ポルシェ ボクスターGTS/ケイマンGTS 試乗レポート/嶋田智之(2/2)
- 筆者: 嶋田 智之
後に一般道や山越えのワインディングルートに舞台を移してから、他車を追い越すときの中間加速などで若干素早さを増しているように感じられたし、登りのコーナーの立ち上がり加速などで“どうせならもうちょっとチカラが欲しい”という贅沢過ぎる想いがあまり頭に浮かばなかったので、アドバンテージは確かに得ているのだと思う。チューンナップ自体がどこかにピークを置くようなものでなく、全域にわたって巧みにパワーとトルクを増幅させてる感じだから、それも“S”との違いを判りにくくさせた要因かも知れない。
むしろハッキリと判って思わずニヤリとしてしまったのは、GTS専用のチューニングが施された標準装備のスポーツエグゾーストだ。911カレラとGT3の違いがそうであるように、明確に抜けがよくて真っ直ぐに伸びていく、高揚感が湧き立つ類のサウンドに変貌しているのだ。これは堪らない。
ハンドリングは相も変わらず感動的なほど絶品だ。ツルシの状態でも素晴らしいというのに、スポーツクロノとPASMのコンビネーションを得ると、その次元がひとつかふたつ優に高くなる。
コーナーへのノーズの入りの良さとリアの追従性。そのときの軽やかなフィール、そして素早さと素直さ、アンダーステア知らずの従順さ。あらゆる曲率のコーナーを苦手とせずに気持よくスピーディに駆け抜けていく様は、もうただそれだけで快感だ。
スポーツクロノのモードを“スポーツ・プラス”にするとコーナーへの侵入や立ち上がりでオーバーステア気味の挙動を見ることもできるが、スロットルを開け続けてステアリングを合わせていくだけで自然に姿勢が収まっていくような、ピタリと決まる気持ちよさがある。しかも一連の動きは極めて判りやすく、不安感がない。素晴らしく従順なシャシーなのだ。
もちろんベクトルが違うから比較することにあまり意味はないし、好みの問題というのも確実にあるけれど、ハンドリングに関しては兄貴分の911をも凌駕するレベルに達してる、と個人的には思う。これほどミドシップレイアウトの持つ基本的な特性をそのままストレートに快感へと結びつけつつ安心感を確保できているスポーツカーというのもそうはない。
というわけで、物凄く好印象だったボクスターGTS/ケイマンGTS。僕としてはシリーズの中のそれぞれイチオシだし、ボクスターやケイマンに高いパフォーマンスを望む人には悩む必要のないチョイスだということもできる。
ひとつ大きな悩みがあるとしたら、ほぼ全ての状況下で絶対的に速くて効率のいい7速PDKを選ぶか、それとも911のそれと較べても抜群に操作感が心地好くて操る楽しさにも満ちている6速MTをチョイスするか、そこに尽きると思う。
ハイ“コスト”パフォーマンスなモデル
さて、ボクスターとケイマンに追加されたGTSは、最も高性能なモデルであり、同時に最も高価なモデルでもある。ボクスターGTSは6速MTが885万円、7速PDKが949万円、ケイマンGTSは同様に915万円に979万円だ。
そこまでパフォーマンスが高くなくてもいいという人であれば、それでも充分に楽しくて気持ちいい“素”のボクスター/ケイマンを選ぶことをオススメするが、けれど考えてみればGTSはだいぶ割安感の強いモデルでもある。
新たにそれぞれのトップグレードへと置かれることになったGTSは、いうまでもなく最もスポーツ性の高められたモデルであり、最も設定上は高価なグレードでありながら、同時にボクスター/ケイマンにハイパフォーマンスを望む人にとっては極めて割安感のある仕様になっているといえる。
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