1960万円は果たして“妥当”? トヨタの最高級車「センチュリー」の製造工場に潜入

  • 筆者: 小鮒 康一
  • カメラマン:オートックワン編集部・茂呂 幸正

高額な理由が分かった!? センチュリーの製造工場ラインに潜入してみた

トヨタが誇るショーファーカー(専属運転手付きの車両の意)である「センチュリー」。過去には日産から「プレジデント」、三菱からは「デボネア」などといった車種もリリースされていたが、今ではセンチュリーが唯一生産を続けるモデルとなってしまっている。

そんなセンチュリーは2018年6月に3世代目へとフルモデルチェンジを果たした。それまでの国産車唯一のV型12気筒5リッターエンジンを止め、先代レクサスLSに搭載されていたV型8気筒5リッターエンジン+モーターのハイブリッドシステムとなったことで、コストダウンが図られたと考える向きもあるようだが、果たしてそれは正しいのだろうか?

今回、我々は静岡県裾野市にある、トヨタ自動車東日本 東富士工場に存在するセンチュリー専用の製造ラインを見学するチャンスに恵まれた。

1960万円(税込)というトヨタで最も高いプライスタグを掲げるセンチュリーは、その価格に見合った価値があるのかを見届けてきたので、ご紹介しよう。

◆[写真]専用ラインを流れる工場内のセンチュリー

ボディの仕上げは職人の手によってなされる

いくら最高級車のセンチュリーといえども、鉄板をボディに加工する際には当然のようにプレス機を使用する。しかし、新型センチュリーのキャラクターラインである「几帳面」に関しては、プレス加工だけでは出すことができないため、最後の仕上げはクラフトマンの手作業によって1台1台微調整が行われているのだ。

といっても、正直言って我々素人が鉄板の状態を目視したところで、その微妙な違いを見て取ることはできないレベル。説明を受けてようやく分かるかな? といった状態だったが、それをクラフトマンは手作業で仕上げていく。正確な基準の数値があるわけではなく、熟練の経験によってわずかな鉄板のひずみを調整してくのである。

そして仕上げにサンダーで表面を整えて完了。この微妙な仕上げが、最終的に塗装を施してラインオフするときの仕上がりに大きな差となって現れるそうで、これによって新型センチュリーのアイコンともいえる「几帳面」がより際立つというわけだ。

その後、ボデー工程に送られたセンチュリーのボディシェルは、ボデー課のクラフトマンによってボディパネルの微調整が行われる。ここで特にチェックされるのが、さきほどクラフトマンが微調整を施した「几帳面」が、フロントからリアまで、一直線に揃うかどうかだ。

フロントフェンダーからフロントドア、リアドアを通りリアフェンダーまで通るこのラインにズレが発生しないようにドアパネルの調整をするのだが、この段階ではあえてズレた状態で装着している。これはのちに内装パネルなどが装着され、その重みでドアが沈み込むことを逆算してのこと。試しにドア内装を模した重り(15kg)をドア内側に吊るとラインがビシっと揃ったのには感動を覚えるほどだった。

メインカラーのエターナルブラック<神威>は水研3回を含む7層の超高品質塗装

センチュリーと言えば「黒塗りの高級車」であるが、そのイメージカラーであるエターナルブラック<神威>は、名前こそ先代センチュリーと同じものだが、カラーコードが異なることからも分かるように、より黒さに磨きをかけた「漆黒」となっている。

日本伝統の塗りの技法である漆塗りを参考に、実際に漆塗り工房にも足を運んだというそのボディカラーは、7層もの塗装工程を経ており、さらに途中で3回の水研を挟んでより平滑さを追求したもの。塗装にかかる時間はおよそ90分の水研作業も含め、1台当たり40時間ほどかかっているというから驚きだ。

そしてそのボディカラーを仕上げるのは、こちらもクラフトマンによる磨きの工程だ。一般的なコンパクトカーでは「肌ランク3.0」程度のところ、センチュリーでは「肌ランク4.5~5」というまさに鏡面仕上げとなるまで磨き込んでいる。

※肌ランクとは:トヨタが定める塗装品質の基準

特に後部座席の後方のCピラーは、後席から降りたVIPが身だしなみを整えることができるほど磨き込まれているのである。ここまでの鏡面仕上げにするには、塗装後の磨きももちろんだが、ベースとなる鉄板の状況も大きく影響するそうだ。

なお、エターナルブラック<神威>以外のボディカラーについても、同様に水研や鏡面仕上げが施されている。そのため、色味こそ他車種と同じだが、その仕上がりは数ランク上となっている。

ちなみにこのセンチュリー工房には、初代モデルからすべての車両に対して「ヒストリーブック」という組み上げ工程のチェックデータがすべて記載されたものが保管されている。

これはユーザーに渡されるものではなく、あくまで社内での品質を保証するための冊子とのことだが、初日の出暴走や成人式でルーフをカットされてしまったセンチュリーのデータも残っているのかと思うと、何とも言えない気持ちになってしまった。

組み立て工程では内装パネルの隙間の均等化や水平化にも拘る

続いて見学したのは、ラインオフ間際の組み立て工程。新型センチュリーには、リアシートに座るVIPが快適に移動時間を過ごせるようにと、11.6インチモニターを備えたタワーコンソールがセンター部に装着される。

このタワーコンソールは、左右のシートとの隙間を40ミリに、タワーコンソール上部とインパネの水平が一致するように微調整がなされた上で装着されるという。

そして、最後に検査工程で塗面の状況を確認し、ようやくラインオフとなるわけだ。この塗面の確認では、通常の蛍光灯を使ったチェックに加え、太陽光を再現した人工太陽灯も併用しての入念なチェックがなされる。

この蛍光灯の光が写り込んだ写真を見れば、そのボディの鏡面仕上げぶりがお分かりいただけるだろう。

結論:センチュリーは「安い」

と、このように数多くのクラフトマンの手によって最高の仕上がりとなってラインオフするセンチュリー。今回見学はできなかったが、1カ月半かけて1つ1つ作られるフロントグリルの鳳凰エンブレムや、七宝文様を各所にあしらい、和の光をイメージしたテールランプなど、ひとつひとつが工芸品といっても過言ではないクオリティを誇っている。

冒頭で話した先代レクサスLSのハイブリッドシステムを搭載した点も、何があってもトラブルで立ち往生することが許されない車種だけに、より信頼性の高い(そして環境にも配慮した)ものをチョイスした結果と言える。

ショーファーカーとしてみれば、海外にも同様の車種は存在するが、日本の和の心を持ったショーファーカーはセンチュリーだけ。こういった細かな造り込みを実際に目の当たりにすると、1960万円という車両価格も決して高くはないと思える仕上がりだったのである(買えないけど)。

[筆者:小鮒 康一 / 撮影:オートックワン編集部・茂呂 幸正]

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小鮒 康一
筆者小鮒 康一

1979年5月22日生まれ、群馬県出身。某大手自動車関連企業を退社後に急転直下でフリーランスライターへ。国産旧車に造詣が深いが、実は現行車に関してもアンテナを張り続けている。また、過去に中古車販売店に勤務していた経験を活かし、中古車系の媒体でも活動中。最近では「モテない自動車マニア」の称号も獲得。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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