるディーゼルサウンドは運転席に座ってもしっかりと耳に入るし、その振動はステアリングホイールにもきっちりともたらされる。

つまり、制振性と静粛性に関してはさほど優れていない。特にエンジンが冷えたパーキング状態からアイドリングをはじめたばかりのあたりでは音、振動ともになかなかのレベルだ。

特にパサートはTSI(ガソリンエンジン)の静粛・制振性がかなり高いだけに、パワートレーンで比較をすると「ワイルドだなぁ・・・」という感想は否めない。しかし、車体のどこにもTDI=ディーゼルエンジン搭載モデルであることを示すサインがないだけに、この音こそが「私今ディーゼルに乗ってます!」的なアピールが出来るポイントだと言えなくもない。・・・苦しいか。

いや、ココこそなんとかして欲しかったんだけど、どこかにTDIの文字(エンブレム)を入れても良かったんじゃないかなぁ。人の噂も七十五日というし、今敢えてTSIよりも35万円高いTDIを買う人は、やっぱりディーゼルエンジン搭載車、ってことにこだわりを持っている人が多いんじゃないかと思うわけです。

[※編集部注:試乗車のサイドに貼られた“TDI”デカールは撮影用の特別装飾]

閑話休題。

そんなわけで音はまあ、そこそこ派手なのだけど、それはディーゼルエンジンを選択する楽しみのひとつとも言えなくはなくて、目をつむれると思う。

気になるのは振動のほうだった。ちょっとした小型トラック並みに振動するから(特に先述の通りハンドルの揺れは気になる)、パサートの大人っぽいシックで上質な内装と相反していて、やや違和感を生んでいる。

エンジンが温まり、市街地走行〜高速走行に入った辺りからはさほど気にならなくなって来るから、のべつまくなし揺れているわけではないのだけれど。

ノーマルモードのままでは少しおとなしめにも感じるTDIの動力性能

で、問題の走りである。

これが、よく言えばジェントル、悪く言えばちょっと物足りない感じ。現在、日本でも多くのディーゼルエンジン搭載輸入車を選択出来るようになって来たが、それら競合他社の解りやすいトルクの味付け、つまり薄くアクセルを踏んだだけでドカン!と来るパワフルな走り出しとはちょっと性格を分けているのだ。

BMW、メルセデス・ベンツ、そしてボルボあたりのディーゼルはとにかく元気がいい。ぶわっと膨らむトルクは“まるで背中を蹴られるような”、という表現をしても決して間違いではないくらい。

しかし、パサートのTDIはその辺がややエコっぽい感じなのだ。

これは決してクルマとしての出来が悪い、ということではなくて、他社のディーゼルエンジンに対する味付けとの解釈の差というか、我々が先発組のディーゼルエンジンに“ディーゼルってドカンとトルクが生まれるもの”みたいなイメージを植え付けられていることにも原因はあるように思う。

しかし、事実として「ディーゼルなんだからもっとガッツリトルク出して欲しい!」と思う気持ちに嘘はないので、正直に書いておく。

もちろん、走行モード(ドライビングプロファイル機能)は用意されていて、エコ/ノーマル/スポーツ/カスタムと4種類を選択出来るから、もっとワシワシ走りたい人はハナっからスポーツモードにしておけばいいのだけども。

パサートTDIは日常的に長距離移動するアクティブなユーザーにこそオススメ

しかし、さすがドイツ車だなと思わせるのがワインディングロードでのコーナリングの鋭さと、高速道路での安定感のバランスだ。

登坂ワインディングはもちろん、下り坂でも硬めに締められたサスペンションも手伝って、ロール値の少ない、スポーツ感溢れる走行を楽しむことが出来る。揺り返しがないから、左右に連続したコーナーを攻めるときの身のこなしがひらり、ひらりと機敏にキマる。カッチリした剛性感はフォルクスワーゲンらしいフィーリングだ。

それから、速度域が上がるごとにピタっと挙動が安定していく様も心地よい。超低速時のワイルドさが嘘のように、高級感ただよう室内空間をもたらしてくれるから面白いのだ。

このパサートTDIに関しては、街中をチョロチョロ走るシーンが多い人ではなく、日常的に長距離をよく走る人にこそ選んで欲しいと思った。

[レポート:今井 優杏/Photo:和田 清志]

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PassatPassat Variant

グレード

TDI Eleganceline

TDI Highline

TDI Eleganceline

TDI Highline

全長×全幅×全高(mm)

4,785×1,830×1,465

4,785×1,830×1,470

4,775×1,830×1,485

4,775×1,830×1,510

ホイールベース

2,790mm

車両重量

1,560kg

1,560kg(*1,580kg)

1,610kg

1,610kg(*1,630kg)

乗車定員

5名

最小回転半径

5.4m

燃料消費率

20.6km/L(JC08モード)

エンジン種類

直列4気筒DOHC直噴ディーゼル インタークーラー付きターボ「TSI」

総排気量

1,968cc

圧縮比

15.5

最高出力

140kW(190PS) 3,500~4,000rpm

最大トルク

400Nm(40.8kgm) 1,900~3,300rpm

燃料タンク容量

59L

使用燃料

軽油

トランスミッション

6速DSG (デュアルクラッチ・トランスミッション)

タイヤサイズ

215/55R17

235/45R18

215/55R17

235/45R18

価格(消費税込)

4,229,000円

4,899,000円

4,429,000円

5,099,000円

*電動パノラマスライディングルーフを装着した場合の車両重量

フォルクスワーゲン/パサート
フォルクスワーゲン パサートカタログを見る
新車価格:
445万円553.5万円
中古価格:
43.8万円416.1万円

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今井 優杏
筆者今井 優杏

自動車ジャーナリストとして、新車や乗用車に関する記事を自動車専門誌、WEBメディア、一般ファッション誌などに寄稿しながら、サーキットやイベント会場ではモータースポーツMCとしてマイクを握り、自動車/ モータースポーツの楽しさ・素晴らしさを伝える活動を精力的に行う。近年、大型自動二輪免許を取得後、自動二輪雑誌に寄稿するなど活動の場を自動二輪にも拡げている。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。記事一覧を見る

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