東急がたまプラーザ⇒渋谷駅行きの“高級”高速通勤バスを運行する理由[“モビリティの世界” Vol.8]

  • 筆者: 楠田 悦子
  • カメラマン:楠田 悦子・東京急行電鉄

超高齢化社会に向け地域の足の確保は|東急郊外型MaaSの実証実験はじまる

運転免許を持たない高齢者は、80歳以上の約8割、75~79歳の約6割、70~74歳の約4割、65~69歳で約2割(平成28度内閣府)。高齢者、学生などが困らず生活するためには、何らかのモビリティシステムが必要になります。これまでそのシステム創りは非常に難解だとされてきました。

しかしそのモビリティシステムで「革命」が起きようとしています。IoTやAIなどで一つ一つのサービスやそのための車両が、「こんなのあったらいいよね」という発想で、すでにある技術を組み合わせて自由にサービスや車両を創造できるようになってきているからです。

>>東急郊外型MaaS 多様な地域内サービスを画像でも見てみる[フォトギャラリー]

仕組みが難解な地域内モビリティサービス

これまでの地域内の移動手段は、クルマを持たない人が仕事や勉強のため街へ出る通勤・通学者向けに始まり、決まった時間に、決まった路線を、決まった運賃で走る路線バスでまかなってきていました。クルマを持つことが一般的になり、また長寿命の時代を迎え、社会のモビリティニーズは、電車などにも乗らない範囲でのお買い物や通院への移動へと変わってきています。

バスや鉄道以外、もっと身近な地域内モビリティサービスとして、民間会社が走らせるタクシー、そして赤字経営のため民間のバス会社などが運行困難になり生じた交通空白地域・不便地域、その解消などを図るため自治体などが主体となって協議会を開き計画するコミュニティバスや、決められた区域を利用者の需要に応じて走るルートを変えるオンデマンド交通などが検討されてきましたが、一部の成功事例を除き、うまくいっていないのが実情です。

最もパーソナルなモビリティのひとつであるタクシーは料金が高く、大都市を除くとタクシー会社すらないところもあります。コミュニティバスも、地域住民の声をくんで自治体が導入を検討しても結局あまり乗ってもらえなかったりします。オンデマンド交通は、事前の予約が必要で乗りたい時に乗れなかったり、バスやタクシーより安いと思って導入したはずなのに、1人の利用者を送迎するのにかかるコストが高くなってしまったりしていました。

そもそも地域内モビリティサービスは、ほとんど高齢者を対象とするものになってしまいがちで、他の層を取り組むことが難しかったりもします。

IoTやAIの進歩で地域内モビリティにも変化が

そんな地域の中のモビリティサービスや車両に「革命」が起きようとしています。

ライドシェア、自転車シェア、カーシェアをはじめとするシェアリングエコノミー、どのあたりを走ると利用者が見つかるか分かるシステム、スマートフォンを使って「乗りたい時に乗れる」タクシーや乗り合いオンデマンド交通、オンデマンド交通用につくられた車両、ちょっと乗り心地やパーソナルな空間を重視したハイグレード車両、小回りが利くパーソナルモビリティなど、世界中で発想豊かなものが生まれています。

さらには、地域の暮らしや社会を持続的なものにする目標を掲げながら、既存の公共交通や最近登場したいろいろなモビリティサービスを組み合わせて最適ものを選んでくれるモビリティサービス(モビリティ・アズ・サービス、MaaS)まで進化しています。

自動車メーカーもIoT時代にクルマも携帯電話やPC のようにデバイスとなりいろいろなサービスとプラットフォームで融合する動向に備えて動いています。例えば、ドイツのフォルクスワーゲングループはMOIA(モイア)というブランドを立ち上げて、オンデマンド交通用のアプリとハイクラスの専用車両をつくり、ハンブルクなどの自治体と一緒になって、バスでもタクシーでもない地域内移動サービスの実現に挑んでいます。

前置きが長くなりました。このようなモビリティ・アズ・サービスを使って、地域の暮らしの再構築を挑んでいるのが東急や小田急などの大手私鉄グループです。

>>自動運転バスの実証実験が江の島でスタート![小田急での事例]

東急・美しが丘の郊外型MaaSは3つのサービスを用意

例えば東京急行電鉄(東急)は、開発60年が経った田園都市沿線の人気タウン「たまプラーザ駅」を最寄駅とする美しが丘(神奈川県横浜市青葉区)を舞台に、1.パーソナルモビリティ、2.オンデマンド交通、3.ハイグレード通勤バスの実証実験をそれぞれ2019年1月23日~3月20日の期間で始めました。

美しが丘はその名の通り、山の稜線の上にある美しい景観で知られる人気の住宅街です。しかし山ゆえに坂が多く、若いころなら自転車ですいすい駆け上れたかもしれませんが、住民の多くが街とともに歳を重ねています。私も現地をクルマで回ったのですが、かなり急なアップダウンが街の中にあり、これはクルマが運転できなくなると住みづらくなるだろうなと感じました。

1.ホンダの超小型電気自動車を用いたパーソナルモビリティ

パーソナルモビリティの実証実験は、ホンダの超小型モビリティ“MC-β(エムシー ベーター)”1台を使用。地域住民14名のモニターに2019年2月20日~3月20日(予定)まで、利用形態の分析のために乗ってもらいます。

小回りが利き女性でも運転しやすい超小型電気自動車なので、買い物などにも気軽に利用されそう。実証実験ですから、限られた期間でいかに多くの事例を集めるかは、とても重要なミッション。ましてや坂の多い街ですから、かなりの稼働率になることが予想されます。

2.オンデマンド交通は10人乗りハイエースを使用

オンデマンド交通は、株式会社未来シェア(Mirai Share)のAIシステムを使っています。美しが丘エリアの中に乗降場所を17か所設置し、コミュニティバスの用に回りながら、利用者からリクエストがあると、ルートを変えて、迎えに行くというかたちです。利用者がスマートフォンで自分が「乗る」場所と「降りる」場所を指定すると、幾人かのリクエストをAIがヒトに代わり考えてくれるので、ドライバーはAIが教えてくれる場所へ利用者を迎えに行くというシンプルな内容です。実証実験は会社員をメインとした20~70代、参加者数は52名。

未来シェアのAIシステムは実績があり、北海道函館市、愛知県名古屋市、群馬県太田市など全国でも実績があります。実証実験の段階ですが、技術的には十分実用に耐えうる段階にきています。システムの導入費用はエリアの広さ、車両台数、利用者数によって異なるようです。スマートフォンの使えない高齢者のために、コールセンターでの対応も可能です。

筆者もアプリを使ってみましたが、アプリで乗り場が“見える化”されていて、バスより柔軟に乗れるので、スマホに馴染みがない高齢者以外なら、ほぼ全世代で愛されるサービスになると感じました。

また人の代わりにAIが最適なコースを選定してくれるので、運行管理にかかる費用の削減やミスマッチを防ぎ、乗車率のアップにもつながると思いました。コミュニティバスやオンデマンド交通の導入を検討していたり、乗車率で悩んでいる自治体があれば、このようなテクノロジーがあることを知っておくと後々につながるでしょう。

3.贅沢な3列シートレイアウトのハイグレードバスで夢の快適通勤

ハイグレード通勤バスは、通勤ラッシュを避けて快適に通勤する新たなモビリティサービスとして考案されました。普段は東急バス(東京急行電鉄の100%子会社)でハイグレード観光バスとして使っている3列24名乗りのバス車両を朝の時間だけ活用。東急田園都市線たまプラーザ駅から、東名高速道路、首都高などを経由し、東京都心の渋谷駅を結びます。

これまでも東急バスでは、虹が丘(川崎市麻生区)から渋谷駅へ結ぶ“TOKYU E-Liner”を運行するなど、首都圏でも有数の超混雑路線である東急田園都市線をフォローする通勤高速バスへの取り組みは既に行っていますが、E-Linerは通常の路線バス車両をベースにした補助席付きの高速バス。

首都圏有数の超混雑路線“田園都市線”を使わずハイグレードで余裕の通勤という選択肢

ハイグレード通勤バスでは、ゆったりした3列レイアウトに加えフットレス、トイレ、Wi-Fi、USB充電、ビジネス雑誌、水、毛布など実に手厚いサービスがつくのです。試験運行期間は2019年1月24日~3月20日。

実証で試乗した30代女性は「パソコンで仕事ができた」「妊娠した時に立っての通勤はつらいのでよさそうだ」。40代男性は「普段の電車通勤では押し合いへし合いなのですが、仕事道具をめいっぱい広げて集中できた」と話していました。本運用化への期待も非常に高そうです。

このような特殊な車両を新規で導入するのはかなりのハードルですが、もし早朝に寝ているハイグレード観光バスがあるのなら、このように有効活用するのも一つの手でしょう。

もっと多様なサービスや手段が必要

地域内の暮らしを支える移動のサービスやその移動手段の種類は足りているのでしょうか?

たまプラーザ・美しが丘の事例でもわかるように、地域の成り立ちや地形、商業施設の立地、住民の数は多種多様。今(たまたま)存在するサービスや移動手段だけでは、まかないきれなくなることも生じてくるでしょう。

デジタル化により街の情報、移動手段の情報、人の情報を集めやすくなっています。それを使って、その地域にあったサービスや移動手段がもっともっと生まれ、育てられ、移動の問題が少しでも軽減される時代がやってくるとよいですね。

[筆者:楠田 悦子/撮影:楠田 悦子・東京急行電鉄]

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楠田 悦子
筆者楠田 悦子

「暮らしや社会をより"心豊か"に」をテーマに、新進気鋭のモビリティジャーナリストとして活躍中。 欧州生活、バックパーカー、NGOなどの経験を基に、クルマ、鉄道、バス、自転車、飛行機‥身近な人やモノの移動やその手段の進化に着目。暮らしや社会の問題を考察したり、新たな価値を提案するなど、具体的にアクションをとることがライフワークになった。自動車業界紙、(株)自動車新聞社の記者出身で、モビリティビジネス情報誌「LIGARE」の初代編集長。国や自治体の検討会委員なども務める。記事一覧を見る

監修トクダ トオル (MOTA編集長)

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