スズキ 新型ジムニー 試乗│世界最高峰の悪路走破性を誇る"四駆"

20年ぶりのフルモデルチェンジを受けた新型ジムニーにいよいよ試乗!

昨今の新型車は、フルモデルチェンジを行う周期が伸びた。昔は4年に一度だったが、今は6~7年に一度となる。そんな中、軽自動車のオフロードSUVとされる先代ジムニー、小型車版のジムニーシエラ(発売時点の車名はジムニーワイド)は、異例に長く売られて20年に達した。先代型の発売は1998年で(ワイドが1月でジムニーは10月)、この年の10月には軽自動車の規格改訂が行われ、全長と全幅の枠が今の軽自動車と同じになった(排気量を660ccに拡大したのは1990年)。

そのために1998年には、先代ジムニーを含めて16車種の新型軽自動車が、ほぼ一斉に発売されている。ちなみにこの年には、トヨタのアルテッツァとプログレ、日産 初代キューブ、マツダ 2代目ロードスター、スバル 3代目レガシィなども発売された。

そして2018年7月5日、ジムニーとジムニーシエラが20年ぶりにフルモデルチェンジを受けた。今回はその試乗記をお伝えしたい。

「走破力が下がる心配があるなら、余計なフルモデルチェンジはしないでくれ」というのがユーザーの本音だが・・

新型ジムニーの開発者は「林業の現場や積雪地帯では、ジムニーがないと生活や仕事ができない。そしてジムニーで出かけたら、何があっても必ず戻って来られなければならない」という。大自然の中で立ち往生すれば、生命が脅かされる環境でジムニーは使われている。

そうなるとフルモデルチェンジを行って、舗装路の走行性能、乗り心地、質感や装備が大幅に向上しても、悪路走破力がわずかでも悪化すれば、すべてが台無しになる。「走破力が下がる心配があるなら、余計なフルモデルチェンジはしないでくれ」というのがユーザーの本音だ。だから先代ジムニーは、細かな改良を施しながら20年も生産を続け、先ごろ満を持して新型にフルモデルチェンジした。

走破力を重視したから、基本的なメカニズムのタイプは先代型を踏襲している。エンジン、サスペンション、ボディなどは、耐久性の高いラダーフレームに装着した。サスペンションは、前後にコイルスプリングを使った3リンクのリジッド(車軸式)だ。

4WDは悪路で駆動力を高められる副変速機を備えたパートタイム式になる。フルタイム式と違って、カーブを曲がる時に前後輪の回転数を調節するセンターデフなどを備えないため、舗装路は後輪駆動の2WDで走る。4WDは路面が滑りやすい悪路や雪道でのみ使用する。

以上のような基本部分は先代型と同じだが、新型ジムニー/ジムニーシエラでは、ラダーフレーム本体から新設計された。クロスメンバー(左右方向に配置されたフレームの基本骨格)、X字型のXメンバーも追加装着され、ボディの捩り剛性を1.5倍に高めている。

抜群の小回り性能と取り回し性能

新型ジムニーの運転席に座ると、今日のクルマでは珍しくボンネットがキッチリと見える。車幅や先端の位置も分かりやすい。サイドウインドウの下端が低いから、右側のサイドウインドウから顔を出して後ろを振り返ると、後輪が視野に入る。これは視界が優れている証拠で、悪路を走ったり駐車する時も都合が良い。

しかもジムニーは軽自動車のサイズで、最小回転半径は、先代と同じ4.8mに収まる。小型車のジムニーシエラでも4.9mだ。SUVでは小回り性能と取りまわし性が抜群に良く、道幅の狭い林道などに適する。

視界で唯一気になったのは、リアゲートに装着されたスペアタイヤの上端部分が、真後ろの視界を削いでいることだ。新型ではリアナンバープレートの配置が変わり、先代型に比べるとスペアタイヤが少し持ち上がって視界に悪影響を与えた。

1リッタークラスのノーマルエンジンを積んでいる感覚で運転できる

軽自動車のジムニーが搭載するエンジンは、直列3気筒658ccのターボだ。トランスミッションは4速ATと5速MTを設定して、試乗車は後者を装着する最上級のXCであった。

動力性能は最高出力が64馬力(6000回転)、最大トルクは9.8kg-m(3500回転)になる。2000回転以下ではターボの過給効果が薄れて駆動力が落ち込むが、軽自動車のジムニーはギヤ比がローギヤードだから、ターボの特性をあまり感じない。2500回転付近から過給が本格的に行われ、吹き上がりも良好だ。1リッタークラスのノーマルエンジンを積んでいる感覚で運転できる。

5速MTの操作性も良い。シフトレバーのストローク(前後左右に動く範囲)が適度で、各ギヤの入り方も滑らかだ。

なお先代型は、2004年の一部改良で、レバー式だった2WDと4WDの切り換え機能をスイッチ式に変更した。新型ではこれを再びレバー式に戻している。理由はスイッチ式の評判が良くなかったためだ。開発者は「レバー式であれば、操作した時に手応えがあるから、2WDと4WDの切り換えを実感できる。スイッチでは分かりにくく、レバー式を希望するお客様が多かったから元に戻した」という。

軽自動車サイズでも、本格オフロードSUVの柔軟な乗り心地が味わえる

新型ジムニーの走行安定性だが、ラダーフレームの刷新などによって大幅に向上した。まずカーブの手前でハンドルを切り込んだ時の反応が、先代型に比べると正確になっている。先代型ジムニーは反応が鈍めで、昔風にいえばハンドルのアソビ(ハンドルを動かしても前輪の角度が変わらない不感部分)が大きかった。そのためにカーブの手前でハンドルを若干早いタイミングで切り込む操作をしないと旋回軌跡が外側へ膨らみやすかったが、新型は普通に操舵できる。

ステアリングシステムは、悪路走行時の操作性を考えて先代型と同じボール・ナット式だから、今でも鈍さは残るが、違和感はかなり薄れた。

峠道に乗り入れると、新型は軽自動車サイズで重心の高いSUVなのに、車両が操舵角に合わせて回り込む。これはメリットだが、不用意な操作をすると、後輪の接地性が削がれやすい場面も生じた。先代型は車両全体の動きが鈍めで曲がりにくく、挙動も乱れにくかったが、新型では旋回速度が高まったことで従来とは違う注意点もある。それでも安定性は大幅に高まった。

乗り心地は、床面が振動する印象はあるが、悪路向けのSUVらしくサスペンションがゆったりと伸縮する。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は先代型と同じ2250mmで短いが、ボディが前後方向に揺すられるピッチングは抑えられた。軽自動車のサイズでも、本格的なオフロードSUVの柔軟な乗り心地を味わえる。

新型ジムニーで悪路を試乗!

新型ジムニーでは悪路のコースも走った。4WDの切り換えレバーを4L(4輪駆動で副変速機はローレンジ)にシフトすると、自動的にESP(横滑り防止装置)がキャンセルされ、アクセル操作による駆動力のコントロールが容易になる。

ホイールが空転した時は、ブレーキLSDトラクションコントロールが作動して、空転したホイールに自動的にブレーキを作動させる。制動することで駆動力の伝達効率を確保する仕組みだ。

サスペンションは前述のように柔軟に伸縮するから、4Lを選ぶと相当に条件の悪い場所でも走破できる。デコボコの激しい滑りやすい路面でも、確実に走り抜ける。

悪路の急な下り坂では、ヒルディセントコントロールを試した。エンジンの出力と4輪のブレーキが自動調節され、安定して下れるからドライバーはハンドル操作に集中できる。このようにオフロードコースをごく普通に走ることができた。

新型シエラは軽快感が少し薄れる代わりに、重厚感と安定性が高まる

一方、小型車サイズのジムニーシエラは、上級に位置するJCの4速AT仕様を試乗した。エンジンは直列4気筒1.5リッターだから、先代型の1.3リッターに比べても動力性能が高まり、最高出力は102馬力(6000回転)、最大トルクは13.3kg-m(4000回転)になる。軽自動車の新型ジムニーに比べると、最高出力は1.6倍、最大トルクは1.4倍で、実用回転域の駆動力を高めたから余裕を感じる。

発進直後から駆動力に余裕があり、4000回転を超えると吹き上がりも活発になって、ATは5300回転でシフトアップした。扱いやすく、エンジンを回す楽しさも味わえる。

走行安定性や操舵した時の印象は基本的に新型ジムニーと同じだが、新型ジムニーシエラは軽快感が少し薄れる代わりに、重厚感と安定性が高まる。カーブを曲がる時のタイヤのグリップ性能も少し向上した。

乗り心地は硬めだが、新型ジムニーに比べるとタイヤのボリューム感が増して、路上のデコボコを柔軟に受け止める感覚がある。

トレッド(左右のホイールの間隔)は、新型ジムニーの前輪が1265mm、後輪が1275mm。新型ジムニーシエラは小型車サイズだから、1395mm・1405mmに拡幅された。

試乗車に装着されていたタイヤは、すべてブリヂストン・デューラーH/Tで、サイズは新型ジムニーが16インチ(175/80R16)だ。指定空気圧は前輪が160kPa、後輪は180kPaになる。新型ジムニーシエラは15インチ(195/80R15)で、指定空気圧は前後輪ともに180kPaであった。トレッドの数値とタイヤサイズの違いにより、新型ジムニーシエラは走行安定性と乗り心地で有利になる。新型ジムニーは50kgほど軽いボディと相まって、軽快な運転感覚を特徴としている。

WLTCモード燃費は、新型ジムニーの4速ATが13.2km/Lで、5速MTが16.2km/L。新型ジムニーシエラは13.6km/L・15.0km/Lだ。4速ATについては、新型ジムニーシエラの数値が少し優れる。車両重量とエンジン排気量のバランスによる負荷の違い、ギヤ比の差などが影響した。

それにしても新型ジムニーと新型ジムニーシエラはアイドリングストップを採用せず、ATも高効率なCVT(無段変速AT)ではなく、トルクコンバーター式の4速だ。悪路の走破に重点を置いた結果ではあるが、燃費数値はかなり悪い。環境性能の改善は、今後の課題になっている。

3ドアボディのSUVクーペと考えれば居住性に不満なし

内装にも触れておきたい。新型ジムニーと新型ジムニーシエラでは、ボディサイズは異なるが、車内の広さや造りは基本的に共通だ。

インパネは水平基調のデザインで視認性と操作性が良い。インパネの表面部分には、一般的には「革シボ」と呼ばれる光沢を伴った革風の処理を施すが、新型ジムニーと新型ジムニーシエラはこれを採用していない。反射を抑えてキズが目立ちにくくしている。開発者は「本物指向のクルマだから、(模造品の)革シボは採用しなかった。このインパネは機能的にも優れている」という。

前席はサポート性が良い。サイズに余裕があり、肩まわりまで確実に支える。特に腰の当たる背もたれの下側は入念に造り込まれ、欧州車に似た支え方をする。新型ジムニーと新型ジムニーシエラは、価格が比較的安いクルマだが、前席は上質だ。

新型は先代型に比べて前後に座る乗員同士のヒップポイント間隔を40mm広げたが、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ半分程度だ。かなり窮屈だが、後席に座る乗員の足が前席の下に収まり、座面のボリューム感は相応に確保したから、短距離の移動に限るなら4名乗車も可能だ。

そもそもジムニーとジムニーシエラは3ドアボディだから、SUVのクーペともいえるだろう。そこを考えれば居住性に不満はない。

ウワサの5ドア版 ジムニーシエラ・ロングは発売されるのか!?

それでもファミリー向けには、ジムニーシエラのホイールベースを300mm、全長を350mmほど伸ばした5ドアボディがあると喜ばれると思う。開発者も「初代エスクードノマドと同程度のサイズになって、実用性の優れたオフロードSUVを開発できるが、その予定は一切ない」とのことであった(残念!)。

新型ジムニー売れ筋グレードは!?

新型ジムニーと新型ジムニーシエラは、燃費や後席の居住性に不満があるものの、悪路の走破力は世界的に見ても最高峰だ。

特に狭く曲がりくねった林道では、抜群の機動力を発揮する。SUVといえば大半が海外向けだが、ジムニーとシエラは、日本のユーザーと向き合っているのも嬉しい。

その上で新型ジムニーは、短距離移動に適する。新型ジムニーシエラは高速道路をしばらく走ってから悪路に乗り入れるような使い方がピッタリだ。

グレードは新型ジムニーが3種類、新型ジムニーシエラは2種類を用意した。ジムニーXG(155万5200円/4速AT)は価格の安さが魅力だが、後席のヘッドレストや電動格納式ドアミラーを省いたので、一般的な選択ではない。従ってXLの緊急自動ブレーキなどを備えたセーフティサポート装着車(172万1520円/4速AT)、あるいは安全装備を含めて装備を充実させたXC(184万1400円)を選ぶ。

XCでは、XL・セーフティサポート装着車に約12万円を加えると、LEDヘッドランプや16インチアルミホイールなどが加わる。これらの上級装備が欲しい時は、XCを選ぶと買い得だ。不要な場合はXL・セーフティサポート装着車で十分だろう。

新型ジムニーシエラは2グレードで、ジムニーXLに相当するJL、XCに相当するJCを用意した。価格は1気筒/802ccと外装パーツなどの充実で、17万8200円の上乗せだ。割安感を競えば軽自動車のジムニーが勝るが、高速道路における動力性能と安定性ではジムニーシエラが明らかに有利になる。使い方や運転感覚の好みに応じて選びたい。

[Text:渡辺 陽一郎/Photo:島村 栄二]

新型ジムニー/新型ジムニーシエラの主要スペック

新型ジムニー XC(5MT)新型ジムニーシエラ JC(4AT)

全長

3395mm

3550mm

全幅

1475mm

1645mm

全高

1725mm

1795mm

ホイールベース

2250mm

2250mm

エンジン

水冷4サイクル
直列3気筒インタークーラーターボ

水冷4サイクル直列4気筒

排気量

0.658cc

1.460cc

最高出力

47kW(64PS)/6000rpm

75kW(102PS)/6000rpm

最大トルク

96Nm(9.8kgm)/3500rpm

130Nm(13.3kgm)/4000rpm

トランスミッション

5MT

4AT

駆動方式

パートタイム4WD

パートタイム4WD

価格(消費税込)

1,744,200万円

2,019,600万円

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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